第七話 欠片
カナタは、欠片を手に取ったまましばらくその輝きを眺めていた。
その光は、まだ冷たく、しかし確かに力を感じさせるものだった。
それがただの石に過ぎないのなら、なぜあんなにも強く引き寄せられるような感覚があるのか——。
「どうしてだ?」
口に出してみても、答えは返ってこない。
しかし、カナタはそれをただ手放すことはできなかった。
村の中で何か答えを知っている者がいるかもしれない——そう考えたカナタは、まず村の広場に足を運ぶことにした。
人々が集まって話している様子を見つけ、彼はさりげなく近づいた。
しかし、何を話しているのか、すぐにはわからなかった。
それでも耳を澄ませるうちに、ぼんやりと聞こえてきたのは、不安を募らせる言葉だった。
「またあの音が聞こえたんだって」
「夜中に、村の外から変な音が……」
「家畜もまた、逃げ出したんだろ?」
カナタはその言葉に少し驚き、足を止めた。
家畜の異常な行動に関する話は、昨日も耳にしたが、今、それが異物と関係があるのではないかという言葉が浮かび上がってきた。
彼はすぐにその話題を掴みたかったが、どうしても言葉をかける勇気が出なかった。
そのまま、村の広場を後にし、次に向かったのは村の長老の家だった。
長老なら、何か知っているかもしれない——そう考えたのだ。
「すみません、長老。」
カナタは控えめに声をかけ、長老のもとへ歩み寄った。
長老は静かに振り向き、その視線をカナタに向けた。
「どうした、カナタ?」
「ちょっと、聞きたいことがあって……」
「最近、村で不安なことが続いてますよね。家畜が逃げたり、外から不気味な音が聞こえたり。あれ、もしかして……」
長老は微かに黙り込んだ。その表情に、どこか隠しきれない不安が浮かんでいる。
「それはな、カナタ。私たちも心配しておる。だが、今はまだ詳しく言えん。何かしらの悪い影響が出てきておるのは事実だ。だが、今は無理に手を出すのが危険かもしれん」
その言葉に、カナタは唇を噛んだ。
(やっぱり、誰も知らないんだ)
心の中で感じる焦りと不安が、カナタを押しつぶすようだった。
だが、それでも答えを探し続けなければならないという思いが強くなった。
「でも、長老。僕は、あの欠片について調べたくて。何か、知ってることはありませんか?」
長老は少し黙り込んだ後、深い溜息をついた。
「欠片か……。お前もそれを拾ったのか。」
その言葉に、カナタの心が跳ね上がった。
「まさか、それが……」
「いや、あの欠片に関しては、村の者も多く知っておるだろうが、詳しいことはわかっておらん。だが、私も昔、何か似たようなものを見たことがある気がする。しかし、それを深く調べることができなかった。すまん」
カナタは何も言えなかった。
結局、長老のところでも有益な情報は得られなかった。
むしろ、村の誰もが欠片について詳しく知っているわけではなく、何か知っていることがあったとしても、話すことをためらっているような空気が漂っていた。
───
カナタは長老の家を後にした。
期待していた答えを得ることはできなかったが、心の中にはさらに深い疑問が残った。
欠片が何なのか、どうして自分に降りかかってきたのか、その答えを知るために村の中であれこれ試してみたが、どうにも情報が足りない。
村の広場で再び耳を澄ませ、村人たちが話しているのを聞いたが、そこでも何も有益な情報は得られなかった。
「これじゃ、いくら聞いても無駄だ……」
カナタは心の中でつぶやいた。
村の人々があまりにも警戒しているように感じられ、どこかで欠片のことを話すのをためらっているようだった。
それに、村の中では情報も手に入らず、ただ時間が過ぎるばかりだった。
その時、ふとカナタの頭に浮かんだのは、父親のことだった。
彼の父親は昔から物を集めるのが好きで、村のほかの家では見かけないような珍しい道具や物を集めていた。その中には、見たことのない物もあった。
カナタは、急にその記憶がよみがえった。
「父さんの地下室……」
父親の地下室には、彼が集めた珍しい物が数多くしまわれている場所があった。
中には、誰も見たことがないようなものや、あまり触れてはいけないと言われていた物も多い。
そして、あの欠片と似たような物があったのかもしれない。
「もしかして……あの地下室に何か手がかりがあるかもしれない」
カナタは自分の心臓が高鳴るのを感じた。
父親がどこかで聞きかじった異物に関する情報を知っていたとしても、それが役立つのなら——
そうだ、地下室だ。
急いで家に戻り、カナタは地下室へ向かうための道を駆け足で歩き出した。
普段ならあまり行かない場所だが、この時は急いで足を踏み入れたくてたまらなかった。
父親が使っていた鍵を手にし、地下室の扉を開ける。
扉がきしむ音を立て、カナタはそのまま地下室に入った。
暗闇の中で、埃っぽい空気と一緒に古びた物が並べられている。
棚には無数の道具や本、奇妙な物が並んでおり、カナタは目を凝らしてそれらを見ていった。
その中で、目を引いたのは一冊の古びた書物だった。
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