第10話 猿芝居
緊急クエストが始まって数十分が経った頃、私はエイラと一緒に持ち場を離れた。
まぁネルが無双してるから大丈夫だと思うんだ。
多分、ネルは戦闘に必死で私とエイラが居なくなってることに気づかないだろうし。
そんな私に、エイラは困りながらも後ろを着いてきていた。
「あ、あの……何しに行くんですか……?」
「ああ、うん。なんか暇だから友達の様子でも見に行こうかなって」
私はエイラの質問を適当に返した。
エイラは尚更不安そうな表情になり、私との距離を詰めてくる。
「友達って誰なんですか? そんな遊びに行くみたいな感じで、持ち場を離れたらまずいんじゃ……」
エイラは至極真っ当すぎることを言い放った。
うん、めちゃくちゃその指摘は正しい。意味分かんないよね。
ここは本当のことを言ってみるか。
「剣の勇者を見に行きたいんだよね。私の古い友達だし」
「剣の……勇者様ですか? そんな方とお知り合いだったんですね」
剣の勇者という単語にエイラは少し反応を見せる。
あ、そう言えば私が勇者ってことをエイラは知らないのか。
どうしようかな。後で言った方がいいのかな。
まぁ今言っておくかぁ。
「私も同じ勇者だからね」
「……え?」
案の定、エイラは私の言葉に足を止める。
まぁこうなることは分かりきっていた。
ただの親切なお姉さんだと思ったら、勇者でした!なんて少し衝撃だよね。
でも勇者というのは信用のある職業なのだ。
開示して損は無い。いや、それどころか利用してやろう。
「だからエイラは大船に乗ったつもりでいてね。私の言った通りにすれば、全部上手くいくから」
私はエイラの手を握り、笑顔でそう言い放つ。
エイラの翡翠の瞳が揺れて、私に向けられる視線が少し変わった気がする。
ふふ、これぞ勇者効果。
親切なお姉さんから世界を救いそうな勇者へとの変身。
エイラもこれは私に心酔せざるをえない!
「う、嘘ですよね? い、いえ、そもそもありえません! 勇者様が私を選ぶなんて……」
エイラは急にしおらしくなり小さくなってしまう。
まぁ世の人が思ってる勇者って、偉大で神聖なものだしね。
治癒士も神聖ではあるんだけど、流石に勇者の希少性の前では劣ってしまう。
ま、私は神聖の欠片もないクズなんだけどね。
「いや、エイラが欲しかったんだよ。他の誰でもないエイラが必要だったんだよ」
私はそんな勇者という特権を悪用し、エイラを言いくるめる。
流石にそんな軽い言葉でエイラの不安は払拭できないだろう。
でも、勇者に選ばれたという期待は残せたはずだ。
「ミラさんは私に期待してくれてるんですか……? 私、本当に何もできませんよ?」
「そんなことない! エイラは可愛いし、流されやすくて意外にチョロいし!」
私は適当に思いついた褒め言葉をエイラにぶつける。
これは本音だ。
それにエイラはいざとなったら覚悟を決めて、私の代わりに死んでくれそうだし。
あと可愛いし、意外と流されやすくて私は好き。
「そ、それって褒めてます……?」
「うん。褒めてるよ」
小さく縮こまってしまったエイラの金髪を撫で撫でしながらそう答えた。
エイラはほんのり頬を紅く染め、恥ずかしそうに俯いていた。
この反応、私の期待通りの反応だ。
ただ持ち場を離れる言い訳をするつもりが、予想外の収穫だった。
エイラとの親密度も上げれたし、後はミリナに借りを作れば完璧だ。
*
数分歩くとミリナの持ち場の辺りまで来た。
ここら辺のエリアは全部ミリナのカバー範囲だ。
控えめに言ってめちゃくちゃ広い。
剣の勇者なだけあって、やっぱり緊急クエストではめちゃくちゃ頼りにされている。
まぁ実際、ミリナはこれくらいの範囲なら普通にカバーできるほど強い。
近くで見ていたから、私がそれは一番分かっていた。
「あ、見えましたよ」
隣を歩くエイラが遠くを指さす。
その先にはミリナの姿があった。
既にミリナの全身は返り血に染まっていて、近接特有の歴戦感があった。
今まで何体の魔獣を倒してきたんだろうか。
ん? というかミリナってまだパーティーメンバーいないんだ。
私から別れてから、一度もミリナが他のメンバーと組んでいたと聞いたことはなかった。
やっぱり、私が忘れられないんじゃないの?
私は少し嬉しい気持ちになりながら、ミリナに近づく。
そして、ある程度近づいたところで草の影に隠れた。
「え? ど、どうして隠れるんですか?」
私が隠れたことにより、エイラも困惑しながらも私と一緒に隠れる。
「久しく会ってないから驚かせたい……? みたいな感じかな」
私は適当に言い訳して、ミリナの戦闘を見守る。
エイラはそれ以上何も聞かずに、私と一緒に隠れていた。
結構従順になってきたな。少し前なら文句の一つぐらい言ってそうだけど。
私はじっとミリナの戦闘を見守る。
ミリナは持ち前の剣技で次から次へと来る魔獣を圧倒していた。
やっぱり、剣の勇者の力は伊達ではない。
あー、本当に私のパーティーに入ってくれないかなぁ。
大体の敵はミリナが倒してくれるのになぁ。
少し惜しい気持ちになりながらも、私は好機を待ち続ける。
「はぁ……はぁ……」
一通り魔獣を倒し終わり、息を荒らげるミリナ。
お、いい感じ。
地平線の先には、まだ魔獣の大群がミリナに向かっていた。
もうそろそろだ。
私は立ち上がり、準備をする。
「エイラはここで待っててね」
「え? あ、は、はい……」
私はエイラを待機させ、こっそりミリナに近づく。
遠くに見えていた魔獣の大群はミリナの前まで迫っていた。
大群と言えど低級の魔獣ばかり。
ミリナなら難なく全滅させることができるだろう。
しかし、今のミリナは少し疲れている。
ちょっとぐらい傷を負ったりすると思うんだよね。
そこが私の狙い目だ。
魔獣の大群がミリナとぶつかる。
ミリナは何匹もの魔獣を一瞬で葬る。
しかし、既に背後に回った魔獣には気づいていないようだった。
「ア、アブナイー!」
私は大声を出して、ミリナの背中を押した。
「は、はぁっっ!? ミラ!? なんで!?」
私に突き飛ばされたミリナは、大声で激怒する。
その次の瞬間、背後から迫っていた魔獣が頭上を通過する。
そして、私の肩に鋭い痛みが走る。
正直、あんまり痛くない。
でも、まるでミリナを庇ったみたいになったよね。
「あ、あんた……私を庇って……」
ミリナはようやく悟ったような顔をする。
うん、庇ったというかほぼマッチポンプだけどね。
多分、私がいなくてもミリナは簡単に避けれた思う。
私が押したことによって、ミリナの判断が遅くなっただけだし。
まぁともかく私の任務は完了した。
あとはめちゃくちゃ重傷を負った感じを出して……。
「ミリナが無事で……良かった……」
私は息を荒らげ、ミリナに笑顔を向けた。
そして、用意しておいた完全睡眠薬を飲み込んだ。
これでほぼ無傷でも簡単に意識を失える。
重傷負ってる感の演出としては完璧に近い。
私の意識はそのまま暗転した。
さ、流石に演技臭すぎた?
大丈夫かなぁ。
意識を手放す瞬間まで、どうしても不安は消えなかった。
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