第18話 戦力増強
剛田さんがいう切り札とは何なのだろうか。
僕が首を傾げていると、剛田さんは話を続けた。
「橋の各所に爆弾を仕掛けている。俺達が川を下るタイミングに合わせて一つずつ爆破していく。ただの爆弾じゃねぇぞ。煙幕爆弾だ。俺達の姿を隠してくれる代物だ」
「その爆弾の発破は誰がするんすか?」
「協力してくれている奴らさ。まあその辺りは後で紹介しておく」
どうやら元々この爆弾は囮に使う為のものだったらしく、それを今回島に乗り込む作戦に組み込んだ形だ。
「問題は海に出た後だな。正直言えば海の上で反撃手段は限られる。囲まれて四方八方から銃撃、なんてこともあり得る」
「それはやべぇな……」
「島に乗り込むなんて無茶が過ぎるんじゃないかリーダー」
メンバーの一人に数人が同意を示した。
言われてみれば確かになかなかの無茶を言っている。
よくこれを僕一人でやろうとしたものだ。
「それなら良い物があるかもしれません」
「何?どんな方法だ大我」
「新人類第一研究所。あそこには僕の仲間がいます。それにこのプラズマライフルもそこで拝借したものです」
「それは本当か!?おいおい、それなら俺達の武器も良いもんに変えられるってわけか!」
どれだけの武器が研究所にあるか分からないが少なくとも倉庫には沢山の武器が眠っているはずだ。
「なのでまずは僕含めて数人で研究所に行くのがいいかと」
「その話が本当なら俺達としてもありがたい。よし!なら早速メンバーを募る!夜には出発するぞ!」
剛田さんの決断力は流石リーダーと言わしめるものだった。
まだ僕一人から伝えられた情報しかないにも関わらず、すぐに行動へ移すところはなかなか真似は出来ないだろう。
夜を迎え僕と剛田さん、他に三人のメンバーを加え五人で隠れ家を出発した。
夜に行動しているのは当然目立ちにくくする為だ。
「研究所はどの辺りにあるんだ?」
「ここから数キロ行った所です」
各々武器を持ち身を屈めながら移動する。
しかし新人類がサーモグラフィーのようなゴーグルを着けていればこんな隠れながらの移動もあまり意味がない。
熱感知などでバレないようにと祈るばかりだ。
三十分は歩いただろうか。
研究所が見えてくると皆の足も少し速くなる。
夜とはいえ新人類が彷徨く街を出歩くのは怖いものだ。
「あそこの守衛さんに話をつけてきます」
「ああ、頼んだぞ」
剛田さん達と別れ僕は一人、守衛のおじさんの元へと急いだ。
「すみません」
「ん?なんだ!新人類が遂に来やがったか!」
守衛のおじさんは暗がりから近付いてきた僕に銃口を向ける。
「待った待った!僕です!藤堂です!」
「お?おお!君か!無事だったんだな!なかなか帰ってこないから心配したじゃないか」
僕が名乗るとおじさんは安堵の笑みを浮かべた。
よく考えれば僕の目も機械に置き換わっている。
夜でもしっかり見えているが、人間である守衛のおじさんは僕の顔がハッキリと見えていないようだった。
「あの、避難してきた友人がいるんですけど一緒に中へ入れてもらう事はできますか?」
「おお、入れ入れ!外にいるのは危険だからな」
守衛のおじさんに許可を貰うと僕は後ろで待機している剛田さん達にサインを送った。
ゾロゾロと銃を持った人達が現れたせいで守衛のおじさんは驚いていた。
「な、なんだなんだ?避難できなかった者達か?」
「まあそんな所です。では中に入りますね」
「ああ、構わんが……そろそろこの辺りにも新人類が現れる可能性が高いからな。身を隠すのが一番だぞ」
守衛のおじさんは僕らの身を案じてくれている。
こんな人ばかりだったらこの世界ももっと平和だったんだろうな。
研究所へ入ると相変わらず人の気配はなかった。
とにかく長良の研究室まで急ごう。
「おい大我……迷いなくどこかに向かってるみたいだがここは何度も来ているのか?」
「まあそうですね。仲間がここの研究員ですので」
「そうか……それにしても心強いな。最先端の技術を使った兵器も作っているだろうし、これなら俺達も新人類に一矢報いる事ができるかもしれん」
正直僕は内心で思った。
彼らの装備では新人類打倒を掲げるのは無理だ。
そもそも自衛隊ですら苦戦を強いられるような殺戮マシーン相手にピストルやライフルのような豆鉄砲で勝負を挑む事が間違っている。
彼らにとってレーザーライフルや光学兵器の類は喉から手が出るほど欲しいだろう。
長良の研究室まで到着すると僕は数回扉をノックした。
すると自動で扉は開き僕らを招き入れてくれた。
「遅かったですね藤堂さん。ご友人の兵器は完成しましたか?」
「ああ、無事にな」
「それでそちらの方々は?」
僕は長良に剛田さん達を紹介した。
日本解放戦線と聞くと物々しい雰囲気があるが、実態は装備の貧弱なレジスタンスだ。
「俺は剛田正広ってもんだ。日本解放戦線のリーダーをやってる」
「日本解放戦線……なるほど、レジスタンスですか。私は長良美咲と申します。この研究所の主任をやっています」
「主任たぁなかなか優秀な方じゃないか。大我の仲間だと聞いているがそうなのか?」
「仲間、そうですね。ある意味仲間というより運命共同体と言ったほうが正しいかと」
長良の言葉選びはたまに分からない時がある。
剛田さんも漏れなく分からなかったのか首を傾げていた。
「あの……柴崎理沙です」
理沙が小さくお辞儀をすると剛田さんは驚いていた。
「おいおい、もしかして十郎さんとこの娘か?」
「は、はい。十郎は私の父です」
「そりゃ凄い!大我、彼女は絶対守るべき対象だ。人間保護団体は俺達にとっても味方だからな」
彼らにとっても理沙は保護対象のようだ。
銃を持った男に囲まれて萎縮しているが、彼らに理沙を襲うつもりはない。
「それで長良さん。俺達は新人類に一矢報いるつもりなんだが、如何せん武器が貧弱でな……。できれば武器や兵器の類を貸してくれないか?」
「ええ、構いませんよ。ただ、国の認可は降りていない物ばかりですので取り扱いには注意して頂きたいですが」
そう言うと長良はまた何処かへと去って行った。
倉庫から武器を運んでくるのだろうが、僕らに頼まない所を見るに、恐らく部外者が立ち入るとよろしくない場所に置かれてあるのだろう。
しばらく研究室で待っていると、前より大きなカートを押して長良が戻ってきた。
「ふぅ……流石に重かったです。はい、こちらが倉庫で眠っている兵器です」
カートの中には僕の持っているプラズマライフルや見たこともないものが沢山入っている。
あらかた説明を受けると僕らはどれを持って帰るか吟味することになった。
本当は全部持って帰りたいが五人で持てる数には限りがある。
一人二つから三つの武器や兵器を持つと出立の準備を急ぐ。
「藤堂さん、少しお話が」
「ん?ああ分かった」
真剣な表情で長良に問い掛けられた僕は一度研究室から出て廊下で話をする事にした。
「あの方達は藤堂さんの事を知っているのですか?」
「いや、知らない。言うつもりもないけど」
「そうですか。それでここへ戻ってきたという事は兵器は完成したのですね?」
「ああ。帰る途中に剛田さん達と会ってな。それで島に乗り込む話をするとあの人達も協力してくれる事になった」
長良に僕の計画を話した。
蛍の兵器はラムナスに限界まで近付かなければ効果がないと説明すると、長良は難しそうな表情を浮かべる。
「まさか超電磁パルス……いえ、高電負荷装置?その辺りの技術を用いている……」
「ちょっと何言ってるか分からないけど」
すると突然長良は目を見開き顔が触れそうな距離まで迫り口を開いた。
「藤堂さん……貴方、死ぬつもりですね?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます