エルファニア滞在期・中

寝不足。

結局、なんだか眠れないまま朝を迎えた。


傷が癒えてきた俺は、まだ退院はできないものの、付き添いアリでなら外出許可が出るようになった。


でまぁ……結局退院まで確実に面倒見に来る気でいる彼女らについては、もう気にしないことにしている。


まぁあんな美人が3人も気にかけてくれてるんだ。一生で最も幸福な時間かもしれないな。



で、俺は今ほぼ強引に連れ出されたわけだが。

いや良いんだよ。別にいいんだけど目的くらい教えてくれるかな。さっきから目的も何も言わずにただ皆に引っ張られて走らされてるんだけど。流石に脇腹痛いよ? 傷跡痛くなってきたよ??



「こっち! こっちですよ!!」


「ほら、早く行くよ!!」


「甲斐性がないのう。おぶってやろう! ほれ、乗るが良い」


「いや……病み上がりだぞ……俺……」


まぁ走れるけどさ。

いやまあ多分、そんな事言ってても普通に走ってるからあまり気にされてないんだよな。病院出た辺りだとまだちょっと気遣ってたもんな。


ただもう30分くらい走ってるから流石に体力が……てかどんだけ遠いんだよ。




「……着いた! 見て、ガンド!!」


彼女らに手を引かれて、連れて来られた先にあったのは─────────。



「……これは」



広がっていたのは、雄大な自然溢れる場所だった。

地平線の彼方まで、豊かな緑が広がっている。

なんだか風が心地よくて、空気が美味しい。


「ここはエルファニア王国で最も広大な地域"グラスワールド"。"地王"ハート・ソンニャトーレが収めているの。私たちの"五十の辻"は、この地域に拠点を置かせてもらっているわ」


「……綺麗な所だな。とても」


「そう? 気に入ってもらえたなら良かった」



「すごいじゃろ? わしも最初に見た時は驚いたぞ」


「帝国では見ない景色だったもので。つい興奮してしまいました」



なんだコイツら。

ってことはさ? 興奮して、俺に見せたくて、あんなに急いでたって事だろ……?

めちゃくちゃ可愛いじゃねえか。


俺はフェターリアとトレイルの頭を両手を使って、目一杯撫でた。わしゃわしゃと。

で、その後瞳の頭も軽く撫でてやった。


「ありがとう。……しっかし、良い眺めだなー」



その後、暫くの間、何故か沈黙していたのだった。





「ガンド……実はさ。ただ、見せるためだけに来たわけじゃないんだ」


「ん?」


「あのね? まだ答えは決めてないと思うけど、例えばガンド達は私たちのギルドと統合して、1つのギルドになる事になるとするじゃない? そうなると当然、元のギルドの面々で固まって行動するよね」


「ああ」


「私たちのギルドは、そういう風に固まって行動するグループがいくつかあるの。そして、そのグループ毎に、この場所に拠点を持ってるんだよね」


「……つまり、ここでの拠点の場所を決めて欲しいって事か」


「そういう事」



俺は、3人と共にグラスワールドをチョッピリ探検してみる事にした。


どこに行っても緑があって、なんだかのんびりとした場所で。探索していくうちに、ふと、帝国の事を思い出した。


思い返してみればグランデベント帝国という所は、歪な文化にスラムに、少し張り詰めた空気があって、居心地の良い場所では無かったように思う。まるで無理矢理他の国に追いつくために、様々な物を犠牲にしてきたかのようなオーラを感じた。


そしてエルファニア王国……。この国は、都会から田舎まで美しく、そして洗練されている。文化毎にしっかりと敷居が敷かれていたし、自然だってこういうふうに程よく残っている。


……大きな違いを感じる。



「……あー、そういうことか。それでアイツらあんなに……」



トレイルもフェターリアもはしゃいでいた。

彼女らは元々帝国の人間だ。こんなに美味しい空気を吸うのははじめてなのかもしれない。



「……そう、そうか。そうだったのか」




─────────いずれは、フェルバーさんもここへ────────。



「……いや。今は考えないでおこう」


あの人に迷惑をかけるわけにはいかない……。





「……さて」


夕暮れが近づいてきた頃、展望台で俺たちは休憩を取っていた。丘の上にあったハーフティンバー様式のパン屋で買ったパンを食べながら、夕暮れ時の景色を眺めていた。


「……どうだった?」


「……帝国とは、まるで違う世界だ。美しい」


「そう! 良かった」


何やら嬉しそうである。


「……瞳」


「ん?」


「……場所、決めたよ。ただ、今は言わないでおく」


「んん? なんで?」


「……さあ。なんでだろうな」


「はぁ!? 何よそれ〜」





「混ざりに行きますか?」


「今は良い」


「良いのですか? 牽制しなくても」


「良いじゃろ。……ガンドの表情を見てみよ」


「……嬉しそうですね」


「さっきから思っとったが……あやつ、ずぅっと嬉しそうにしとる。……もう、あやつの中では決まっておるのじゃろ。今後の事も、妾らの事も」


「……なるほど」





「まぁ、すぐわかるさ! な!」


「今教えなさいよ〜!!」





───────────────────────



かけがえのない物だと知った。

涙の先の笑顔は、大切なことを教えてくれた。


ああ。人生で一番幸せな時間だったかもな。

──────────いや……違う。



終わらせたくない。

この平和で美しい、幸せな時間を。


世界がどうなろうとも俺の知ったこっちゃないが……。

俺にとって大切な物は、俺がきっと守ってみせる。


お前達は──────────俺が─────────。






退院後。

俺は、3人を、グラスワールドのある丘の上に連れて行った。そこは結構な坂道で、登り切った頃には皆疲れていた。


「……ここまで連れてきた理由は……何?」


「……もしや、ここに……?」


「ああ。……完成したって昨日連絡があってな。速く見せたかったんだ」




そこにあったのは、白や銀を基調とした装飾が似合う、和風の屋敷だった。とても広く、壁に囲まれている。中に入ってみると、庭園があって、とても綺麗に作られていた。



「……これが俺たちの新しい家。"白銀楼しろがねろう"だよ」




俺たちはここから、新しくスタートする。

"五十の辻"と合併し……帝国の闇を暴くのだ。

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