エウレカ?3

 少年は放心していた。


 己の想定を遥かに超える事態に遭遇したがゆえに。あまりの状況に、まだ経験の少ない知能が理解を拒絶したがゆえに。

 

 死んでゆく。


 まさしくホラー映画としか言いようのない光景。もっさりとした天然パーマの男が仲間たちを毒殺していく衝撃。あまつさえ、その犯行に迫る仲間を躊躇なく撲殺する残虐さ。天然パーマの腕は鋼鉄の鈍器と成り果てている。


 遅効性の毒に苦しみもだえながら次々と息絶えていく仲間たち。それを無感情に見届ける天然パーマ。何もかもが許容量を超えたとき、すべてが歪み、名状しがたい恐怖へと変わっていった。

 

「あんまりだよ、こんなのって、ないよ……」


 漏れた言葉は、ただ虚ろだった。

 

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 それはとある場所での出会いからはじまった。

 

 とある県のとある街。田舎に新しい巨大団地を建築しちゃって、これから日本の未来は明るい、"さー稼ぐぞー"なんて考えていた時代の話だった。うーん、なんでそんなにお気楽だったんだろ。


 そこは鉄道は通っているが、昼には46分待ちが発生する、そんな団地だった。どことは言わないが、◯郷団地とか、◯郷団地とか。


 少年は親に買ってもらったばかりの自転車を得意げに乗り回しつつ、小腹を揺らして駆け抜ける。


「そーいえば、今日あたりだったかな?」


 それなりの記憶力を有していた少年は、ペダルを踏む力を弱め、とある場所で華麗な(つもりの)停車をかました。小腹が揺れる。

 行きつけの場所。なんの変哲もない、いつもの眺め。のちに、あんな状況に叩き込まれるなんてかけらも考えていない呑気な表情。

 ちなみに、当時は自転車に電子フラッシャーをつけるのが少年達の憧れだった。もちろん買ってもらえない。


 明るく広い入口に小腹が引っかかることはない。

 そそり立つ。背の高い棚が並ぶなかに細長い通路がある。

 目的の通路まで一目散で進み、ワクワクを隠せない瞳であたりを目視チェックし始める。


 そして、そして、出会ってしまった。光沢ある緑のつらなりに。

 

 祝福されるように光を浴びて輝く、緑の甍。その甍が少年を手招く。

 だが、少年を地獄に突き落とす悪魔の招待状。


「やっぱり、今日だった」


 逸る心を抑えきれず、震える指で夢の招待状を手に取る。そこに記載されていたシリアルは1番だった。

 

 気がつけば少年は、大切そうに、そのくせちょっと乱暴にそれを懐に抱き、夕暮れの団地を疾走していた。無論、◯郷団地とか、◯郷団地とか。


 招待状を手に入れたならば、参加しないわけにはいかない。むしろねじ込む。時間を作って、なんとしても。

 若さゆえの不退転の決意と思い込みで、少年はなんとかパーティに参加することに成功した。悪夢の微笑むパーティーに。

 

 今まさに開場の刻!

 開けよ、ボク!ボクよ開け!この衝動を憧れに変えて未知の扉を開くのだ!

 

 かくして、少年の惨劇の幕が上がった。

 

 最初は少年の知るパーティそのものだった。難しい局面はあっても、頼れる仲間に助けてもらいながら順調に進んでいく。希望と予定調和に満ちた楽しいパーティ。黒い紳士淑女が白い絨毯に踊る。終わらない黒の輪舞を、目を輝かせて追いかける少年。

 それが変わり始めたのは、パーティが中盤を迎えた頃だった

 

 いきなり白い絨毯で自在にシュプールを描いていた紳士淑女が倒れ、苦しみにのたうち始める。

 

 急転。

 少年は目を見開き、ただただ、うろたえる。理解が追いつかない。

 

 そして、少年を置き去りにして悪夢が進む。参加者の眉がない紳士が、毒を盛った犯人として冴えないパーマの紳士を糾弾している。

 無表情に糾弾を聞く天然パーマ。そのまま表情を変えることなく手袋を取り去る。そして手袋を取った腕をおもむろに眉なし紳士に振り下ろした。

 鈍い打撃音。天然パーマの腕は鈍く光る金属棒だった。崩れ落ちる眉なし。

 

「あ、あ、あは、あは……、エウレカ、こんな招待状見つけたくなかったよ……」

 

 目前に広がる惨劇に少年の理性がこぼれていく。

 そのまま少年は全く救いのない結末まで、パーティから逃れることはできなかった。

 

 "朝日ソノラマ文庫版宇宙戦艦ヤマト”

 

 それは非情の黒歴史。島さんがガミラスに改造されて、クルーを毒殺しまくった挙げ句、真田さんを鋼鉄の腕で撲殺する異端の経典。

 少年はコスモクリーナーもなく、ガミラス、イスカンダル全滅、地球人は人間改造という結末に打ちひしがれていた。

 

 END

 

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朝日ソノラマ文庫の栄えあるシリアル番号1番。石津嵐先生著の宇宙戦艦ヤマト。

親会社の"大本営発表"なTSJG団には含むところがカリバダム5杯分くらいありますが、かの「吸血鬼ハンターD」を上梓していた朝日ソノラマ文庫は、ラノベの黎明を支えた存在でした。

でもね、この展開はないと思うんだ……

人間改造エンドは故中里融司先生が”ドラゴン・パーティ”で採用していましたが。


なお、石津嵐先生の他の作品もなかなかアレです。「宇宙潜航艇ゼロ」とか「キャプテンシャーク」とか。ド緑の背表紙が目印です。

流石に絶版。

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