傾国妖討伝~妖狐覚醒編~

佐江木 糸歌(さえぎ いとか)

序章~始まりの百鬼夜行~

 世界の中心より東の果て。極東の海に浮かぶ島は日の国ひのくにと称される、妖魔と神が人々と共に住まう最後の秘境だ。

 

 京の町を都とし、人と妖が神秘の中に生きている……。


 日光歴にっこうれき千八百二十四年八月三日。


 今宵、京の都を数刻にて凄惨な焦土へと変貌させた妖の百鬼夜行は、長きにわたるこの国の歴史の中で、大きな転換点となる大事件として後世に語り継がれることは疑いようもない。


 妖たちは彼らの楽園をこの地に実現するため、酒吞童子しゅてんどうじと妻の茨木童子いばらぎどうじを首魁として千の魔軍を形成。人間たちが最後の砦である京の都へ攻めあがった。


 魔軍を迎え撃ち、人の歴史を守らんとするは妖討師ようとうし。人と妖の熾烈な死闘は六刻に及び、開戦より魔軍の優勢が常であったが、その終局。妖でありながら古より中立の立場を貫いてきた最強の妖狐、聖狐宮せいこのみや三姉妹が人間側に味方する。


 それにより形勢は一気に逆転した。


 部下の八割を浄化され、頼みの四天王も封印された酒吞童子と茨木童子は、妖討師たちによる決死の総攻撃に致命的な隙を晒し、そこを突いて妖狐たちは最強の封印術を発動。妖の王は、かくして京の地下深くへ封印されたのである。


 だが、一夜限りの地獄と化した都には怒号と狂笑と悲鳴が入り乱れた。妖討師たちの働きは凄まじく、数多の妖が浄化されたが、それに勝るとも劣らぬ数の人命が都を焼き尽くす業火によって灰と消え、都は燃え尽きた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る