第14話 時には最終兵器をちらつかせ

クリスマスも目前に控えたその年の秋。


自分のところの大学の学園祭は、高校の文化祭と違って特にコレといった出会いはない。


何より、ダダ星人が強襲してきたのだ。


逃げるように、というか、僕はダダ星人から逃げてクラブの飲み会に参加しただけに終わった。


街がクリスマスのデコレーションで色づき始めると、街を歩く人々の姿もせわしなくなる。


誰もがクリスマスに心ときめかせているのかもしれない。


日本のクリスマスは欧米のそれと違った趣旨を持っている。


欧米のクリスマスは家族と平穏に過ごすイベントであって、教会のミサに行き、一年が平穏であったこと、そして次の年がまた平穏であることを祈るイベントであるのだ。


欧米と違う日本のクリスマスが悪いとは思わない。


それはそれとして、青春の1ページとなってそれぞれの人生の思い出を飾ることになるからだ。


しかし時には忘れたい思い出もある。


*****


僕はその日、木屋町で合コンに参加していた。


男3人、女4人という若干イレギュラーな構成。


地元から僕と同じ大学に通う友人が持ってきた合コンだ。


そいつの高校は地元の共学で、その時の女子に連絡を取ってくれたのだという。


合コン。


素晴らしくいい響きを持つ言葉だ。


しかし。


なぜ目の前の席にダダ星人がいるのだろう。


僕: 「えっと、ねえ、幹事のAちゃんはR大学なんだよね。で、どういうこと?」


僕の友人甲とAちゃんが幹事だ。


AちゃんがR大学ということなので、まるきり安心しきっていた。


実はAちゃんの友人Bちゃんは高校の同級生だったが、Bちゃんは某女子大に進学した。


そしてBちゃんは某女子大での友達であるダダ星人を呼んだのだという。


僕: 「まさかいるとは思わなかった」


ダダ: 「運命、かもね♪」


僕: 「おれが来るのは知ってた?」


ダダ: 「うん」


僕: 「一つ質問なんだが、そっちのメンバーが4人なのは、あとからキミが無理矢理に参加を希望したから?」


ダダ: 「・・・。」


運命でないのは確かだ。


僕: 「・・・。なるほど」


帰りたい。


とっても帰りたい。


しかし、そうなると男2人と女4人というアンバランスな構成となって、男2人が困ることになる。


帰るのは無理な相談だった。


そして無意味に時は流れる。


飲むお酒の量もある程度に達していた。


ダダ: 「ねえ、今日のアタシ、どう?」


どう?って言われても・・・。


顔の大きさはいつもと同じくらい大きいし、ダダ星人っぽいところもいつもと同じだ。


強いて言うなら、口紅のせいでいつもよりもクチビルの厚さが強調されている。


僕: 「なに?」


ダダ: 「実はねえ、ウフフ、今日はノーブラなの♪」


だから何?


僕: 「・・・ふーん。で?」


ダダ: 「21歳で処女ってヤバイかなあ。友達とかみんなもう済ませてるみたいやし・・・」


話のつながりがわからない。


僕: 「いいと思うよ。是非結婚までとっとくべきだよ。」


僕が小学校のときの担任の先生は、今時珍しい熱い魂を持った先生だった。


やんちゃだった僕は、毎日のように神崎先生に叱られたものだった。


先生: 「いいか、男はな、ウソをついちゃいけないし、思ってないことも言っちゃいけないんだ」


先生、ゴメンなさい。1時間前から適当なウソしか言ってません。


ダダ: 「でもなんかコワくってできひん」


僕: 「うん、痛いくらい分かるよ。コワくてできないってところ」


もし万が一仮にそうなっても、後の展開がどうなるのか、皆目見当がつかない。


この世の地獄が始まる気がしてならない。


ダダ: 「オトコはちゃうやん~」


僕: 「別の怖さだよ。説明が難しいんだけど」


一瞬、その恐ろしい展開を想像してみたが、あまりの怖さに考えるのをやめた。


ダダ: 「やっぱり好きな人とが一番やと思う?」


別に。本当に、別に。


僕: 「・・・。いや、結婚相手とが一番やろ」


ダダ: 「●くんて大学卒業したら関東に戻るん?」


一体何の話をしているのだろう。


僕: 「え?」


ダダ: 「今月の24日って空いてる?」


それってクリスマスだよね?


僕: 「京都にはいない、かなあ。和歌山の白浜にいる」


ダダ: 「空見てね」


ハイ?


ダダ: 「遠くにいても同じ空見てると思うと安心するから」


しないから。


全然しないから。


むしろ不安になるから。僕の未来が。


僕: 「えっと、Cちゃん。彼女相当酔ってるみたいだし、もう送っていって。口では平気そうでも、脳ミソやられ気味だし」


・・・。


女のコ2人を乗せたタクシーが走り出したのを確認して、僕は空を見上げた。


木枯らしが吹く寒い夜だった。


父さん、わけわかんねえよ。

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