ドワーフ、魔法使いになるってよ
@marumarumarumori
変わり者ドワーフの旅立ち
ドワーフ、魔法使いに憧れる
「おいアーデン、また魔導書を読んでいるのか」
自分の部屋で魔導書を読む俺に対し、何やってんだと呆れた様子でそう言う親父。
そりゃそうだ。
何てったって、俺みたいなドワーフが魔導書を読むこと自体があり得ないのだから。
「別に迷惑を掛けてないから良いだろ」
俺の名前はアーデン・ヴェルグ。
種族はドワーフで、俺の実家は先祖代々鍛冶屋を営んでいる。
まぁ、世間一般の人がイメージするザ・ドワーフみたいな感じだな。
俺の故郷、スノーリはエダ王国の北側にある片田舎の村で、昔からリンゴの栽培やら鍛治やらが盛んに行われている場所だ。
主な名物は村で採れたリンゴでシードルと、村一番の鍛治師である親父が作る武具の数々。
俺達ドワーフは昔から鍛治を行うことに長けていて、この国に暮らす奴らの大半は鍛治師として働いている。
例外があるとすれば、岩山に行って一攫千金を狙う鉱夫と自由を愛する冒険者ぐらいしか思いつかない。
そんな種族柄なのか、親父は昔から鍛治の腕はピカイチだったらしく....冒険者達は親父の武具を求め、わざわざ国外からやって来る奴らもしばしばいる。
そんな親父の息子だからか、俺も鍛治師になれと周囲から言われてきた。
「全く....お前は俺の、鍛治師の息子だろう?なら、その努力を魔法ではなく鍛治の方に向けろ」
もちろん、それは親父もお袋も......兄貴達もそう願っていた。
ただ、俺には親父や兄貴達みたいな鍛治のセンスというか、才能が無かった。
鉄は熱いうちに打てと言うものの、俺にとって鍛治はいつまで経ってもアツアツのままで、叩くことすらままならなかった。
そのことに気づいた時、俺はこう思った。
あぁ、俺はドワーフとしての才能が無いんだな、と...
「....俺には親父みたいな才能が無いんだよ」
「んな屁理屈を言う暇があったら手伝え」
そんな時、俺が出会ったのが魔導書だ。
魔導書とは魔法と呼ばれるモノを記録し、それを後世の人々に遺したとされるマジックアイテムらしい。
あの日、俺は興味本位で商人からその魔導書を買い、家に帰ってそれを読んだのだが....俺は、その魔導書のページに並び立てられるように書かれている魔法に心奪われた。
言葉で表すのは難しいが、とにかく魔法を構築する術式の言葉一つ一つが洗練されていて、いつしか俺は鍛治よりも魔法の魅力に取り憑かれていた。
そんな俺に対し、家族や周囲のドワーフ達からは次第に変な奴だと思われるようになり、親父達はこうやって鍛治師になるように催促するようになった。
「大体、そんなわけの分からない文字が並んだ本を読んで何が面白いんだ」
親父達のように、大体のドワーフは魔法を使うことを....いや、魔法そのものを避けている。
親父曰く、大昔のエルフとの戦争の際に魔法の力で蹴散らされたことを未だに根に持っているからだとか。
......だから他の種族から頑固な種族って言われるんだよ。
「わけの分からない文字じゃない、これは魔法の術式を構築するために生み出された言語、ルーンだ!!」
「ルーンだか何だか知らないが、俺にはただの落書きにしか見えんがな」
そういう過去があるからか、ほとんどのドワーフは魔法嫌いだし、魔法なんてデマカセだと思っている奴が多い。
いくら目の前で魔法を放ったとしても、きっと親父達は小手指の小細工だと言い放つだろう。
それでも....俺は魔法を学ぶことが楽しい。
ドワーフが魔法を勉強するなんて、馬鹿げた話かもしれない。
でも、馬鹿げた話だからこそ、俺は魔法のことが好きになったんだ。
「それに、あの木の棒も片付けろよ」
「......木の棒じゃない、杖だ」
....親父はスノーリで一番優秀な鍛治師でもあるものの、その反面、昔ながらお固い頭のドワーフだ。
ドワーフたるもの、鍛治で食っていけるようにしろという考え方を持っていて、俺と兄貴達は小さい頃から鍛治をやらされていた。
俺にどんなに鍛治の才能がなくても、兄貴達に馬鹿にされても、鍛治師になれと言い続けた。
だから俺は....親父が苦手なんだ。
「オイ!!どこに行くつもりだ!!」
「魔法の練習」
「そんなモノを練習したところで何になる!!」
「....少なくとも、俺にとっては親父と一緒に鍛治をやるよりかは魔法を勉強した方が有意義だ」
そう言った後....怒鳴る親父を尻目に部屋を、家を出る俺。
途中で兄貴達のイライラする声やお袋の一方的に悲しむような声、村の奴らのヒソヒソと話す声が聞こえてきたが、それはもう慣れっこだ。
俺は魔法が好きだ。
だが、ただそれだけのことで周囲の人々が眉を顰めるのが現実。
だから俺はこう言った。
ご期待に添えなくてすみませんね、って。
....俺はこの村が嫌いだ。
ドワーフだからって、鍛治の才能があるとは思わないし、鍛治師になると思ったら大間違いだ。
そんなことを思いながら、俺はいつも魔法を練習する場所へ....スノーリの近くの森に向かうのだった。
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