第17話 母のお願い
称号のせいで起こるカオスは、世界中に広まってはいても、根本的な秩序は崩れていなかった。ジュディさんの対策がしっかり働いているみたい。
と思ってたら、やっかいな問題が起き始めた。
「テロリスト集団●●原理主義が犯行を表明した」
明さんが重要項目を読み上げている。
「えっ、この称号ってテロなの?」
「違いまース。彼らは事件を起こして世界の注目を集めるのが目的でス。今回は勝手に言ってるだけでス。……彼らは『これは我らの神の怒りである。今すぐ全人類は〇〇教に改修せよ。しなければ天から怒りの火が地表を焼き尽くすだろう』と言ってまス。同じようなことを●●派、●●派、それに日本の超右翼集団も乗っかってまス」
なんでそんなことするんだ。俺にはわけがわからないよ。
「ロサンゼルス、キューバ、南アフリカ、イタリア、プエルトリコ他数十国で小規模な略奪が起きている。そこはまだ称号対策が届いていないせいだろう、パトロールする警官が激減しているのを見越しての略奪行為だ。略奪しているやつらは、称号などお構いなしだ」
「うへえ、じゃあ今なら犯罪やりたい放題ってことです?」
「いいや。犯罪者は称号含めて全部防犯カメラや個人のスマホで記録している。彼らの称号の中には重大犯罪に関するものが多い。……こちら側としては好都合だ」
明さんが厳しい顔をしながら言った。うわー、刑事の顔だ。
そうか、称号って悪いことばかりじゃなかったね、さっきの”3年前の真犯人”もそうだったし。テレビの映像や防犯カメラやSNSでのポスト全部記録してる、ってのは犯罪の証拠を見つけるためでもあるんだ。
この称号が世界中に広まって、今まで未解決だった事件やこれから実行されようとしているテロなんかの犯罪を、映像で称号を記録することで一斉に検挙しようとしてるんじゃないかな。
そう考えて俺はゾクリ、と来た。
この称号事件を引き起こしている犯人も怖いけど、ジュディさんや明さんの先を読んだ対策の数々も冷静すぎてなんか怖い。俺なんか想像もつかない頭脳でこの世界を視てるんだ。その視野の広さは地球上すべてを覆っている。
まるでスターリンクに目が付いていて地球上のすべてを記録しているような、そんなイメージが浮かんだんだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あのう……ジュディさん、お忙しいところ申し訳ないのですが、ひとつお願いしていいですか?」
母さんが急にそんなこと言い出して、俺はちょっと緊張した。何言い出すんだろ?
「ハイ、オカーサンのお願いでしたら何を置いても叶えます! 言ってくださイ!」
「……来週の月曜日、『愛の不時着失敗』の最終回があるんですけど、それまでにこの騒動って終わらせていただくことはできますでしょうか……」
おかあさあああああん!!!!
瑠香も明さんも、さすがのジュディさんも目を真ん丸にした。母さんすげえ! アメリカ大統領でも言えそうにないこと言った!
「こんな状態だと、特別番組ばかりできっとドラマもやらないと思うんですよね。一週間は待てるけど二週間待つの、辛くて」
ジュディさんは目を丸くしたままスっ、とソファーから立ち上がり、胸をトン、と叩いた。
「……わかりました! お世話になってるオカーサンの頼み、必ず実現します! 来週の月曜日までにはこの事件を終わらせて、記念にみんなで大画面で『愛の不時着失敗』を見ましょう!」
「え、大画面? うれしいわ!!! それにみんなといっしょに見られるなんて、なんてステキ! ジュディさん、ありがとう!」
「いえいえ。アキラ、ほら、あなたからも何かお礼をする約束してあげてくださーイ」
えっ、俺たちもいっしょなの? 確定? まさか明さんも?
「……では、私はすき焼きをご馳走します。お好きだと聞いたので」
うえええ!?
明さん、俺の母さんにはめっちゃ優しくない?
「やったあ! すき焼き食べてドラマ鑑賞会! 楽しみ! あたし、ドラマ最初から見て来る!」
瑠香は手をぱちぱちさせて喜んでる。いや、おれもすき焼きはうれしいけどさ!
「ナイスアイデアです、アキラ。そのためにはこの事件早く終わらせなくては、ですね。フフフ、やる気が出て来ましタ! そうとなったら、世界各国のスパコン、借りて並列計算しまース!」
「……博士、それ、私がお願いする役になるんですよね」
明さんが絶望的な顔になって言った。
「もちろんでース! 無理 でしたらハッキングしてもいいですけド?」
「――くっ、それされると後始末が地獄で……、わかりました。交渉がんばります。がんばらせてください」
そう言って明さんはインカムに向けて早口で英語で会話しはじめた。……この人、英語ペラペラだ。ネイティブみたいにしゃべってる。
「目標ができましたので、それに対するタスク管理、白執事クン、おねがいしまース」
「キュ!」
白執事君は右手をくいっとまげて敬礼みたいなことをした。タスク管理までやってくれるのか、なんて高性能なAIなんだろう。
とか思っていたら。
ピポン!
ってLINEの音が鳴った。
うあああああああ、二股グループのやつだあああ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます