第2話 どうしたの話聞こうか?

 一個目の爆弾候補の魔法使いネル。

 魔法学園に通ってたこともあって、きっと最低限の魔力量は担保されている。

 爆発すれば大体の敵は消し飛ばしてくれるはず。


 でも、爆弾だけ持ってても起爆しないのなら意味はあんまりない。

 いつでも起爆できるように準備しなくてはならない。


 大丈夫。私はその方法を知ってる。

 その名も『どうしたの? 話聞こうか?』戦法である。

 相手を心酔させるためには、とにかく話を聞いて仲を深めることが大事だ。


 私は適当な店に入り、席に着いた。

 ネルは後ろからトボトボ着いてきていた。


「あっ……」


 私が座ったのがカウンター型だったせいか、ネルは着席する席に迷いを見せた。

 対面に座るか、隣に座るか。

 結構迷うよね。私もたまに迷いがち。

 ふふ、これを見越してカウンターにしたんだよね。


「ネルはここね」


 私は隣の椅子をポンポンと叩き、ここに座るように促す。

 一瞬だけ戸惑ったネルだったが、大人しく私の隣に着席した。

 ふふ、私の指示に従ってくれた。

 こうやって何度も行動を指示することで、私からの命令を無視できなくする。

 徐々にハードルを上げて、最後には何でもやってくれるようになる。


「あ、とりあえず紅茶で。ネルも同じでいいよね?」


 ネルが座ったのを確認して、即座に注文をする。

 一瞬、うっとネルの声が聞こえてきた。

 紅茶はあんまり好きじゃないみたい。

 まぁ好きにさせるから、この段階ではどうでも良いんだけど。


「あ、あの、何もできなくて良いって……」


 注文してから意外にも最初に口を開いたのはネルだった。

 私から質問しようと思ったのに……。


「うん。ネルは別に私の隣にいてくれればいいから」


「え? そ、それってどういう……」


 流石のネルも私の返答に困惑しているようだった。

 ここで「ネルには自爆してもらえばなんでもいいよ」と言えるはずもない。

 私はとりあえずネルの手を握ってみる。


「っ……」


 ネルは私の行動にまたもビクッと体を跳ねさせる。


「私ね、ずっと一人で戦ってたんだよね。だからネルみたいな子と一緒に冒険したいなぁって」


 めちゃくちゃ嘘。

 だけど、同じ目線になることで心を開きやすくなるらしいし。


「…………」


 私の言葉にネルは何の言葉も返さなかった。

 いや、多分返せなかった。

 ここで質問の答えになってないなんて、思えないよね。

 手も握ってるし、きっと頭はあんまり回ってないはず。


「ネルはどうして募集止めちゃったの? 魔法学園に通ってたんでしょ? 立派な魔法使いだよね?」


 私はここが好機とばかりに質問を投げかける。


「そ、それは……」


 私の質問にやはりネルは言葉を詰まらす。

 まぁそうだよね。さっき同じようなこと聞いて、答えてくれなかったもんね。

 でも、今なら聞き出せる気がする。


「大丈夫。どんな話でも聞くから」


 私は温めておいたセリフを口に出した。

 その言葉に私の顔に視線を移すネル。

 ネルの表情は縋るような切なそうな表情をしていた。

 その反応に私は勝ちを確信した。


「私、魔法が撃てないんです……。どうしても手が震えちゃって……模型相手なら撃てるんですけど、生きてる相手だと……」


 ネルは私から目を逸らし、俯きながらそう告白した。

 そのあまりに平凡な悩みに私は少し呆気に取られる。


 あ、ああ、よくあるやつね。

 魔法学園卒業だから、さぞ複雑な悩みを抱えていると思ったら結構普通だった。


「そうなんだ……それは辛いよね……」


 私はうんうんと深々に頷き、共感してる風を装う。

 まぁよくある悩みだったから解決は簡単そう。

 私は少し安心しつつ、店員が持ってきた紅茶に手をかける。


「ほら、一緒に飲まない?」


 私はもう一つの紅茶をネルの視線に持っていく。

 俯いたままのネルの視界には、私の手と紅茶が映っていた。


「す、すみません。頂きます……」


 ハッとしたようにネルは顔を上げ、紅茶に手をかけた。

 適当にこの紅茶はよく分からない地方の茶葉を使ってて〜とか解説してみる。

 ネルはバカ正直に相槌をしながら話を聞いてくれた。


 紅茶を飲み干すと、ネルは椅子から立ち上がった。


「わ、私、頑張ります! せっかく誘ってくれたんですから期待に応えたいです」


 ネルは何故かやる気が出てしまったようで、そう私の目を見ながら宣言した。

 めちゃくちゃ上出来な結果に、私は満足気に頷いた。


「ふふ、程々でいいよ」


 私も立ち上がりネルの頭を軽く撫でてみる。

 ネルは私の手を振り払うこともせず、ただ私の目をジッと見つめていた。

 その目はまんま飼い猫のような庇護欲を沸き立たせる感じ。

 私の欲しかった目をしていた。


「あの……あなたの名前は……?」


 ネルは私にされるがまま撫でられながらも、そう声を出した。

 あ、そう言えば名前すら名乗ってなかったっけ。

 私はとりあえず撫でるのを止める。


「私はミラだよ。これからずっとよろしくね」


 私はそう言って右手をネルに差し出す。

 ネルは律儀に両手で私の手を握り返してくれる。

 いや普通握手だから両手ではなくていいと思うけど。


「よ、よろしくお願いします!」


 ネルは深々と頭を下げる。

 思わずネルの可愛いつむじを撫でたくなってしまう。

 我慢しないと。まだ伝えなきゃいけないことが残ってるから。


「あと私勇者だから。そこもよろしくね」


「……え?」


 私は最後にネルにそう告げた。

 言うまでもなくネルは小さく声を出して固まってしまった。


「じゃあ行こっか」


 そんなネルに考える余地を与えないように、ネルの手を引っ張った。

 そして、すぐに店を後にした。


 ここで深く考えさせちゃダメだ。

 こういう子は深く考えすぎて、断られてしまうかもしれない。

 あんまり重要じゃないことと刷り込むことが大切だ。


 私は考える余地を与えないように、適当に話をペラペラと話し続けた。

 流石にネルの相槌も覚束無かったけど、今はこれでいいかな。

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