総務の青山さん
大谷智和
1 4月1日 人事異動
本社フロアへの足取りは思っていたよりも重かった。荷物を運んでいるからという理由もあるが何よりこれからの業務への不安に押しつぶされそうな感覚もあるからだ。
「えっと、俺のデスクは・・・ここか」
但野友則は自分の座るデスクの場所を見つけてそこに荷物を置いた。すると若めの女性が彼に話しかけてきた。
「えっと、君が但野君?」
「あ、はい!」
但野は彼女のネームプレートを見た。「田中由衣」。所属の欄には「中古オンライン課」とある。つまりはこれから自分の上司となる人物だ。
「自分、今月から中古オンライン課所属になりました、但野です!宜しくお願い致します!」
但野は緊張した様子で返した。その様子を見て田中は思わず吹き出してしまった。
「いや固いな。課長の田中です。よろしく」
「はい!よろしくお願いします!」
すると背後から聞き覚えのある声で誰かが話しかけてきた。
「あれ、営業の人はここじゃないよ」
但野は振り返った。やはりというべきか見覚えのある顔である。
「あ、青山さんおはようございます」
総務部の青山由希。所謂メスガキである。
「ちょっと青山さん、今日から私の部下だから」
「あれそうなんですか?まあいいですけど・・・そういえば例の辛気臭い奴はまだ来てないんですか?」
「辛気臭い奴?」
田中は返答に困った。当然である。するとせわしない足音と共に一人の男が姿を現した。
「あ、田中課長おはようございます」
「ああ和田君、真田課長ならもうすぐ来ると思うよ」
「分かりましたありがとうございます、えっとここか」
やってきたのは和田勇樹、但野の先輩である。だが一緒に働いたのは3か月ほどであり、それ以降彼はうつ病を患って休職していたのだ。
「和田さん、お久しぶりです」
「あ、但野!久しぶり!お前今日からここなのか」
「はい。これからよろしくお願いします」
「ああ、よろしく」
そう言って和田は席についた。すると青山が和田に話しかけた。
「おはよう。バカンス楽しかった?」
彼女がそう言うと和田は彼女をにらみつけた。
「てめえ何がバカンスだ。しばくぞメスガキ」
「うわ、復帰早々ハラスメント事案?部長に言いつけよっと」
和田は但野に耳打ちした。
「いいか但野、こいつ面はいいけど性格がこのザマだ。下手なことしたら大原部長に言いつけるとか抜かすから気をつけろよ」
和田は青山にわざと聞こえるように話した。当然青山の耳にも届いている。
「ちょっと和田、後輩に変なこと吹き込まないで」
「俺は事実しか述べない男だぞ。俺は昔から嘘が嫌いだからな」
「へえ・・・じゃあ私のこと好き?」
青山がそう聞くと和田は思わず吹き出した。
「んなわけねえだろ?!誰がお前みたいなメスガキなんざ好きになるんだよ?!彼氏さんがかわいそうだぜ!」
「うわぁ、この人案外性格悪いな」
但野は心の中でそうつぶやいた。無理もない。だが彼の様子を見て少し無理をしているのではないかと但野は勘ぐっていた。
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