婚約破棄された悪役令嬢が行きついたのはゴースト溢れるおんぼろ屋敷!? 自分を陥れた連中を見返すために、全員まとめて仲間にしてやるわ!
熊
第1話
魔力照明の光が私の目に映った。
綺麗な光だ。流石は王太子が主催するパーティか。次なる国を背負う人間としての威光に負けず劣らずの豪華絢爛をもって、世界が光り輝いている。
並べられた食事は舌の肥えた富豪のために。
着飾られたドレスは目の肥えた貴族のために。
立ち行く品性は自らの権力のため。
咲き誇る花々のように色に溢れたパーティ会場。その中でも、ひときわ凛と咲いた高貴な花が、誰よりも偉大なる声をもって、会場のすべてへと声を発した。
「この場を借りて皆様にお伝えしたいことがあります」
アルベルト・ベル・ベレントール。
誰もが知る、王太子。
そして彼は、私――アッツェアラ伯爵の令嬢であるカレア・アッツェアラの婚約者。
婚約が決定したのはちょうど十年前のことだ。
大国ベレントールに置いて最も力を持つアッツェアラ伯爵家と王家の繋がりを強く保つために定められた婚約だった。
それから10年。
婚約者として、私は彼に相応しいふるまいをしてきた。
けれど。
壇上に上がる彼の姿を見て、どこか計り知れない不安が私の頭に過る。
彼は何を口にするつもり?
その疑問が、絶望へと変わるのに、そう時間はかからなかった。
「この場をもって私は、アッツェアラ伯爵令嬢との婚約を破棄する!」
私は息を呑んだ。
「あ、アルベルト! なんで……なんでそんなことを言うの……!!」
彼の言った婚約破棄の言葉を私は整理しきれない。けれど、ここで何かを言わなければ、終わってしまう。
彼のためにささげてきた10年が。
お父様に申し付けられた、私の生きる意味が。
人生が。
こんなところで――
「なんで、だって? 不思議なことを言うね、カレア」
アルベルトが私の名前を呼んだ。
それと同時に、壇上に立つ彼へと、見覚えのある女が縋り付く。
あの子は確か、平民上がりの――
「カレア! 君がテレジアにしたことはわかっている!」
私からテレジアを守るように、アルベルトは彼女を抱き寄せた。
その行為に、テレジアの顔に笑みが浮かんだ。
その笑みへと、私は尋ねる。
「私が何をしたというのです!」
「言い訳は無用だ!! かのアッツェアラ伯爵家の名に泥を塗る大罪人に、王妃としての資格はない!! 二度と私の前にその顔を見せるな!!」
アルベルトは、その言葉と共に私の方へと何かを放った。
それは、婚約者の証であった指輪だ。
それが、私の前に投げ捨てられ――踏み砕かれた。
それが、アルベルトの答え。
婚約者としてあなたに相応しくあれとすべてを捧げた私の終わり。
「は、ははっ……」
すべてが、終わった。
お父様はこのことを絶対に許さない。王族との婚約。千載一遇のチャンスをふいにした私を決して許すことはないだろう。
私は今、全てを失った――
――やっべ、どうしよこれ。
改めて、私はカレア・アッツェアラ――に、転生した26歳OLだ。
転生……そう、転生だ。
元の名前は
日本生まれ純国産の大和撫子。そんな私が、今日も今日とてお気に入りの恋愛シミュレーションゲーム『魔法学園プリズマリリィ』をプレイしながら寝落ちしたら、いつの間にかゲームの中のキャラクターに転生していた!
は、いいのだけれど。
よりにもよって、私が転生したのは悪役令嬢のカレア・アッツェアラだった。
まあしょっぱなから最推しのアルベルト王子と婚約者ってのは全然、悪くないのだけれど――コホンッ!
でも、そんな立場に甘えている暇はない。何せ私は悪役令嬢。いずれ正ヒロインによって打倒され、転落人生を送ることが決まった敵役なのだから。
だから私は、正ヒロインこと、テレジア・ローレライに負けぬように奮闘した。魔法を磨き、品性を学んで、アルベルト王子に相応しい女性となるべく――けれどそれもすべてがうまく行かない。
すべてが既定路線だったかのように、私は崖際に追い詰められていた。
おかしい。
そう思ったけど、全ては手遅れ。
もともとゲームでのカレアは、誰も寄せ付けない孤高の令嬢。
彼女の父親であるアッツェアラ伯爵は先の大戦で活躍した英雄であり、国の軍部に強い影響力を持っていた。そこで、伯爵家の反乱を恐れた王族と、権威を高めたい伯爵の思惑によって、カレアとアルベルト王子の婚約は成立した。
そこに現れたのが、テレジア・ローレライという少女。別名『蒼穹の巫女』と呼ばれる彼女は、青空のように深く、透き通った魔力を持った天才だった。
その実力を認められ、カレアたちが通う魔法学園への入学が認められた。
すべての歯車が狂い始めた瞬間だ。
平民から魔法学園へと入学したテレジアへと向けられる視線はあまりにも苛烈なものだった。けれど彼女は、そのすべての評価を覆し、今王太子の隣にいる。
あそこにいるはずだった、カレアを蹴落として。
……いや、当然の結末か。
魔法学園で頭角を現していたテレジアを最も疎んでいたのは、アッツェアラ派閥と呼ばれるグループだ。
カレア自身は、テレジアのことを何とも思っていない。彼女にとって、周囲の評判など二の次でしかなかったから。しかし、アッツェアラ派閥に付く生徒は違った。
次期王妃であり、学園内で有数の実力者であったカレアの取り巻きたちにとって、強力な魔力を持つテレジアはあまりにも目障りな存在だったのだ。
だからアッツェアラ派閥による嫌がらせは日に日に激化していった。それでもテレジアはめげることなく魔法を学び、ついには学園の実力者にまで上り詰めた。
そして、それまでテレジアに否定的だった生徒たちの評価は一変する。なにせテレジアは、アッツェアラ派閥の蛮行を見かねた王太子と、密かにその距離を縮めていたのだから。
そして、学園内での立場を悪くしたアッツェアラ派閥の生徒たちは、そのすべての罪をカレアの仕業に仕立て上げた。
孤高の令嬢は一転して、学園に巣食う悪として祭り上げられたのである。
けれどカレアは、信じていた。
この10年間。アルベルト王子に相応しい人間になるためにすべてを捧げてきた自分が、裏切られるはずはないと――
その結果が、パーティで行われた婚約破棄の一幕だ。
私がカレアに転生したのは、ゲーム中盤。アッツェアラ派閥とテレジアの戦いが激化し、それを見かねたアルベルト王子が仲裁に入ったあたりだ。
ここから本格的にアルベルト王子とテレジアの関係は始まるけれど、ゲーム内のカレアはそれを放置する。けれどそれが破滅ルートに繋がっているのだから、私は全力で破滅を回避しようとテレジアとの和解を模索した。
けれど私はカレア・アッツェアラ。派閥の長であり、テレジアと和解するどころか、彼女の敵として多くの生徒に疎まれ、まともに動くことすらできなかった。
そして最後は、味方であったはずのアッツェアラ派閥の人間からも裏切られ、テレジアを陥れようとしたすべての罪を着せられた。
いや、味方じゃなかったか。結局、アッツェアラ派閥も未来の権力者に取り入るために集まっただけのハイエナたち。彼女らにとって私は、使えなくなったから捨てただけ。
最初から私に味方なんて誰一人いなかった。
婚約者であったアルベルトさえも――今となっては、私を裏切ったのだから。
いや、一人だけ。
カレアは私で。
私はカレア。
この結末にたどり着くまで、私はカレアと共にここまで歩いてきた。
だから、カレアの苦しみが手に取るようにわかる。
私の精神が彼女の中に入ったのも、いずれ来るこの結末にカレアが耐えることができなかったからなんじゃないだろうか。
すべてを失った悲しみに。
彼女は耐えることができなかった。
だから私が代わりに。
このすべての絶望を請け負おう。
それが最後に残ったただ一人の彼女の味方として、私にできることだから――
これは、私たちの復讐劇だ。
破滅へと転落した先で。
百鬼を率いて、夜行を果たし、来る夜明けを迎える。
私を見捨てたすべてに復讐するために。
これはその、始まりだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます