三月は好きかい?
静谷 早耶
第一項 山登りと孤独
幸せな人にはわからないことがある。
幸せな人には知り得ない領域がある。
友人が居て、恋人が居て、仲のいい家族が居て、毎日を不満はあれど楽しみもあって、趣味や好きな事があったり、退屈そうに暮らしながら日々の小さな幸せを求めて生きている人達へ。
あなた達は幸せでしょう。
ですから、わからないのです。
卒業式が好きな人達しか知らない事が。
*
ぼくは新しい事が好きです。新しいもの、でも良いのですが。とにかく、「始めること」が好きなのです。例えば、入学式。あれは良いですね。始まるんですから。でもそれに不安を覚える人もいると思います。実際、新しい環境に身を置くことは未知の出来事ですから、不安を覚えるのは当然と言えるでしょう。ぼくも感じます。
でも、それが全く理解出来ない人たちが居るのです。いろんな人間が集まって、新しい所で、新しいことをやる。それをできない人たちが居ます。ぼくはその人たちの事を知りたいのです。
具体的に話します。ぼくは、孤独に過ごしてきた人の事をよく知りたいのです。出来るだけ思考を頭に入れておきたいのです。何故か?理由は簡単です。わからないからです。理解出来ないからです。
本当に一人も友達がおらず、一人で暮らして一人で過ごす。そういう人に一種の憧れのようなものを抱きます。「対話」を通さずただひたすらに、磨いてきた信条、哲学。
きっと、泥のように汚れていて、星空のように瞬いて見えます。
前提として、ぼくは人間とは、一瞬たりとも孤独ではない人間など居ないと思います。どんな人でも、いずれは未来に絶望し、社会に絶望し、一人で自室にこもり自分自身と見つめ合い、震える時がやっくるのだと…。でもそれは一時的なもので、ふとすれば元の生活に戻り、「あんな時もあったなぁ」とすぐに過去の出来事になると思います。
それは果たして何故なのか?ぼくは冷静になったからかなぁ。とも思いましたが、追い詰められたときにこそ人間の本性が出るなら、それは日頃から思い詰めていたことじゃないのか?という問いが出てきます。でもそれはおそらく間違いです。理由としては、ぼくは人間とは、一貫性のあるものでは無く、流動的なものだと思うからです。
不安を覚える時もあれば、安心する時もある。笑顔の時もあれば、泣いている時もある。人生は過酷な山登りです。頂上を目指して、必死に岩肌を掴む時こそ普通の状態なのです。疲れてしまって、手を休める時に他の登山者たちが先に登って行ってしまい、「自分は休んでいて良いんだろうか」「このままで良いんだろうか」という不安を覚えます。そうして悩む中、みな気づくのです。「生きるのなんて(登ることなんて)つらいの当たり前じゃないか」と。
だからまた、再開して登り始めます。ですがやはり登る事自体を始めることを辞めてしまう人も居ます。そういう人たちがどうなってしまうかは、登っている人たちにはわからりません。ただ「自分はああはなりたくない」とだけ考え、上を向くのです。
でもそれってもったいないと思います。「登ることをやめた人たち」がどうなったか、知りたくないですか?ぼくは知りたいんです。登らないことを選んだ人たちが何をしているのか。
「深淵をのぞきたい」とまでは言いませんが、理解できるはずです。わからないから、知りたいという気持ちが。孤独な人間とは、つまり誰にも理解されない人間なわけですから、孤独な人間の気持ちは孤独な人間にしかわからないのです。
いや、もしかしたら誰にもわからないのかもしれません。
理解出来ないものを人は恐れと好奇心を抱きます。ですから共感できるこころが無ければ、真に理解することなどできません。探索とはただ未踏の地に足を踏み入れることだけではないのです。
*
要はぼくは孤独な人の心理が知りたいのです。ただ孤独なだけではなく、それらの苦しみをも理解したいのです。だったら、小説でもなんでも、そのようなジャンルの作品を探してみればいいのかもしれない。
それは、かなりいいと思います。ぼくは未だにそれで、そういう人たちを二人までしか見つけられて居ないませんが、ぼくはその人たちの作品が大好きです。でもやはり、真に理解することは叶わない。合っているのか訊くこともできない。
それが当然です。
しかし、ぼくは都合の良いことに、ひとり遊びが好きなんです。頭の中でこうなんじゃないか、いやこうじゃかいか、と考えることが好きで、それで今回このようなものを書いたわけです。ぼくは都合の悪いことに孤独な人間には成り切れないので、いくら考えても正解はわからないのかもしれない。
でも他人の心なんてわからないのが普通で、わかりあおうとするのが人間なのかもしれません
ぼくはずっと探してきました。ぼくが本当に夢中になれるものを。短い人生の中ですが、それらは幾つか見つかりました。これから、更に増やしていくつもりです。
案外、山を登ることをやめた人たちはこんなものを書いたりしているのかもしれませんね。それではまた。
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