束縛そして……死
関口 ジュリエッタ
束縛……そして死
地獄の残業もも終わり自宅へと向かうこの俺
「ちょっとお若いの占いには興味ありませんか」
誰のこと言っているんだ?
辺りをキョロキョロするが若い人物などいないし今は夜二十三時、人なんていない。
ということは呼ばれているのはこの俺だ。
「占いなんて興味ないよ」
路地の隅で怪しい占い師をするおばあさんに声を掛けた。
頭まですっぽり被ったフード付きの黒いローブに身を包み、皺のある皮膚を見れば六十を超える歳に見える。
「まあ、いいから無料で占ってやるからここに座りなさい」
「たく、めんどくさいな~。ちょっとだけだからな」
嫌々占いしのいうとおりに椅子に腰を下ろして占ってもらう。
「うむ、今すぐ美利という女と別れなさい。あんた死ぬぞ」
全身寒気がする。俺はこのババアに自分に彼女がいることと彼女の名前を伝えてない。
「なんで彼女の名前を知っているんだよ」
「私は占い師。なんでも知っている」
「気持ち悪いヤツだな」
「ほっほっほっ。気持ちが悪いのはお前の顔ほどではない」
「余計なお世話だ」
「ほれ、これをやろう」
「何だこれ?」
占い師は俺にドックダグを渡された。板状のプレートを見たら何も書かれてないのと、胸の下辺りにまで届く異様に長いシルバーチェーン。こんな物渡されてもダサくて付けたくはない。
「お守りじゃ、それを肌身離さず付けなさい」
「……わかった」
先ほどの占いは不気味なほどに当たっているから渋々俺はダサいネックレスを身に着ける。
「いいか、今日お前の女は殺しに掛かるから気をつけろ」
「わかったよ、じゃあな」
その場から離れようとしたとき、占い師に呼び止められた。
「ちょっと待て」
「何だよ」
「三万円払え」
こいつ何を言っているんだ!?
「無料じゃないのかよ」
「占いは無料じゃ。だが、お守りは無料じゃない。こちとら商売じゃからな」
「霊感商法じゃないか! ――たく、しょうがないな。わかったよ」
一応詐欺ではないことを信じよう。
俺はなけなしの三万円を占い師に渡す。
「まいど。いいか今夜はそのお守りを身に着けろ。もし隙ができたら、お前の借りてるアパートの近くにある警察署に飛び込んで助けを求めろ」
「わかったよ、じゃあな――」
別れを告げて俺は占い師から視線を放しアパートに帰ろうとしたときに、ふと気づく。
俺はこの占い師にアパートに住んでることは伝えてないし、近くに警察署もあることは言ってない。――どうしてこのことを知っている!?
俺はすぐに踵を返し占い師のほうを振り返るが、そこには誰もいなかった。
「さっきまでいたはずなのに……」
狐に包まれた気持ちになった俺はあの占い師のことを気ががりに思いながら再びアパートへと向かうのであった。
アパートの部屋のドアに立ち、不審な気配がドアの向こうから感じた俺はゆっくりとドアノブを握りひねるとドアが開く。
施錠したはずなのにどうして開くのか不安になった俺はゆっくりとドアを開けて中へと入る。
部屋は暗いが何者かの気配を感じる俺は居間まで行き電気を付けようとしたとき、
「おかえり」
「うわぁああああ!」
急な背後からの聞こえる声に驚き悲鳴を上げた。
咄嗟に電気を付けて声のほうに視線を振り向くと、そこにいたのは俺の彼女
「美利驚かすなよ!」
「ずっと待っていたんだよ」
黒のセミロングに青のミディ丈ワンピースを着てる一見かわいらしい顔をした俺の彼女だが、内面はとてつもなく束縛の強いメンヘラ女だ。
「合鍵なんて渡してないはずなのにどうして部屋に入られたんだ」
「そんなことはどうでもいい。私の連絡に何で返事をしてくれなかったの?」
どうでも良くないと心の中で思いつつ俺はスマホを確認すると、充電が切れていたことに気づいた。
「すまん、充電が切れていたから返事を返せなかった」
「嘘よ。ほんとは女といたんでしょ」
「いないいない!」
たしかにさっきまで女とはいたが、相手はババア。しかも占い師で悪徳で変なネックレスを暴利の値段で売るような詐欺師。
「嘘つき嘘つき嘘つき!」
美利の手にはいつの間にか銀色に輝く出刃包丁が握られていた。
「おまえ魚でも捌く気か?」
「捌くけど、魚じゃない。――浮気男だよ」
勢いよく出刃包丁を振り下ろした美利の腕を俺は恐怖に狩られ避けることができなかった。しかし、胸に目掛けて突き刺さるはずの刃先が運良く何かの堅い物が弾いてしまう。
それは占い師からもらったお守りのネックレス。弾かれた拍子に美利は身体を
急いでアパートに向かった警察は美利を殺人未遂で逮捕をされた。
こうして俺は束縛の強い彼女と別れることはできた。あの占い師のおかげで命を救われた。
あの占い師は本当に生きた人物なのか、それともおとぎ話に出てくる魔女なのかは俺は未だに謎のまま新たな人生を歩むのであった。
束縛そして……死 関口 ジュリエッタ @sekiguchi
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