第3話 神宮寺オカルト相談所 その二

 あまりのタイミングの良さに『そんなことある?』となったが、貴重な依頼人がやってきたことは間違いない。

 そんなわけで作業(暇潰し)を中断。依頼人を丁重にもてなしつつ、話を聞く態勢へと移行する。


「──えーと、では軽く自己紹介から。神宮寺蒼炎です。この神宮寺オカルト相談所の所長をやってます。そして彼が」

「助手の佐伯幸太郎です」

「補足すると、配信では『サチ君』で通ってますね」


 その補足いる? いやまあ、配信見て依頼しに来たとは言ってたけど……。


「あ、そうなんですか!? ……え、結構若い。もしかして高校生だったりする?」

「まだ高一になったばかりですね」

「そうなの!? うわ年下なんだ!?」


 めっちゃ驚かれたな。確かに配信だとカメラマン役だし、画面には一度も映ったことはないけども。そんなに意外だったんだろうか? 


「彼はしっかりしてますからね。配信内のトークだけだと、確かに実年齢より上に思えても不思議じゃないでしょう」

「そーですねー。私も二十歳ちょいぐらいのお兄さんのイメージでした!」

「それは僕の方だね。一応これでも二十代だから」

「そうなんですか!?」

「いやアンタ確か二十七だろ。『ちょい』にカウントするなよアラサー」

「心はいつでも若々しくだよ? まあ、見た目は大人の色気たっぷりのお兄さんだけどね」

「アンタのそれは色気じゃなくて胡散臭さです」


 無駄に顔が良いのは否定しませんけども。それも合わさって余計に雰囲気がやべぇんだよアンタの場合。インテリヤクザの若頭にしか見えねぇんだわ。


「っと。失礼しました。つい普段のやり取りを」

「いえ! とても面白かったです! それに神宮寺さんは、とっても素敵なお兄さんだと思います!」

「おや。また随分と嬉しいことを言ってくれますね。これはサービスをしなきゃだ」

「ウィンクするな依頼人に色目使うな。警察呼ぶぞアラサー」


 この人、制服着てるし明らかに女子高生だろうが。しかもわりとキャピキャピしてる系の。限度からしてノリも軽めだし、現状ですらギャル一歩手前ぐらいの印象なんだわ。

 ただでさえアンタは胡散臭さMAXのインテリヤクザなんだから、推定陽キャ女子高生に調子の良いこと言わんでくれ。事案にしか見えねぇから。


「相変わらずサチ君は辛辣だねぇ」

「いいから本題促してくれません?」

「それもそうだね。えっと、まずはお名前をお窺いしても?」

「あ、すいません! 石動真奈っていいます! 穂波女子大附属に通ってます! 二年です!」

「石動さんですね。それにしても、穂波女子大附属ですか」

「……何故そこに反応した?」

「あれサチ君知らないの? お嬢様学校で有名なんだよ」

「へー」


 そんな学校あんのか。そして有名な……いや誤魔化されねぇよ? なんでつい最近まで受験生だった俺が知らねぇのに、大人のアンタが知ってんだよ。その時点でまあまあギルティだろコレ。


「仙崎さーん。念のため通報の準備お願いします」

「分かりました」

「分からないでね? サチ君も誤解だよ? この辺りだと有名なんだよ。それに霊能士としても、気にしておく必要がある場所だし」

「……というと?」

「あの学校の女子寮、かなり出るんだよ。女子校っていうある種閉鎖的な空間、さらに寮って限定された場所の話だから、あんまり外には伝わってないんだけど」

「そうなんですか!?」


 おっと石動さんが反応したぞ?


「あれ? 穂波女子の生徒さんだから、てっきり学校関連かなって思ってたんだけど。その反応からして、もしかして違うのかな?」

「は、はい……。その、お願いしたいのは、プライベートな内容です」

「あ、そうなんだ。これは失敬。無駄に不安になるようなこと言っちゃったかな?」

「だ、大丈夫です。私、寮暮らしじゃないので。……かなり気になりますけど」

「あー。念のため言っておくと、危なくはないよ? かなり昔から言われてるけど、大事になったなんて話は聞かないし。それにいまのご時世だと、そのへんの対処はしっかりしないと問題になっちゃうからね。ちゃんと専門の霊能士を雇って、定期的にチェックしてるはずだよ」

「そうなんですか?」

「うん。昔……まあ、二、三年前なんだけど。その時にさ、オカルト関係の法律がいろいろ設けられたでしょ?」

「……」

「おっとー?」


 所長が珍しく困惑しとんな。話の流れで一拍置こうとしただけなのに、予想してたリアクションが返ってこなかったからだろう。

 てか、マジか。キョトンとしてるけど、石動さんマジか。あの騒動、かなりやべぇことになってたはずなんだけど?

 切っ掛けが切っ掛けだし、そこからの一連のアレコレで世界が完全にひっくり返ったのよ? しかもわりと最近のできごとよ?

 

「えーと、ニュースとかで見た記憶とかない?」

「……見た記憶は薄らあります。凄い騒ぎだったのは憶えてます。……イギリスでしたよね?」

「イタリアだね」

「ひぃん……」


 おもくそ間違えたなオイ。同じヨーロッパの国ではあるけど、そこは間違えちゃ駄目なところでしょうが。いや、本当にいろんな意味でさ。


「ごめんなさい! 私、その、凄い馬鹿なんです! 中学の時だと、思い出以外は全部受験勉強で押し流されちゃったんですー!!」

「……まあ、うん。心霊とか怪異とか、オカルト系の内容は、アレ以降だとテレビから駆逐されちゃってるからね。忘れるのも仕方ないと思うよ?」

「本当ですか!? 仕方ないですか!?」


 石動さん、石動さん。仕方なくない。全然仕方なくない。今日会ったばかりの、それも依頼しに来た人に向けて言うことじゃないけど、メタくそにヤバいです。

 うちの所長が苦し紛れにフォロー入れてる時点で相当です。てか、マジでこの人が動揺してる姿とか久しぶりに見たな。何年ぶりだ?


「……このあたりの解説いる? 話長くなるし、あんまり本題には関係ないと思うけど」

「お願いします! 気になるので!」

「そっかー」


 そっかー。

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