第16話 抵抗する組織
はぁ、新人類を二人も殺してしまった。
見た目は完全に人間だ。
だからか罪悪感が今更ながら襲ってくる。
ライフルを撃った後の二人の表情が忘れられない。
驚いた表情に憎しみが混ざったような何とも言えない顔。
瞼の裏にこびりついているようにずっと頭から離れなかった。
部屋に戻ると蛍がチラッと目線を向けてくる。
「やったのか?」
「ああ……一応倒したよ」
「なんだ、浮かない顔だな」
顔に出ていたらしく蛍は怪訝な表情を見せた。
「なんというかさ……新人類といっても見た目は人間と殆ど変わらない訳で……」
「人を殺したような感覚か?」
「そう。人殺しってこんな感じなのかな」
蛍はため息を付くと作業の手を止めた。
「いいか?お前はこれからもっと沢山の新人類を殺すんだ。その為の兵器を作っているんだぞ。覚悟くらいしておけ」
「あ、ああ。もちろん覚悟はできてるよ。ただ、少しだけ慣れないことをしたせいで手が震えているだけだ」
気づけば僕の手は小さく震えていた。
この手で命を奪ってしまったという事実に動揺が隠せない。
「今の間に慣れておけ。これが完成すればお前は立派な大量殺人犯だからな」
「言葉にするとなかなかキツイな……」
「だが実際新人類側からしてみれば、お前はそう映る」
指導者を倒して終わり、というわけにはいかないんだろうな。
ラムナスのいる島へ乗り込む前に経験しておいて良かったかもしれない。
「ごめん。作業に戻ってくれて構わないよ。僕は大丈夫だから」
「…………」
蛍は無言でまた作業へと戻った。
ただ今回で分かった事がある。
新人類にもグループが存在し、各グループ事に命令系統が異なるという訳だ。
それでも一番トップに君臨しているのはラムナスに違いない。
ラムナスの凶行を止めればもしかすると、そんな甘い考えが脳裏をよぎる。
新人類の頭に入れられているチップに信号が送られ、それが命令になっているのではないだろうか。
よく考えてみれば新人類の中にも人間との共存を望んでいる者だって少なからず居るはずだ。
その人達すらも凶行に手を染める、そうなるとチップに強制的に行動するような信号命令が送られているのでは、と考えてしまう。
考えはまとまらず夜が来ると、小腹が減ってきた。
蛍は……まだ作業をしているようで邪魔してはいけないな。
何か腹の足しになる物があるか冷蔵庫を開けると驚くほど何もなかった。
あるのはエナジードリンクだけ。
よくこれで一人暮らしできているな蛍。
仕方ないと僕は近くのコンビニに行くことにした。
「蛍、邪魔して悪い。何か買ってくるけど欲しいものある?」
「……パンがあればいい」
パンね、まあ手も汚れないし作業しながら食べられるからだろうな。
僕はライフルを背中に新人類から奪った銃を手に持ちビルの外へと出た。
相変わらず外は静かで人の通りは一切ない。
一応都心部のはずだが、みんな避難しているんだろう。
コンビニまで歩くこと五分。
その間も誰かと出会う事はなかった。
コンビニからは明かりが漏れていて、営業しているようだ。
ソッと近付くと店員はどこにも見えなかった。
しかし店は空いている。
これはどういう事かと店内に入ると、本当に誰もいなかった。
とりあえず買い物は済ませようと僕は商品をカゴに入れていく。
最後にレジまで持って行くがやはり店員は出てこなかった。
「店を開けたまま避難したのか」
多分そうだろうな。
僕はレジの読み取り機に個人端末を当て購入した分のポイントを振り込んだ。
万引きはよくないからな。
人がいなくても払っておこう。
コンビニから出ると何処からか見られているような視線を感じ、銃を構えた。
僕が神経質になっているだけかもしれないが、警戒するに越したことはない。
足音を立てないようゆっくり歩くと、少し離れた生け垣で何かが動いたように見えた。
咄嗟にそちらへと銃口を向けると、人影が飛び出してきた。
「待って!撃たないで!」
飛び出してきたのはスーツを来た女性だった。
両手を挙げ降参のポーズを取っている。
しかし油断は禁物だ。
彼女が新人類か人間かの区別は僕にはできないのだから。
「アンタは……何者だ」
「わ、私は柊さくらです」
「人間か?新人類かどっちだ」
「に、人間です……殺さないで」
見た所武器の類は持っていないようだ。
それに本当に怯えているのか足が震えている。
僕はそれを見て銃を下ろした。
「あ、ありがとうございます」
「人間なら僕は撃ったりしないよ。それで?どうしてこんな所に?」
「買い出しです……私は日本解放戦線の一人でして、みなさんの食料を買いに来たんです」
日本解放戦線?聞いたことがないが、新人類と戦う組織なのだろうか?
普通のOLに見えるのに戦うのかな。
「日本解放戦線……隠れ家は近いのか?」
「そうですね、学校の地下を拠点にしています」
「なるほど……アンタ達は新人類に対抗する組織って認識でいいか?」
「はい、それで合っています。私達はラムナスが宣戦布告をするより前から日々少しずつ戦力を拡大させていきました。ですが新人類が想定より強く正直あまり戦果を上げられていないのが現状です」
目的としては同じみたいだ。
それなら彼女に協力するのも吝かではないな。
「案内してくれるか?僕も君達に協力したい」
「ほ、本当ですか!?」
「隠すつもりはないけど僕も新人類打倒を掲げていてね。既に三体の新人類を殺してる」
「す、凄いです!新人類はたった一人でも人間の数倍戦闘力があるというのに……」
まあ僕も新人類だから、とは言わなかったが普通の人間からしてみればそういう感想が出てもおかしくはない。
それだけ新人類は脅威なんだ。
「ただ……今はまだすぐに合流はできない。僕はある人をが作業を終えるまで守らなければならなくてさ。だからそれが終わればそっちに合流してもいいか?」
「もちろんです。新人類を倒せる戦力はすぐにでも欲しいくらいですのでいつでも来てください」
僕は柊さんと連絡先を交換し、帰路についた。
それにしても日本解放戦線か。
なかなか大きくでたな。
新人類は今どれくらいの規模感で暴れているのだろうか。
ニュースでは日々どこどこの施設が襲われた、攫われたなどと出ている。
いや待てよ?
ニュースを読み上げているのは人間のアナウンサーだ。
つまりテレビ局は襲われていない。
なぜだ?理由が分からないな……。
「大我、明日には完成できるぞ」
日も落ち食事を済ませていると蛍が不意にそう零す。
「え?早くないか?」
「早ければ早いほうがいいだろう。それだけ被害は最小に抑えられる」
確かにその通りだが、そんなに早くできるものなのか。
「俺だからこそできた話だ。普通だったら一ヶ月、いや、それ以上かかってもおかしくはない」
「どんな頭してんだよ……」
蛍は常人には理解できない知能を持っているらしい。
「あ、そう言えば気になったことがあってさ」
僕はニュースが普通に流れていてなぜ襲われていないのか気になった為、その旨を蛍に話すと彼は鼻で笑う。
「フン、そんなもの当たり前だ。命令系統の信号は島から本土にいる新人類のチップに直接送れやしない。恐らくテレビの電波を利用して信号を送っているはずだ」
「ああ、だからテレビ局は襲われていないのか」
納得がいった。
それならテレビ局は襲う対象にするわけにはいかないしな。
てことはテレビ局の電波を止めれば命令を送れなくさせられるんじゃないか?
僕がふと何かに気付いたような顔をしたせいか蛍が口を開いた。
「察しが良いな。まさにその通りだ。計画を進める時、俺がテレビ局の電波をジャックしてやる」
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