エイリアンvsネクロマンサー 〜昨日の敵は、今日の下僕〜

ポテッ党

第1話 死霊術師

 死者は蘇ることはない。

 これは普遍的で絶対的な真実だ。

 たとえその死がどれだけ理不尽にもたらされていたとしても。


 俺の体が突き飛ばされる。

 親友のミヤビの手によって。

 そして床を転がった俺は、その光景を目にした。


 レーザーブレードで、切り裂かれるミヤビを。

 

 彼女の体は、床に崩れ落ちた。その断面は炭化しており、凄まじい異臭を放っている。

 目は見開かれ、キレイなロングヘアは無残に広がり、下半身が数瞬遅れて、床に倒れる。

 完全なる死だった。


「ミヤビ……!!」


 俺の叫び。 

 その叫びに、レーザーブレードを振るった相手が、こちらを向く。

 そいつは、一言で言えばタコ型宇宙人だった。

 緑色の体躯をしており、触手のうち特に太い二本にはレーザーブレードが握られている。

 あれは奴らの両腕だろうか。


「『霊的大砲』!」


 人差し指を構えて、向ける。

 しかしその直後には俺の腕は斬り落とされていた。


「なっ……!」


 何が起きている。

 そう考える間もなく、閃光は振るわれ。

 俺もまた親友のように両断された。



 □

 

 

 本来ならばここで終わるはずだ。

 親友を目の前で無残に殺され、そして自分は殺した相手に傷一つ付けられず死んでいく。

 理不尽であっても、死は絶対。

 ソレを覆すことは何人にもできはしない。


「2回目だ。1度目は、お前は覚えていないがな」


 漆黒の空間でソレは言った。

 

「あまり死ぬなよ。短時間で連続すると戻れなくなる」


 目の前の黒い人型は言った。


「お前が、じゃない」


 ソレはかつての俺と同じ赤い目をしていた。


「世界が、だ」


 そして意識は明転し――。



 □



 「はっ!」


 俺は蘇った。

 そうとしか言えなかった。

 肉体は元通りだ。上半身の衣服は斜めに両断されて、切り口が炭化している所から、あのエイリアンの攻撃は現実にあったことなんだろう。

 そこまで冷静に考えたところで、俺の鼻腔を血の匂いがついた。


 夥しい数の死体があった。

 無事なのは俺一人だった。

 いいや、俺も死んでいたのだからこの1年C組は全滅していたというべきか。


(エイリアンは?)


 焼け焦げたブレザーを脱ぎ捨てて、椅子に掛けてある上着を着る。

 そして周囲を見回す。

 そこには慌てふためく同級生たちの幽霊がいた。


『何なんだよ! いきなり!』

『おとーさん! おかーさん!』

『くっそ! エイリアンが攻めてくるなんてありかよ!』

『ていうか霊埼、なんで生き返ってんの?』

『自分が死んだ衝撃も吹っ飛んだわ』

『俺たちも生き返れるのか!? なあ!』


 その言葉を全て無視して、彼女の下に駆け寄る。


「ミヤビ……」

『ヒョウヤ……』


 霊崎ヒョウヤ。それが俺の名前だ。俺の連続性は未だ保たれている。

 理由は分からない。

 けれど、恐らく俺の能力が関係しているのであろう。


「ミヤビ、どうして俺を庇ったんだ……」


 口をついて出たのは、そんなありきたりな疑問だった。

 どうして、俺なんかを庇ったんだ。

 俺が君を庇うべきだったのに。


『好きだからだよ。ヒョウヤ。絶対に生き延びてね』


 彼女の体に、黒い炎がまとわりつく。

 

『私も、君のために頑張るから』

「その力は……!」

『もう大丈夫だよ。だって私、死んでいるんだよ?』


 彼女も俺と同じ異能力者だった。

 あらゆる生命力を燃料とする、漆黒の炎を操る。

 生物に一度着火したが最後、その生物が死ぬまで消えることはない。

 人が強力なチカラには代償がつきものだ。

 ソレを無視できるのは、人ならざる者だけ。


 彼女の漆黒の炎にも代償があった。

 己の肉を焼いていくのだ。その漆黒の炎は。

 生前の彼女の両手はケロイド状に爛れていた。

 俺は耐えられなくなって、彼女を抱きしめようとする。しかしすり抜けてしまった。

 俺の能力は幽霊を見ることができる。会話もできる。支配することもできる。

 そしてさらにその先の力もある。

 けれど、触れることは決してできないのだ。

 

「ちくしょう……」


 死んだんだ。

 彼女は。

 俺の大好きな人は。


 俺は窓の外を見る。

 UFOが飛んでいた。

 翼もエンジンも見当たらない数十メートルはありそうな円盤状の物体が。

 まるで空を埋め尽くすように。

 遠くではUFOから降り注いだ光線が住宅街を焼き尽くしているのが見えた。

 一体あれで何人が死んだのだろうか。


 異変は空だけではない。

 道路には見たこともない多脚型の戦車が自動車を踏みつぶしている。

 校庭には巨大な六本足の狼らしき怪物が体育の時間だった生徒たちを貪り食っていた。

 そして廊下には、三脚の銃座が中庭目掛けて狙いを定めている。


「ミヤビ!」


 直感的に彼女に呼びかけた。

 彼女は即座に反応し、その手から漆黒の炎を放つ。

 ソレは銃座を飲み込んだ。

 炎が晴れた先には、焦げ付いて廊下に崩れ落ちる銃座があった。

 彼女の炎は、純粋に炎としても温度が高い。そして何より己の敵のみを焼く性質を持っている。

 

「あのエイリアンはどこだ?」


 憎悪を迸らせながら、俺は廊下に出る。直後だった。

 向かい側の校舎の壁が吹き飛んだのは。

 そこから一人と一体が躍り出てくる。

 

 片方はエイリアンだ。

 タコ型の触手に三本の光るブレードを握って振り回している。

 もう片方は生徒だった。

 彼女の手には木刀が握られている。

 その木刀は、何らかのエネルギーを宿していた。


「あれは……御剣か!」


 彼らは校舎に囲まれた中庭に着地する。

 そして激しく打ち合い始めた。

 強烈な衝撃音が連続し、中庭のオブジェや草木が切り刻まれていく。


 一体どういう原理だ。

 どうして木刀とレーザーブレードが打ち合えているんだ?

 

 そう言う疑問が一瞬湧くが、それを全て捨て置いた。

 俺のやるべきことは決まっている。

 彼女を援護することだ。


「『霊的大砲』」


 思念と喉の双方を震わせ、技名を紡ぐ。

 その手には、無数の幽霊たちから収集した怨念が込められていた。

 不遇の死を遂げた幽霊たちが、悪霊化する過程で放出する負のエネルギーだ。

 ソレを解き放った。


 ソレは狙い過たず、エイリアンの肉体に直撃。

 エイリアンの体以外の何者も傷つけることなく、爆裂した。

 エイリアンの体が崩れ落ちる。

 そしてその隙を逃す、『御剣』ではなかった。

 即座にエイリアンを切り刻む。

 その光るブレードは光を失い金属製の柄は地面に転がる。


 俺は急いで階段を降りていく。

 そして中庭に到達、御剣と目が合った。


「「お前(アナタ)何者(だ)?」」


 そして全く同じ問いが口から放たれた。

 二の句は御剣ユウナが紡いだ。


「アナタも私と同じ、祓魔師?」

「ふ、祓魔師?」

「ええ。古から生きる魔を祓うことを生業とする者たちの事よ。それとも隔離機構の人工能力者?」

「両方とも心当たりがないんだが……」

「となると天然モノか……。いや、今はどうでもいいわ。協力してちょうだい。この街の人々を救う必要があるの」

「どうにかできるのか?」

「分からない。エイリアンなんて、裏の歴史でも一度も発見されたことがないから。けれどそんな超常存在への対策は、裏の世界で連綿と受け継がれてきたのよ」


 御剣ユウナは俺に手を差し出した。


「一緒に戦って。霊崎ヒョウヤ」

「わかった。御剣ユウナ。よろしく頼む」


 そう言って、握手をする。

 

「さて、それじゃあ最寄りの秘匿シェルターに生徒を避難させないと」

「その前にいいか」


 俺は崩れ落ちたエイリアンに触れる。


「ちょ、ちょっと!」

「大丈夫だ」


 ここから先は半ば賭けだ。

 でも賭けるならば、御剣のいる今であるべきだ。

 万が一暴れ出しても即座に殺し切れる。


 エイリアンが立ち上がった。

 切り刻まれたはずの体は修復され、触手をくねらせる。

 そして俺に向かって触手を折り畳んだ。


「なっ……!!」


 そして差し出されたレーザーブレードを受け取って、それを御剣に差し出す。


「戦力はいくらあっても足りることないだろうからな」

「本当に、何者なの、アナタ……!」


 驚くのも無理はない。

 俺もエイリアンにまでこれができるとは思っていなかった。

 しかし使えるのならば問題ない。

 その死体、死ぬことすら許さずに使い潰してやる。


「アンタが祓魔師なら、俺は多分――」



 ――死霊術師ネクロマンサーだ。



 □



 世界は表と裏に分かたれていた。

 お互いは決してもう片方の領域を侵すことのないように、いくつもの策を講じ、約定を交わしていた。

 しかしその均衡は破られた。


 そして目覚める。

 世界がかつてのままだったら、表の世界で平穏に死んでいくはずだった少年が。

 本物の『絶望』が。


 ソレを真っ先に体感することになるのは。

 愚かにもこの摩訶不思議に溢れた『地球』という星に攻め入った、エイリアンたちだ。


 

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