急に舞台に乗り込んでくるヤツ

のーと

リングかと思っていた場所が劇場だったら?

ガタ、ガタタと椅子が引かれる音から始まって、人の音が教室に充満しだす。俺も一呼吸を置いてその一部と相成った。

「どうしよう。彼女、死人が好きらしいんだ。」

友人は、俺の突然の自供に肩を揺らして、コーヒー牛乳を多めに吸い込んでしまったらしい。喉から変な音が鳴っている。

「ええ、今度こそ両思いを確信した!とか言ってたじゃんか。」

ストローをガジガジして、目をキュ、細めてこちらを伺う。

「いやあ、気づいたんだよ、人間同士に両思いなんて無いことに……。ああ、世界はなんて残酷なんだろう!」

両手を広げ天を仰いで、南中のスポットライトを受けてするスピーチを彼はすっかりスルーする。

「今度は何に感化されたんだか……。」

「いや、この前おもろい恋愛系の投稿者みつけてさ、そういうこと聞いた。」

俺の急な精神の醒めにも彼は特に動じることなく、紙パックを淡々と潰している。几帳面だ!

「てか、死人が好きってどういうこと?なんかあったよなそういうの。」

とうとう君は俺から視線すら外して、次は缶を取り出した。まだ飲むのか。

「いや、君も存外ぶっ飛んだ発想をする。何でそうなるんだよ。」

人様の趣味嗜好に口を挟むつもりは全くないが、俺の好みをそれと淡々と受け入れられるのもなんか違う。気を取り直して、俺は続けた。

「まあ、事の仔細はどうでも良くて、だから俺、死んでみようと思う。」

「はあ。」

缶の底に張り付いたコーンを、鼓のように叩きながらそちらに夢中な彼はきっかり三秒間その姿勢で静止した。

「はあ!?」

久しぶりに目があって、僕らはその間熱心に見つめあった。

「ちょっとうるさいよ。注目を浴びてしまうじゃないか。だから死に方を良ければ考えてくれないだろうか。」

「ええ……ああ……嫌だけど……。」

コーンポタージュの攻防はまだ続いているようだ。

「箸持ってない?」「持ってない。」

こいつこの意地汚さを公共電波にのっけて彼に色目を使う女子たちに思い知らせてやりたい。

「ええー、お前、そんなんだっけ。何かあったの?話聞くよ?」

さすがにコーンを諦めて俺の方に頬ずえをつく

「俺は!恋の勝利に向けて邁進するだけだ!」

「お前そこまでおかしかったっけ。」

「いいや、おかしくなんてないとも。常に正気だし、故に発狂しているとも言える!」

彼は、はああ、とため息をこれみよがしについて、たいそう呆れたようなかおで、

「お前さ、彼女?の「好きな人」を模倣するんじゃなくって、自分を好きになってもらえよ。」

ほほう、これは1本取られた。そのように夢想したことはあっても、俺がそれに該当する予測はなかったので。

「……なあなんか言えよ。真面目にアドバイスした俺がバカみたいじゃんか。」

「いいや、やはりそれは難しいよ。」

「はあ?」

「俺には固有の魅力とか無いからな。やはり取って代わるのが早かろう。とある特徴に対して持っているバイアスを利」「黙れ。」

彼は凄んで、缶をぐしゃりと握りつぶした。いや、全く潰れては居ないのだがそのような気迫で、の意である。

「どうした。コーンがもっと取り出しづらくなってしまうぞ。」

「いい加減にしろ。」

「君は所謂コイバナは嫌いだったか。それならもっと早く言ってくれよ。」

「違う。お前ってほんとセンスねえよな。死人の追っかけを好きになるなんて。」

彼は淡々とそんなことを吐いた。俺は、俺は何も彼女が死人を追っかけているから好きな訳ではない(そもそも彼女は死人の追っかけではない)。彼女のあの見た目とは裏腹の気遣いとかにまんまとやられてしまっただけなのだ。

「……黙ってないでなんか言い返してみろよ。」

「……俺の愛を愚弄するな!!親しき仲にも礼儀あり、だろう。」

俺がそう切り返すと、彼はニヤリと不敵に笑ってこう言った。

「ああ、そっくりそのままお返ししよう、その言葉。」

ちょうどそこでゴング、もといチャイムが鳴った。俺は体裁上前をむいて黒板と向き合ったが、そこまでニブチンでもなかった俺はううむ、してやられた、と思った。



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急に舞台に乗り込んでくるヤツ のーと @rakutya

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