童話  お父さんへのプレゼント

八無茶

童話 お父さんへのプレゼント     八無茶

 智ちゃんは寝る前にしてくれるお父さんのお話を聞くのが大好きです。たくさんのお話を聞きました。

「今日はどんなお話をしようかな」と考え込むお父さんの顔も大好きで、下から見上げている時間も楽しみの一つです。そして始まります。


 昔々、ある所に欲の深いお爺さんがいました。名前は権兵衛さん。

 ある日、散歩がてら畑を見回っていると、白い大きな鳥が畑にいます。しばらく様子を見ていると立ち上がっても歩けそうになく、飛べそうにもありません。


 近づいて見ると足を怪我して逃げることもできないのです。権兵衛さんは足に添え木を当てて、持っていた手拭いで縛って固定してあげました。やっと立てるようになった鳥は喜んで森のほうへ飛んでいきました。


「やれやれ、礼も言わずに飛んで行ったな。手拭いを取られて損をしたな」


 それから数日後の夜、一人の女性が権兵衛さんの家を訪ねてきました。それは色の白いきれいな人でした。

「先日、足を怪我しているところを助けていただき、何かお礼ができないものかと思い参りました」権兵衛さんは「どうぞお入りください」と言って中へ通しました。

「間もなく寒い冬が参ります。暖かい羽毛の反物でもいかがでしょうか」


権兵衛さんはニヤリと笑い、しめしめ、羽毛の反物は高く売れるぞ。鶴の恩返しだな。と有頂天になり始めました。


「私が作業している間は、決して覗かないことを約束してください」

「なんの、なんの、おやすいご用。決して覗いたりしませんよ」嬉しくて笑いが出そうなのを必死で我慢する権兵衛さんでした。


 作業部屋からはカタン、コトンと、はたを織る音が聞こえてきます。その音を聞いていると心地よいリズムに権兵衛さんはうとうとしだして、ついには寝てしまいました。


 翌朝目を覚ますと、はたを織る音は無く静かです。作業部屋の戸も開いています。権兵衛さんは、もう出来上がったのだなと思い覗いてみてびっくりしました。


羽毛の反物はありません。ほかの部屋も捜してみると権兵衛さんが大事にしていた掛け軸や高価な壺の置物もなくなっていました。

「しまった。やられた。あいつは鶴ではなくサギだったのか」 おわり。


 いつもは笑顔で眠りにつく智ちゃんがプイと横を向き、寝てしまいました。

 面白いと思ったのになぁとつぶやきながらお父さんは部屋を出ていきました。


 翌日の夜、食卓を囲みお母さんの愛のこもったお料理を食べていると、

「お父さん、お誕生日おめでとう。智子からお父さんへプレゼントがあるんだって」

「うれしいな。なんだろう」


智ちゃんからの初めてのプレゼントに大喜びで、さっそくリボンをほどいています。

「絵本かな。また読んであげるよ」

包装を開けてみて

「ビンゴ。やっぱり絵本だ」


題名を見たときのお父さんの複雑な顔と、智ちゃんの笑顔を見比べながら「お父さんの童話は嘘ばっかりだって」と言って、お母さんの大笑いが響きわたっていました。


題名は『オオカミと少年』だった。

                          完



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