ネメシス•アロー

OROCHI@PLEC

復讐の矢

 私は見てしまった、彼が浮気をしているところを。

 ある日の昼間のこと、私は、街中を歩いていた。

 そんな時、たまたま愛しい彼の姿を見つけた。

 彼は、この国の騎士団長でもあり、私の恋人でもある。

 彼に声をかけようとした時、私は気づいた。

 

 彼の隣に女性がいることに。

 そして、彼とその女性は手を繋いでいて、明らかに距離が近かった。

 

 思わず私が声をかけようとした時、隣にいた女性は、彼にキスをした。

 彼はそのキスを受け入れていた。

 私は驚いて、思わず彼の前に飛び出す。

 そして意識せずに口から言葉が迸る。


「ねえ、なにやってるの?」


 彼は少し悲しそうな目でこちらを見る。

 その隣の女性はこの国の王女だった。

 王女は彼に向かって話しかける。


「ねえ、さっさと言っちゃおうよ。もうバレちゃったんだからさ」


 その言葉に彼は悲しそうに頷き私の方を向く。


「なあ、実はお前には飽き飽きしてたんだ。いっつも魔法の事ばかりで俺のことを見てくれないじゃないか」


 私は口をひらけない。


「もう疲れたんだ。だから」


 聞きたくない言葉が彼の口から飛び出る。


「別れよう」


 彼はそう言った。私は何も言えず、ただ彼の元から走り去ることしかできなかった。

 帰る途中の景色は滲んでいた。

 

 家に帰って扉を閉めた瞬間、目からとどめもなく涙が溢れ出てきた。体から力が抜け、床に座り込む。

 愛してるって毎日言ってくれていた彼が、浮気をしていたなんて信じられない。

 優しい彼に、急に別れようって言われたのは嘘だと信じたい。


 私はただ、泣くことしかできなかった。

 泣いて泣いて泣いた。

 どれくらい泣いただろうか。

 気づくと涙は止まっていた。


 そして悲しみは、いつのまにか憎しみに変わっていた。

 憎い。ひたすら憎い。

 愛してるって言ったのに裏切った彼が憎い。

 殺したいほど憎い。


 そんな憎しみに突き動かされるようにして、私は彼を殺すための魔法を創り始める。

 彼を貫き、彼の体をメチャクチャにして、なるべく苦しむようにして殺す、そんな魔法を創りあげていく。


 私の憎しみを全てこの魔法にこめる。

 そうして、魔法は完成した。

 二階に上がり、窓を開ける。

 

 そこからは騎士団の宿舎がよく見える。

 わざわざそういう場所に家を借りたのだ。

 彼をよく見るために。

 

 そして、騎士団長の部屋で日記を書いている彼を見つけた。

 ああ、やっぱり私は彼をまだ愛している。

 でも、私は彼を許すことはできない。


 そして私は何もない空間で弓を構える動作をする。

 そして唱える。


「我が憎しみを力とし、復讐の矢よ、今ここに放たれん。」
 

 

 何もない空間に黒く渦巻く魔力が集まり、その魔力は矢を形作る。


「その矢は貴様を貫き、深い傷を刻むであろう。」


 私の愛しい人、そして私が最も憎んでいる人、私はあなたを永遠に愛し、そして永遠に許さない。

 私は愛と憎しみを込めて最後の詠唱を終える。



「その罪を、絶望を、全て背負わせよ。
『ネメシス•アロー』」


 そして、私は矢を放つ。

 復讐の矢は、寸分違わず彼の元へと飛んでいった。

 

 俺が愛する人へ

 暗部のものに監視されているから手短に書く。

 ことの発端は一週間前だ。

 君は王女様のお茶会に出ただろう。

 その時に君は爆弾を飲まされた。


 それは王女の意思一つで爆発するものだった。

 それ以降俺は王女に脅されていた。

 逆らったら君を爆破すると言って。

 

 暗部の監視により俺は何もできなかった。

 だから俺はあいつに従うしかなかった。

 ……浮気をしたのもそのせいだ。本当はしたくなかった。

 でも、それもただの言い訳になってしまうか。

 

 おそらく、あいつは最終的に俺に服従の魔法をかけて、君を殺すつもりだったのだろう。

 そして俺はそれを許せなかった。


 君がいない世界でのうのうと生きることはできなかった。

 だから禁術を使うことにした。


「死する命約」


 この呪文を君はおそらく知ってるだろう。

 自分が死ぬ時に世の摂理に反さない限り三つ願いを叶えられるというものだ。

 昔、王国の図書館で禁術書を見た時に書いてあった。


 君を助ける方法はこれしかなかった。

 だから、これを使うことを決めた。

 自害しても良かったんだけど、どうせ死ぬなら君に殺されたかった。

 

 だから、王女との浮気を命じられて、それを君に見つかった時、なるべく君が傷つくような言葉を選んで、言った。

 殺してもらえるように。


 君の家から魔力の高まりを感じる。

 願い通り、君は俺を殺してくれそうだ。

 俺は死ぬ時、この三つのことを願うつもりだ。


 一つ、愛する人の中にある爆弾を取り除くこと。

 二つ、邪悪な意思が君を傷つけられなくすること。

 三つ、俺のことを忘れること。

 

 多分これを読んでる頃には少しずつ俺の記憶が薄れてきていると思う。

 君には、俺のことを忘れて、幸せな道を歩んで欲しい。

 最後に。

 ごめん。無理矢理やらされたとはいえ君を傷つけて。

 そして、愛してる。

 俺の分まで幸せに生きて。

 さよなら。


 文字が滲む。

 血塗れの部屋ではただ、涙の落ちる音だけが響いていた。

 放たれた矢は決して手元には戻らない。

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ネメシス•アロー OROCHI@PLEC @YAMATANO-OROCHI

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