第5話

 屈辱的な瞬殺劇。

 私はモニターの前でしばらく笑い転げていた。


 はぁ……はぁ……。


 ぷっ……あはははは……はぁ。


「少しだけ休憩……胃薬も飲まないと……」


 と席を外したのが間違いだった!


 ほんの三十分くらいのことだったのに!


 席に戻り、モニターに目をやると……あれ?

 二人の姿が映ってない!?砂嵐状態になってる!


 (えぇ!?な、何があった!?)


 まさか、あの転生者さんにトドメでも刺されたとか!?

 いやいや、さすがにそれは……。

 でもあの人、結構ドライだったし……!


 私は慌ててシステムログを確認!


 そこに表示されていたのは!


【対象者:矢沢ヒロト、加納トシオ、立花郷フローリアより強制退去措置発動。転送座標不定】


 ……きょ、強制退去!?

 街を追放BANされたってこと!?


 あの短時間で!?


 何をやらかしたらそんなことになるの!?


 パニックになりながらも、私は必死で彼らの転送先を探し始めた。

 担当者が行方不明なんてことになったら、私、協会からどんな処分を受けるか……!


 胃が痛い!


* * *


 協会システムを駆使し、ようやく二人の微弱な反応をキャッチ!


 よかった、生きてはいるみたい!


 でも、転送先の座標を見て、私は再び絶句した。

 表示された地名は……『トツカ・ハーバー』!?


(協会データベースでも要注意エリアに指定されている、あの治安最悪のスラム街!?なんでよりによってそんな場所に!)


 モニター映像を切り替えると、ゴミが散乱し、ドブの臭いが漂ってきそうな、薄汚い路地裏。

 そして、ボロボロになった二人の姿。


 ゴロツキ数人に囲まれて、完全に詰められている。

 

 トランクス一丁で正座!

 リーゼントは鳥の巣!

 学ラン破れてるし、顔にアザ!


 ヒロトさんなんか、目の上にコブができて完全に片目がふさがってる!


 よ、よりによってこんな場所に飛ばされて、しかも、速攻でボコられてるし!?

 なんでこの人たち、行く先々でこうなるの!?

 私は、あまりの展開の速さと酷さに、もはや言葉も出なかった。


 ツッコミを入れる気力もない……。


* * *


 フローリアでの大失敗。

 転生者への絡み。瞬殺。

 そして、スラム街への転落。

 顔ボコボコ……。


 無理だ。

 私の手には負えない。


 この人たちは、異世界とか転生とか、そういう次元の問題じゃない。


 根本的にダメ!ダメダメなんだ!ダメすぎる!


 (知りません!もう知りませんから!私だって忙しいんです!他にも担当はいるんです!こんなの面倒、見てられません!勝手にすればいい!)


 私の心の中で、何かがプツンと音を立てて切れた。


 ……。


 もう関わるのはやめよう。


 最低限の生存確認だけして、あとは放置だ、放置!知らんぷり!


 協会への報告?


 「現地に馴染み、元気にやっているようです。てへっ♡」とでも言っとけばいい!


 (え……と、バレたら……その時考えよう!多分バレない!)


 私は悪くない。ぜんぶ協会のせい。

 責任転嫁、上等。


 そう決意すると、不思議と少しだけ気分が軽くなった気がした。


 とはいえ、担当者として最低限の義務はある。

 このまま彼らが野垂れ死んだら、後味が悪いし、監査でバレたら面倒だ。


 (仕方ない……本当に最低限だけ……これっきりなんだからね!)


 私はモニターで彼らがいる路地裏を確認し、近くの情報屋NPCに「あの廃屋なら雨風しのげるぜ!」と、それとなく呟かせるよう指示を出した。


 (よし、これで仕事は終わり!あとは知りません!絶対に見ませんから!)


 私はモニターの電源をプツリと切った!


 (本当はダメだけど、もう知らない!)


 見ない!聞かない!関わらない!これが一番!


 お気に入りのハーブティーを淹れよう。

 この悪夢のことは、さっさと忘れてしまおう。

 そうだ、そうしよう。


 あーあ!なんで私がこんな目に!


 女神だって楽じゃない!

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