レッドアイ・エン・トリックスター


お礼をもらった後、俺は早々に帰る事にした。瞳はお茶くらいしていけば良いのではと中々に厚かましいことを言っていたので、"五十の辻"に知人がいる事を理由に引きずってでも連れて帰る事にした。


送り迎えはアローネがしてくれると言うのだが、別に電車で帰るからと俺は断ろうと思った。ただ瞳が「いやだ! 電車で立ったまま帰るのしんどい!!」といやに駄々をこねるので、仕方なく送り迎えしてもらう事にした。


あのな、誰だって立ったまま帰るのは嫌だぞ。と心の中で思った。ただ、現世の頃のあの地獄のような通勤時間を思い出すと、まぁ良いかと思ってしまう俺もいたのだった。


で、送り迎えは車だった。あの縦に長ーいタイプのお金持ち専用みたいな車、リムジンであった。黒くてまぁ高級車って感じの豪華な装飾がしてある。


ゴテゴテしていてちょっと乗り心地悪そうにも見えたが、乗ってみればやはり高級車。めちゃくちゃ乗り心地が良かった。しかも速い。景色を見ていたら、あっという間に我王城に着いてしまった。



「ほら、行くぞ」


「……は〜い」


いやそんなあからさまに不機嫌な声出されても……。

このキリッとした巫女服と、仕事の時のスマートな感じと、全く合わないこの歪なだらしなさ、どこかで覚えがあるような気がするな。


リムジンから降りると、待ってましたと言わんばかりにギークが待っていた。そして久方ぶりに見る親友、アンブラと……晴藍がいた。


「……アンブラ!! と、晴藍? なんで?」



ひとまずギークに瞳を預けてから、俺はアンブラと晴藍の方に寄っていった。


「なんで晴藍が来てるんだ?」


「我王様に言われてね。……まぁ、私情もあるけど」


そう言うと、晴藍はアローネの元に駆け寄って行った。


「久しぶり」


「えぇそうね。久しぶり」


2人は楽しそうに談笑を始めていた。

どうやら顔見知り……というか雰囲気的に親友みたいな関係性らしいな。


「なるほどね」




「ガンド」


「ん、どしたアンブラ」


「フェターリア達が待ってるぞ。最近あんまり話してないだろ」


「……そういやここ数日は単独で動いてたしな」


「なんでもいいから、とにかく構ってやれ」


「おう」


俺はアンブラに礼を言い、城内へ入っていくのだった。



─────────────────────────────────


「瞳テメェ、また現場に出てきたのか」


「なによ。悪い?」


「いやわるかねーけどよ。倒れんなよ? 俺らが面倒くさがってやらねぇ事全部やってんだからよ」


「……まぁ、私の仕事はそれだし。別にいいじゃん」


「……よかねーよ。テメェそれで何回体壊してんだよ……。ったく」



─────────────────────────────────



我王城の、俺たちが宿として使わせてもらっているエリアには、皆で集合できる休憩所がある。

皆は、そこで待っていた。


「よう」


軽快に挨拶してみる。トレイルやアンは少しムッとした様子でいたが、俺の声を聴くと笑顔になってこっちに寄ってきた。


「ガンド様、お帰りなさい」


「忘れ去られているのかと思いましたよ??」


「あぁ……ごめんな」


フェターリアは……かなりムッとしていて、俺の方に目を向けてもくれない……。


(まぁ、そりゃそうか)


ここだけの話、フェターリアは年長者にしては、こう、拗ねやすい。

ギルドメンバーと話すときはともかく、それ以外の女性と話したり仲良くしたりすると拗ねる。

毎度機嫌を直してもらうのに苦労するのだ。


まぁ、結構好かれている証なのかもしれない……。


「……フェターリア、留守にしてて悪かった」


「……」


まぁ何回も拗ねてるのを見てるので、対策はしている。


「……お詫びと言っちゃなんだが……美味しそうなスイーツがある喫茶店を見つけたんだ。今から皆で行かないか?」


「なんじゃと!?」


よし、食いついてきたな。

フェターリアは甘い物に目がないから、喫茶店やお菓子屋さんをマークしておいて、お詫びにそこに連れてったりすれば大抵ご機嫌を直してくれるのだ。


余談だが、スイーツとか食べて機嫌を良くしたフェターリアを見るとすごく幸せな気持ちになる。


「よし。もちろん奢るから。好きなだけ食べろ~。アンと、トレイルもな」


「やったー!」


「ありがとうございます」



「で、フェターリア。許してくれるか?」


いつの間にかしがみついてきていたフェターリアに俺はそう言った。


「……ん、許す!」


「ありがとう……ごめんな」



その時。

俺は一瞬、フェターリアから何か黒くて禍々しい物が抜けていくのを見た。

俺とフェターリア達を遠目からニコニコ見ていたアンブラもそれが見えたようで、表情がこわばっていた。


((……今のは、まさか))


今日会っていて良かったと、俺は心の底から思った。




───────────────────────────────────────



その日の夜。

ギークは、我王に謁見していた。


「……実験はうまくいったわね」


「そうみてぇですね、クソ野郎」


「口が悪いねぇ。まぁわかるけどさ。ごめんね」


「まぁこうでもしねーとわかんねえ事だから仕方ねぇとは思いますよ。ただ相手がダチだったから機嫌わりーだけですよ」


「……そうだよね。ぎりぎりどうにかなったから良いけど、一歩間違えたら……」


「……そもそもなんでアイツだったんだ? それに、なんであの吸血鬼はあんなすぐに


「う~ん。あの子ねぇ、昔から打たれ弱いところあるの。だから……ちょっと離して引き戻すくらいでどうにかなるんじゃないかなと」


「……それで怪物化したらどうする気だったんだよ……」


「それはそれで何とかなったと思うよ。ガンド君、あの子の扱いに慣れてるみたいだし」


「そうかよ……。ま、なんにせよこれではっきりしたな」





「「”怪物化”はウイルスだ」」

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