あいつは馬鹿

 翌日になって、私は幼稚園でせんちゃんに謝りに行った。


「あの!せんちゃ……!」


 しかし、せんちゃんは既に別のグループに入っていて。


「なに?」


 不機嫌そうな顔をされた。


「ううん、おはよう」

「あっそ」


 しかも、まともに返事もしてくれなかったので、私は何も言えずに引き下がる事になったのだ。


「おあよー」


 代わりに、あいつが私に挨拶して来た。

 馬鹿っぽい舌足らずな言い方に、馬鹿っぽい顔だ。


「おはよう」

「今日は何して遊ぶー?」


 昨日初めて話したばかりだというのに、何故だかあいつは私に懐いてしまって、でも私も別にそれは嫌じゃなかったのだ。

 


     ♦



 そして、気が付いたらいつの間にか幼稚園ではいつもあいつと一緒にいるようになっていた。

 私は元々せんちゃんとしか一緒にいなくて、そのせんちゃんが別のグループに入ってしまったのだから、そうなるのは当然かもしれない。

 ただ、いつも一緒にいて思うのは、あいつは馬鹿すぎるのだ。

 鼻水はいつも垂れてるし、忘れ物もよくする。いつも笑っている。

 それだけじゃなくて、なんでも口に入れてしまうので、虫を食べたりするし、何かしているわけでもないのに、ころんだりする。

 とにかく馬鹿である。

 そのせいか、組のみんなからは少し避けられていたのだ。

 でも、私はそんなあいつの行動が面白いと思ってしまっていたし、そんなに嫌でもなかった。

 だから一緒にいたのだ。

 いつの間にか、あいつと私は友達になっていたのだ。

 事件が起きたのは、幼稚園を卒園する少し前の事になる。

 お遊戯会で、演劇をやった時の事だった。

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