第19話 白執事くんと称号事件の犯人の正体
「安心してくださイ、火星人の遺伝子情報を持っていても、アキトは普通の人でス。ただ、一部の能力が突出している、という特徴はありまス。アキトはゲーム感覚が非常に優れていまス。火星人はエレクトロニクス方面に非常に優れているので」
「ええ……じゃあ、白執事くんの言葉がわかるというのは――」
「そのせいですネ。ここまで知られたからには言っちゃいますが、実は、白執事くんはAIではありません。本物の”火星人”でース」
「はああ!?」
本物キター! って、そんなわけないだろおおおお! そんな大事なことサラッと言うなよ!
「信じられなくて当然でス。わかりやすく解説しますと、32億年前、火星には水をたたえた運河が多く存在し、生命体で溢れていました。地球の生命とは姿も生体も全く違う、ガス状の身体でス。しかし、環境激変で滅びる運命を知った彼らは、選ばれた数体が隕石に乗り、超光速で時間を超えて未来へと飛び立ったんでス」
ちっともわかりやすくないよお!!!!
「……すいません、もう全然話について行けません」
「でしょうネ。でも最後まで聞いてくださイ。白執事くんがそう願っています」
「キューイ……」
「……わかりました」
俺はそう答えることしかできなかった。だって全然実感わかないんだもん。
「時間は過去に戻れませんが、超光速移動なら短時間で遥かな未来へ到達できまス。太陽系を何周もして、彼らは生命溢れる現在の地球にたどり着きまシタ。火星人が生きていた証を遺伝子として残すため……デス」
「キュッキュッ」
「全部本当だって……? ということは俺にその火星人の遺伝子があるというのも……」
「本当でス。形が違っても、白執事くんはれっきとした“命”でス。そして私にも火星人の遺伝子がありまス。私たちはそういう者をマーズ・チルドレン(MC)と呼んでいまス。私は白執事くんとタッグを組み、MCたちが迫害されないよう秘密裏に動いている、というわけでス」
「マーズ・チルドレン……ジュディさんも――」
「さらに!」
まだあるんかい!
「今回の称号事件の犯人は、白執事くんの解析によれば『金星人』でス。火星人とは正反対の、極めて好戦的な種族でス」
「はあ!? 金星人まで出てくるの!? もう完全にSFじゃん……」
「如月博士、今の話オフレコですよね?」
明さんが確認した。
「イエース。アキトがMCであること、犯人が金星人であることが判明した以上、急いで確保しなければなりませン。アキラには申し訳ないですが、少々強引な手段を取らせていただきまス」
「……そうなると思っていましたよ。しかし、事件が早く収束するのは歓迎します」
明さんは肩をすくめながら言った。
それからのジュディさんの動きは凄まじかった。
「アキラ、地球上の全ネットワークを――衛星も含めて――白執事くんの監視下に置きまス」
明さんは絶望的な顔になった。そんなこと、できるの!?
「……了解。こちらのサーバーの権限を渡します……どうぞ」
できるんだ……マジでこの人たち何者だよ!?
白執事くんが右手をニュッと1メートルくらい伸ばして、リビングに置いてあるサーバーのコネクタに突っ込んだ。なにそれ、ゴムゴムの実の能力者?
突っ込んでから15分くらい経って白執事くんが左手をピッっと立てた。ジュディさんが爆笑しながら言った。
「発見しました……こいつ、バカでーす、自分の称号に気が付いていません。
宙に浮かんだホロディスプレイに映ったのは――
カリフォルニアの住宅街に停まる自動運転車。そのボンネットの上に、でかでかと浮かぶ称号。
『地球を侵略しに来た金星人』
うああ本物来たーー!!!
「ゲーム外に出たため、本来の称号が顕現したんですね。――で、どうやって捕まえるんです?」
明さんは俺みたいに動揺せずに冷静にジュディさんに聞いた。こんな電脳世界にいるようなモノを捕まえるなんてできるんだろうか。
「少々荒っぽいですが、地域単位で5秒ずつの計画停電を起こしまス。今なら太陽フレアのせいにできまス」
「5秒……?」
「それで十分デス」
次の瞬間――
世界各地で5秒ずつの停電が連鎖。金星人が逃げ惑うたびに次の地域が落ち、また次の地域が落ち……
まるで鬼ごっこみたいに追い詰められ、ついに八王子へ。
そして我が家のある地域だけが停電を免れ――と思った瞬間、部屋の電気が消えた。
「アキト、部屋の上に空間はありまスか?」
「あ、屋根裏部屋になってます」
「家電は?」
「無線LANの中継器なら……」
「それを持ってきてくださイ」
俺はスマホをライトモードにして(家全部カーテン閉め切ってるから暗いんだ)自分の部屋へ行った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
中継器を持って戻ると、電気が復活した。
「ゲットだぜ! 金星人、確保しまシタ!」
「マジで!? あ、称号ついてる!」
「ハイ、この中にいまス。ガタガタ震えててウケル~」
俺が3980円でAmazonで買った中継器が、ジュディさんの手のひらで激しく上下に暴れてる。
そんな機能ねえよ!
明さんは完全に諦めた顔で立ち上がってきた。俺ももう驚くのをやめた。
「この金星人……そうですね名前を仮に”きんせいくん”と名付けますが、彼もまた隕石に乗って過去の金星から時間を超えて飛来し、アキトの持つ火星人の気配を感じ、この中継器に入り込んだのでしょウ」
「うわ……そんな壮大な理由で俺に称号つけてたの?」
「さて、きんせいくん。聞こえてるでしょ? 新しい身体を用意するから、そちらに移ってくださイ」
ジュディさんは、その辺にあった段ボール箱から小さな黒い箱を取り出した。白執事くんがバチバチ火花を散らす握りこぶし大の雷雲を中継器から取り出し、黒箱にチュポッ、と投入。震えていた中継器がピタリと止まり――
代わりに黒い箱から、白くて細い手足がニュッと生えてきた。
手足が生えた箱が、またひとつ増えたよ……!!
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