第22話

…………凍えるような空気に目が覚める。


「寒…あれ?んだここは?」 


見覚えの無い空間に自分は居る…そこには天井も地面も無く果てのない虚無が広がっている。しかし、一つだけ目立つ物がある。  


「何だこりゃ…?」


空間にホログラムの様に浮かぶ映像が流れる…そこにはサリエル達と戦っている見知らぬ女性と、サツキとネフェルの猛攻を捌く自身の姿が映る。


「…どうなってんの?」 


(恐らくハルヒメが来た事は想像がつくけど…何で自分がサツキ達と戦っているんだ?ミズチの人格はハルヒメの側についたのか?)


─────────────────



「…戦っても無駄に傷付くだけだから、やめておいた方が良いよ?」


「そういう貴様こそ、手を抜いているじゃないか?一瞬で勝負を片付けられる癖に面倒な手段を取って…」


「…分かってるなら降伏してくれない?」


「嫌だね!憂さ晴らしに戦わせなよ!」


「はぁ…」


どうやら、単なる組み手のつもりらしい…


[チセ…チセ…?聞こえるか?]


「え」


[起きるのが遅いな…]


「えと…ミズチか!?」


[うん…]


「何でこっちとお話が出来る?俺は出来ないのに…」


[君に理解出来る様に言えば…この肉体というサーバーの運営者が僕で、君はユーザーだ。単に利用する権限が無いから使えない…僕が肉体の主ではあるが、権限を譲渡出来る訳ではない。]


「な、なるほど…というか、何で地球の情報を?」


[君の記憶を通して、色々と学ばせてもらったよ。]


「…マジ?」


[どんな世界にいたのか、どの様な国家と文明が存在しているのか…君の持つ知識に性格や前世、過去の恥ずかしい思い出から女の好みまで知っているぞ?]


「………秘密にしてね?」


[さて、茶番はここらへんで終わらせて…色々説明しておこう…僕が目覚めたのは魂の比重が変わったからだ。]


「どゆこと?」


[私達は明暗と寒暖によって役割を交代している。お前は眩い炎で、僕は冷たい闇だ。今起きている日食によって、太陽の光と熱は遮られ…僕に役割の比重が傾いた…理解できる?]


「…つまり明るい時に俺が出て、暗い時にミズチが出るって事で…俺達の関係は月と太陽みたいなもんか?」


[そんな所だね。本来なら日食で闇が深まった時に僕の肉体は目覚める筈だった…けど、君が僕の肉体に混じった影響で…本来生まれない僕の人格が生まれたのさ…]


「…元々人格が存在していないと?」


[あぁ、本来なら僕は初代魔王の仮の肉体となるはずだったからね。そんなものに魂など不要だから、本来僕は存在しないはずだった。]


「は、はぁ……?よく分からないけど…植物状態?だったのか…」


[僕が目覚める前に肉体の主導権を握り、魔王の器として運用する筈だったが…入り込んだ君は僕の肉体を乗っ取る程歪んでもいなければ、溶けて消える程弱い訳でも無かった…さて、そろそろ時間だ…]


「え?」


[そろそろ交代の時間が来る…ハルヒメから継承石を奪い取るんだ、後の事は追って知らせる。]


「え?あ!」


停電の様に明かりがぱっと消え、闇に飲まれていく…


「はっ…!」


気が付いたその時には目覚めていた。そして…


「ウルアァッ!」


目の前から戦闘モードのサツキとネフェルが飛び掛かってくる。


「ほひぃっ!?」


「え…」


「…戻ったのか?」


「あ…危ねえ…」


「スンスン…」


「?何か匂う?」


「チセの匂いがする。」


「?????」


「…ミズチと変わった時、お前の匂いも温かさも消えてしまったから…」


「あ、あぁ…そういう…?」


(多重人格の人間は体質も変化するらしいし…そういうもんか…?)


「えっと…そういえばサリエル達は…」


「片付いた…」


背後から話しかけてきたハルヒメは言う…三人は鋭い刃の傷跡だらけだ。


「何をしているの?二人を手懐けるのはいいけれど…まだ仕事はあるのだから…」


「…うん」


[チセ?聞こえる?]


(どうすりゃいいの!?ヘルプ!)


[焦んないの…首飾りをひったくって大人しくさせるんだ。あの石の影響が消えれば話を聞く気になるだろう。]


(…どうやって?)


[彼女は強いから思いっ切り頭をぶん殴ればいいんだよ。首が飛んでも死なないならそのくらいやっても死なないよ。]


(脳筋すぎる…)


[…良心が痛むなら毒で麻痺させればいい。]


(あ!いいねそれ!)


「さあ、行くぞミズチ…魔王の復活は近…がっ…!?」


後ろからハルヒメの首筋に牙を突き立て、毒を流し込む…


「何をする…!うぅ…!?」


(ちらっと見た程度だが…彼女の技は視界を塞ぐ暴風と不可視の鎌鼬かまいたちの斬撃と、急降下の不意打ちを叩き込むスタイルだ。その中でも風に乗る飛翔能力は繊細な身体のコントロールが成せる技だろう…)



「これは…力が抜ける…!?」


「ごめんね…」


首飾りを外してポケットに突っ込み、倒れ込んだハルヒメを支える。



「…な…に…を」


「今はただ眠るんだ…」


尻尾を枕にしてハルヒメを寝かせ、頭を撫でる。


「何の…つも…り…だ…」


(…あれ?なんだか…とても温かくて…眠たい…)


「………」


「…死んだのか?」


「し〜…寝てるだけだよ、ホラ。」


先程までの鬼気迫る姿は跡形もなく、そこには静かに寝息を立てる少女がそこにいる。


「…さて、次の事を考えなきゃなぁ…」


手の内に握った継承石は、先祖達から受け継いだ野心を燻らせ続けていた…



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シャバ蛇尾蛇尾 ハトサンダル @kurukku-poppo

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