第1.5話 幸せな日常を 3

「離しちゃだめだからね?」

「わかったー」


 あ、これわかってないやつー。


「いい? 絶対に、メッ! だからね?」

「もうわかったってー、早く回してよー」


 本当にわかっているのだろうか?

 この遊具、楓ちゃんが思っている十倍以上は危険な遊具なんだぞ?


 まあ、いつまでも回してあげないのもかわいそうなので、ゆっくり回していく。


 球体で、中が空洞。そして、網目状に掴み手があるため、めっちゃ中が見える。んで、ぐるぐる回転させることができてしまう。回す人と回される人の両方が必要だ。この遊具の名前を私は知らない。ていうか、知ろうと思ったことないし、これからも思うことはないだろうなぁ。


 小さい頃はこの遊具を使ってよく遊んだものだ。今から考えると、子供だけで遊ぶにはとても恐ろしい遊具ではあるのだけれど、それでもすごく楽しかった。なんか、これ、大人の目があるところで遊ばないと怪我するタイプの遊具だよね。だって、これを思いっきり回すことで真価を発揮する遊具だよ? てことはさ、少しでも掴み手を離したら吹き飛ばされちゃうわけさ。


 え? やっぱりこの遊具で遊ぶのやめた方が……。


「もう! あやちゃんおそい!」


 かえでちゃんがぐるぐる遊具から飛び降りる。

 私、まだ回しているのに大丈夫!?


「よっと」


 シュタッ! と地面にきれいに着地したかえでちゃん。

 おいおいおい……運動神経が良すぎませんか……?


「おそい! 私が回す! あやちゃん入って!」

「え、私……重いよ?」

「いいの! 早く!」

「わ、わかったよう……」


 言われるがまま、されるがまま、私はぐるぐる遊具に入る。


 ギシギシ……ミシミシ……。


 あのさ……私が遊具に触れるたび、音が鳴るの……どうにかなりません?

 すごーく、心が傷つくんですけども。


「わたしがお手本を見せてあげる!」

「はーい」

「いくよー! ふん!」


 動かない。


「あれ? ふん!」


 されども動かない。


「……」

「……」


 沈黙が下りる。

 ちょっとこっちに顔を向けるかえでちゃんである。


 そんな「どうしよう……」みたいな顔をされても困ります、お客様。


「なんか、ごめんなさい」

「謝らないでよ~! 余計に傷つくじゃ~ん!」


 仕方がないので、あと二つぐらいの遊具で遊ぶことにした。

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