第29話 残酷な真実
実験は始まった。
ラムナスの身体の見えるところは全て機械へと変えていった。
四肢はもちろん、内臓も全て機械へと変えていく。
脳をいじるのは最後だ。
ラムナスは抵抗する事が出来ないようにされていた為、苦痛に顔を歪めながら実験を繰り返していった。
――実験開始からおよそ一年。
「やった!遂に!遂にできたぞ!」
透明なポットの中で眠るラムナスを眺めながら恭吾は満面の笑みを浮かべていた。
支配者としての力を持った新人類が遂に完成したのだ。
失敗を繰り返し、時には他の実験体も使った。
その中で最後まで生き抜き、結果を出したのはラムナスただ一人だった。
「これでやっと……美咲、仇は討ってやるからな」
恭吾は暗い笑顔を浮かべてポットのガラスに手を添える。
恭吾にとってこの世界には憎しみしかなかった。
最愛の娘を殺されたにも等しい。
悲しいことに美咲を死に追いやった学生は罪に問われることはなかった。
ただ、未成年だったからというだけで。
「所長、拠点となる島に宮殿が完成しました」
「おお!素晴らしい!」
所員から報告を受けた恭吾は計画が順調に進んでいることに喜んでいた。
「さて、起きて貰おうかラムナス」
手元のスイッチを操作するとポットの中の水が引いていきゆっくりとガラス扉が開いていく。
「ん……ここ、は」
「おはようラムナス。身体に不調はないかな?」
「あ、ああ……くそ……頭がいてぇ」
ずっと寝ていたせいか頭痛がしたらしくラムナスは頭を手で押さえる。
恭吾はタオルを手渡し、後の処置を所員に任せてその場を後にした。
別室に移動し服に着替えたラムナスは恭吾と向かい合い話を聞くことにした。
「さて、今のラムナスは知識技術、私の全てを詰め込んである。自分の知らなかった情報もあるだろう?」
「ああ……それよりこいつはなんだ」
ラムナスは二人だけしかいない部屋に佇む一人の女性を見た。
目は瞬きもせずまっすぐ前だけを見ており、明らかに人間ではない。
「ああ、彼女は私の娘さ」
「なんだと?自殺したと言っていなかったか?」
「その子は
見た目は綺麗な女性だ。
しかし恭吾が
「娘恋しさに作ったのか?」
「まあ、そうだね。記憶などは一切合切ないけど、見た目は美咲そのものさ。美咲が普通に生きていたら丁度これくらいの年齢でね。ただ、やはり
じっと前だけを見つめているのは少し不気味に映る。
ラムナスは美咲から目を逸らした。
「こんなものを作っても娘は帰ってこないぞ」
「分かっているさ。それよりこれからの話をしようじゃないか」
恭吾は計画を話した。
新人類だけの島を作り、そこを拠点として少しずつ新人類の勢力を伸ばしていく。
そして人間との人口比率が上回ったらいよいよ計画を実行するつもりだった。
「人間の抹殺か……いや、待て。それは俺の両親も含まれていないだろうな」
「ああ、それは除外してある。流石にね」
ラムナスはホッとした表情を浮かべた。
両親は完全な人間なのだ。
もしも標的となっているならば何が何でも恭吾を殺すつもりだった。
「さあ話はここらで切り上げよう。今日はもう休みなさい。明日からは忙しくなるからね」
「……ああ」
ラムナスは恭吾と別れ与えられた部屋へと戻る。
殺風景で何もない白い部屋だ。
あるのはベットと棚だけ。
ベットに寝転がるが全然寝付けなかったラムナスは起き上がると、研究所内をソッと歩き回る事にした。
既に寝静まり実験体はみな眠っている。
所員も帰宅しているか宿直室で仮眠をとっていた。
ラムナスは恭吾の私室前までくると、扉前にある認証キーに掌を当てる。
頭の中に無数の乱数字が流れ込んでくると、どれが正しいキーなのかが分かった。
新人類の人口脳に変わっていることで演算能力も高い。
暗証番号を読み取るなど容易だった。
部屋に入ると机の上に乱雑に置かれた書類を手に取った。
研究に関する資料ばかりで大して面白いものはない。
その中で一枚の資料に目が留まった。
「これは……嘘だろ……?」
そこに書かれていたのはラムナスの血縁者に関する情報だった。
住んでいるところ、家族関係、職業などがツラツラと並べられており、身長や体重などまで全て記載されていた。
そのまま読んでいくと、後半で”処理完了”と赤文字で書かれてあるの見つけた。
両親の名前の上には赤い線が引かれていて、明らかに何かをやったのではないかと思える書き方だった。
更に読み進めていくと、処理方法や処理に関する手配などまで記載されていた。
「俺の両親は……殺されていた?」
両親の事は除外すると言っていた恭吾の言葉を思い出し、ラムナスは愕然とした。
除外、といったのは計画を進めるにあたって対象者から除外するという意味ではない。
この世界から除外するという意味合いだったのだと気づき、ラムナスはその場で膝を突いた。
「どうして……」
恭吾をこの手で殺してやりたくなったが、直接殺す事はできない。
別の手を考えなければならない。
資料を元通りに戻すとラムナスは自室へと戻った。
バレてはいけない。
恭吾にバレないよう殺す算段を立てるのはかなり難しい。
しかし奴を殺さねば気が済まないとラムナスは決意する。
夜が明けいつも通りに恭吾と挨拶を交わすと計画の話を振ってくる。
「今日からは島を拠点にしてもらう。ここじゃあ政府の目もあるからね。あまり大掛かりな事はできないんだ」
「ああ、分かった」
ラムナスにとって好都合だった。
恭吾の監視から離れられれば、殺す手段を模索する事ができる。
必要最低限の荷物を整え、早速研究所を出ようとすると一人の女の子がラムナスの下へと走り寄ってきた。
「ラムナス!どこ行くの!」
「しおり……俺は島に行くんだ」
「なんで!私も連れてって!」
彼女の名前は長良しおり。
恭吾の娘であり、まだ年齢は五歳の小さな子だった。
研究所で長らく過ごしているラムナスに懐いており、何をするにもしおりは付いてきた。
ただ、今回ばかりはしおりを連れてはいけなかった。
そもそも恭吾が許可しないだろう。
「済まないしおり。今回は連れていけないんだよ」
「いやだ!ラムナスと行く!」
小さな子供は聞きわけが悪い。
嫌だ嫌だと足に縋りつくしおりを邪険にはできず、ラムナスの表情には困惑が浮かんでいた。
そんな様子を見ていたのかどこからともなく恭吾が現れると、しおりの肩に優しく手を置く。
「しおり、彼はお仕事があるんだよ。邪魔しちゃいけないよね?」
「嫌!」
「しおり、ラムナスも困っているじゃないか。離してあげなさい」
「付いていくの!」
父はずっと研究を続けていて、しおりの相手をするのは常にラムナスだった。
そのせいか実の父親よりもラムナスは彼女に好かれていた。
「はあ……仕方ない。ラムナス、しおりも連れて行ってくれないか?」
「馬鹿言え。俺たちが何をしようとしているのか分かっているのか?危険がないとも言えんぞ」
「研究所にずっといるよりかは安全さ。あの島の防衛設備はちょっとした要塞並みだからね」
恭吾はしおりの安全を考え、ラムナスと共に行くように促してきた。
ラムナスの真の目的は恭吾を殺す事。
つまり、しおりの父親を殺そうとしているのだ。
だから連れて行きたくはなかった。
しおりはとても純粋な女の子だ。
悲しい顔を見たくはなかったのだ。
「頼むよラムナス。しおりも君といる方が楽しいみたいでね。たまにおしゃべりをするんだが君の話ばかりしているよ」
「……どうなっても責任は取らんぞ」
「ああ大丈夫だ。では頼むよラムナス」
恭吾からは全幅の信頼を置かれているラムナスは、少し悩むとため息をつき頷いた。
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