【完結】転生貴族の『力任せ』英雄譚 ~パワーこそ正義! 剣も魔法も棍棒でぶっ飛ばします~

シマセイ

第1話 ギフトは「力任せ」? パワーこそ正義!

俺、マッスル・フォン・バルバロスは、物心ついた頃から妙な既視感……いや、ハッキリとした記憶があった。


前世の記憶だ。


日本のどこにでもいる、ちょっとゲーム好きの男子高校生だった俺は、ある日、トラックに盛大に轢かれ……気づけばファンタジーな世界に赤ん坊として転生していた。


しかも、バルバロス侯爵家の三男坊として。


貴族!勝ち組!ヒャッホー!と喜んだのも束の間、この世界には厄介な常識があった。


「ギフト」。


それは、神から与えられる特殊な能力。


剣術や魔法の才能は、このギフトの有無、そして種類によって、生まれた時点でほぼ決まってしまうのだという。


ギフトがなくとも努力次第で多少は扱えるようになるらしいが、ギフト持ちとの差は歴然。


まさに、格ゲーで初期キャラと隠しキャラくらいの性能差があるらしい。


そして今日、俺は五歳の誕生日を迎え、ギフトの有無と種類を判別する「鑑定の儀」に臨んでいた。


場所は王都にある大神殿。


両親であるバルバロス侯爵夫妻、そして二人の兄も同席している。


父上も母上も、そして兄二人も、それぞれ「剣術強化」や「火属性魔法」といった優秀なギフトを持っている。


当然、俺にも同様の、いや、それ以上のギフトが期待されているのは、ひしひしと感じていた。


(まあ、どんなギフトでもいいけどな。結局、最後はパワーが物を言うんだ)


前世で俺が熱中していたのは格闘ゲーム。


使用キャラはもっぱら、動きは鈍いが一撃がクソ重いパワー系のキャラクターばかり。


小手先のテクニックなんざ不要。


圧倒的なパワーでねじ伏せる。


それこそが真理であり、俺の信条だった。


「では、マッスル様、こちらの水晶に手を触れてください」


神官の厳かな声に促され、俺は祭壇に置かれたバスケットボールほどの大きさの水晶玉に、おそるおそる手を触れた。


瞬間、水晶がまばゆい光を放つ。


おおっ、なんか凄いぞ!これは期待できるんじゃないか?


光が収まると、水晶の表面に文字が浮かび上がった。


神官が、その文字を読み上げる。


「……ギフト、確認いたしました。マッスル様のギフトは……」


ゴクリと、俺だけでなく、両親や兄たちも固唾を飲んで見守っている。


神官は少し眉をひそめ、もう一度水晶の文字を確認すると、やや困惑したような声で告げた。


「『ちから、まかせ』……で、ございます」


しーん……。


大神殿に、気まずい沈黙が流れる。


え?力任せ?なんだそれ?


「ち、力任せ……とは?そのようなギフト、聞いたことがございませんが……」


父上が、動揺を隠せない様子で神官に問いかける。


「は、はあ……誠に申し訳ございません。古今東西のギフトを記録した文献にも、該当するものは……。ただ、文字は確かにそう示しております。『力』に『任せる』と」


母上はハンカチで口元を押さえ、兄たちはあからさまに「なんだよそれ」みたいな顔をしている。


おいおい、なんだその反応は。


力任せって、最高じゃないか!


「やったぜ!力任せ!つまり、超パワーってことだろ!?」


俺は思わずガッツポーズを決めた。


前世の俺が信奉していた「パワー」そのものじゃないか!


これぞ俺にふさわしい、最高のギフトだ!


俺の喜びようとは裏腹に、周囲の空気はさらに冷え込んだ。


神官は「恐らく、身体能力が多少向上する類かと……」と、苦し紛れの説明を付け加えたが、誰も慰められてはいなかった。


こうして、俺のギフト「力任せ」の鑑定は、なんとも微妙な空気の中で幕を閉じたのだった。


鑑定の儀から数ヶ月後。


俺は、貴族の子息としての基本的な教養、そして剣術と魔法の訓練を開始していた。


……のだが。


「マッスル様!剣はもっと繊細に!力任せに振り回すのではありません!」


剣術指南役の騎士が、額に青筋を立てて叫ぶ。


いや、だって俺のギフト「力任せ」だし。


力任せに振るのが正解だろ?


俺は、訓練用の軽い木剣ですら、まるで丸太でも振り回すかのようにブンブンと振り回してしまう。


「型」とか「払い」とか、細かい動きは一切できない。


どうにも、力が入りすぎてしまうのだ。


ギフト「力任せ」は、どうやら俺の意思に関係なく、常時発動しているらしい。


ドアノブを捻ればドアノブがもげる。


椅子に座れば椅子が軋む。


握手をすれば相手の手を砕きそうになる。


日常生活ですら、この有り様だ。


繊細な剣の動きなど、できるはずもなかった。


魔法に至っては、さらに悲惨だった。


「マッスル様!魔力の制御を!もっと、こう、細く、長く……あああっ!」


魔法の家庭教師が、俺の暴発させた小さな火球から身を挺して教科書を守っている。


魔力を練り上げること自体はできる。


ギフトのおかげか、人並み以上の魔力はあるようだ。


だが、その制御がまったくできない。


蛇口を全開にしたように、魔力がドバドバと流れ出てしまうのだ。


簡単な「灯り」の魔法ですら、太陽拳ばりの閃光になってしまう始末。


「こ、これでは……剣も魔法も、お話になりませんな……」


報告を受けた父上は、深いため息をついた。


「力任せ、などという、ふざけたギフトを……」


母上は、もはや泣いていた。


兄たちは、あからさまに俺を侮蔑の目で見てくる。


屋敷の使用人たちも、陰で「出来損ないの三男坊」「力しか能のない残念な子」と噂しているのを、俺は知っていた。


ちくしょう!見てろよ!


パワーがあれば、剣も魔法も必要ないってことを証明してやる!


訓練についていけない俺は、半ば厄介払いのように、屋敷の裏にある森で「魔物討伐訓練」をさせられることになった。


もちろん、相手は最弱のスライムだ。


渡されたのは、例の訓練用の木剣。


「いいか、マッスル。スライムとて油断は禁物だ。動きをよく見て、的確に核を突け」


護衛兼監視役の騎士が、うんざりした顔で言う。


分かってるよ、そんなこと。


ぷるぷると震える、青いゼリー状の塊。


それがスライムだ。


俺は木剣を構え、スライムが跳ねるタイミングを見計らって、教わった通りに斬りかかってみた。


ペチッ。


軽い音と共に、木剣はスライムの弾力に弾かれた。


スライムはダメージを受けた様子もなく、ぷるぷると震えている。


「だから!もっと鋭く!」


騎士の檄が飛ぶ。


うるさい!分かってるっつーの!


何度か試すが、結果は同じ。


木剣では、俺のパワーが活かせない。


軽すぎるし、細すぎるのだ。


埒が明かない。


俺はイライラしながら、その辺に落ちていた手頃な太さの木の枝を拾った。


木剣よりずっと重く、太い。


「おい、マッスル様!何を……」


騎士が咎める声を無視して、俺はその木の枝を力任せに振りかぶった。


そして、目の前のスライムに向かって、全力で叩きつけた!


グチャッ!!


鈍い、嫌な音。


さっきまで元気に震えていたスライムは、文字通り、跡形もなく潰れ、地面の染みになっていた。


「……え?」


俺も、そして護衛の騎士も、呆気に取られて固まった。


……倒せた?


いや、倒せた、どころじゃない。


粉砕した。


木剣であれだけ苦労したのが嘘みたいだ。


俺は、手にした木の枝を見つめた。


これだ!


俺に必要なのは、繊細な剣術なんかじゃない!


重くて太い武器で、力任せにぶっ叩く!


これこそが、俺の戦い方だ!


「は、はは……ははははは!見たか!これが俺の力だ!」


俺は高らかに笑った。


騎士は、ドン引きしていた。


その日から、俺の訓練内容は変わった。


いや、俺が勝手に変えた。


剣術も魔法もサボって、森に通い詰めた。


目的は、最強の武器探しだ。


そして、ついに見つけた。


森の奥深くにそびえ立つ、一際太くて頑丈そうな樫の巨木。


よし、こいつだ!


俺は、その巨木に狙いを定めると、近くにあった適当な岩盤を素手で殴って砕き、鋭い破片を作り出した。


それを簡易的な斧のように使い、あとはひたすら「力任せ」に木を削り始めた。


数時間後。


騎士が呆れ顔で様子を見に来た時には、俺の傍らに、とんでもない代物が完成していた。


長さは俺の身長よりも高く、太さは大人が両手で抱えるほどもある、巨大な棍棒。


いや、もはや棍棒というより、ただの「木の塊」と言った方が正しいかもしれない。


表面は削った跡でガタガタだが、その質量と存在感は圧倒的だ。


「……マッスル様。それは……一体……?」


騎士が、信じられないものを見る目で尋ねる。


俺は、その巨大棍棒を軽々と肩に担ぎ上げ、ニヤリと笑って見せた。


「見ての通り、俺の新しい相棒だ。名付けて『パワー・イズ・ジャスティス』!」


ネーミングセンスは気にするな。


大事なのは威力だ。


「さあ、行くぜ!スライムども!この『パワー・イズ・ジャスティス』の錆にしてくれる!」


俺は巨大棍棒をブンブン振り回しながら、意気揚々と森の奥へと進んでいく。


後ろで騎士が「お待ちください!危険です!というか、そんなもの振り回さないでくださーい!」と叫んでいるのが聞こえたが、知ったことか。


こうして、バルバロス侯爵家の出来損ないと言われた俺、マッスル・フォン・バルバロスの、異世界パワー伝説(になる予定の物語)が、今、始まったのである!

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