第2話
「難しい」
魔法を学んで一週間程が経った。浮かせるのは簡単にできるようになったけど、庭での訓練は一筋縄じゃ行かなかった。横への移動、作り出した属性を横に発射するのはかなり難しい。
「攻撃魔法の基本は火でやった方が簡単だ。ほら【ファイアアロー】!」
「す、すご~い!」
「ははは、このくらいは基本だ」
丸太をそのまま置いた的に炎の矢を当てるお父さん。魔法名を言ってやる人もいるのか。
でも、見せてもらえたのは大きい。この世界の魔法は想像が大事みたいだからね。魔法の基本である目を瞑って作り出す方法はまさにそれのためだった。
「ん、【ファイアアロー】!」
「!?」
目を瞑ってお父さんのファイアアローを想像する。するとお父さんの魔法の10倍の威力の炎の矢が飛び出して丸太を消し炭にし、白い山まで飛んでいって黒い点を作り出した。
「おいおいおい。エルクは天才かよ!」
「ふふ、だから言ったでしょ~」
二人共嬉しそうに声をあげる。だけど、僕は意識が遠のいて視界が暗くなって行った。
「ん……つめたい。あれ?」
「起きた?」
次に目を覚ますと窓からの明かりが暗くなっていた。お母さんが僕のおでこに濡らした布を置いてくれてた。それだけじゃない。僕はお湯をはる桶に入れられてる。
「お母さん、これは?」
「……炎の精霊さんが印をつけたみたい。しばらく火の魔法は禁止ね」
「精霊? 印?」
本を読みつくしても分からない言葉が出てくる。精霊は知っているけど、印ってなんだ?
「類まれな才能を持っていると精霊に見つかるんだ。そして、自分の眷属にしてしまおうと目をつけて印をつける。印をつけられたものは印の属性となり精霊の世界へと導かれる……」
お父さんが悲しそうに告げてくる。あまり良いことじゃないってことかな。
「初級魔法であるファイアアローがあの威力じゃね」
「ああ、仕方ない。うまく隠せるようになるまでは禁止だな。魔法名を言っての使用も禁止にするぞ」
お母さんの言葉にお父さんが付け加えていく。魔法名を言うのも威力を高める効果があるみたいだな。
「それにしても気絶して良かったぞ。そうじゃなかったら炎の精霊のところに行っちまうところだった」
「え!? そんなことになっちゃうの?」
「ああ、炎に精神を支配されて連れてかれる」
炎の精霊恐ろしいな。
「たぶん魔力を使い果たしてしまったのね」
「枯渇か。まあ、あの威力じゃ仕方ない」
残念そうに俯く二人。僕はいけないことをしてしまったのかな。二人と一緒に僕も俯くと二人は小刻みに体を震わせ始めた。泣かせてしまったかな?
「「天才!」」
「え!?」
泣いていると思ったら声をあげる二人。嬉しそうに二人で抱き合って唇を重ねる。ラブラブな二人は僕へと視線を落とすと水から引き揚げて抱きしめてくれる。濡れるのもお構いなし。
「エルクは天才だ~。流石はメイナの息子~」
「そうね! 流石はディアの子!」
二人は嬉し涙を流して声をあげると一層抱きしめる力を強める。嬉しい痛みに僕は声をもらすけどお構いなし。
「よ~し! 明日からは体も鍛えていくぞエルク!」
「え!?」
お父さんが声をあげて力こぶを見せる。
「それなら食事もいいものを作らないと食材はまかせたわよ!」
「おうさ! 鍛えるついでにダンジョンで稼いでくるぜ!」
お母さんの声に答えるお父さん。
ということであれから次の日。連峰の山のふもとまでやってきた。2キロくらい歩いてきたかな。真っ直ぐと歩いてきたけど、この体じゃきついな~。
「はぁはぁ。お父さん、まだですか?」
「ははは、疲れたか。もうすぐだぞ」
森へと入って草をかき分けて進んでいくお父さん。その声と共に拓けた大地が現れて中央に大きな口を開いた洞窟が見える。祠かな?
「あれがダンジョンだ。魔物が無限に生まれてくる」
「え? そんな危険なものに入るんですか?」
無限に魔物が出るって危険なんじゃ?
「間引きしていけば安全に管理できる。ダンジョンは無限に魔物を生むが、魔物を生むために必要な魔力は無限じゃない。ちゃんと数を減らしておけば手に負えない程じゃないんだ」
「そうなんですね」
「ああ、逆に利用して町の観光名所にしてるところもある。うちもその口だな。魔物を倒したときに落とす食材や鉱物を利用してるってわけだ」
なるほど、無限に資源が得られるってわけね。それなら少し危険でもやる価値はあるかな。
「ということで入るぞ。剣は持ってるよな?」
「は、はい」
腰に差した剣を互いに見せ合うと頷いて洞窟に入って行く。中に入る瞬間、水に入るような感覚に襲われる。少し進むと水から出るような感覚が来ると驚きの光景が広がる。
「お城?」
城のような建物が目の前に現れた。確かに洞窟に入ったはずなのに。
「ダンジョンは色んな舞台が作られる。このダンジョンは城だ。魔物も城に由来したものが多く出てくる。ロウソクの魔物や鎧の魔物、主に物質系の魔物だ」
なるほど、色んな魔物がいるんだな~。
「おっと、早速おいでだ」
「コフー」
城の前に並んでいた鎧が近づいてくる。息が荒い鎧はお父さんに切りかかる。
「見ているんだぞエルク」
「は、はい」
鎧の剣を受け流していくお父さん。攻撃は結構早いように感じるけど、お父さんは踊っているように戦っていく。
「こいつは胴体に寄生してるやつが本体だ。だから、首を外して背中を開く。この目玉を刺せば殺せる」
鎧の魔物は分解しないと倒せないのか。結構強い魔物なんじゃ?
「魔法を使えば簡単だ。【ファイアアロー】ほらな」
城の前に並んでいた鎧が全部魔物だったみたいだ。魔法が当たった鎧は少しするとバラバラになって倒れていく。
「土の魔法以外の魔法を胴体に当てれば中の本体までダメージが通る。奴のHPは子供よりも弱い、水をかけられただけでも死ぬから訓練にピッタリだ。ということでやってみろ」
「ええ!?」
初めての魔物がこんなに強そうな魔物!? 普通に怖いんだけど。
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