第14話
「…嘆かわしいな、魔王と和平を結ぶなど…夢物語に過ぎぬ…!」
「あぁ、魔王が我らと相容れない事は歴史が語っているというのに…法王様も考えが甘すますぞ!」
「和平など有り得ませぬ…!魔王の本性など、火を見るよりも明らかであろう!我ら勇王讃会は魔王を殺さねばならぬ。法王よ…!忘れたのか…!?」
「いいや…主らこそ、忘れておる。勇王シルヴァは魔族にも救いの手を差し伸べんとした事を。魔王に僅かでも罪の意識があれば…それも実現したであろう…魔王さえも救おうとしたのが我らの祖である。ならば、我らもそれに従うまでだ。」
「あぁ…!法王はご乱心なのか…!?」
「故に我らは魔王が新たなる災厄となり得るか見定めねばならんのだ。」
勇王讃会では魔王との和平の場が設けられる、などという世迷言が噂となっていた。
「良き事だろうに、酷い言い草だな…」
「何代にも渡って侵略と殺戮を繰り返した一族に、信用など出来る訳無いじゃない?殺されかけたの忘れたの?」
「同感です。内面に隠されたあの冷徹な本性に未知の能力…サリエルは他者の善性を信じ過ぎなのです。怠惰なあの姿が単なる演技とも思えませんが…それにしたって、魔王への信頼などあり得ません」
「いずれにせよ、法王様か直々に向かうんだ。良き結果を祈ろう。」
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「ふ〜む…」
「どうしたんだ?」
「俺は政治の表舞台に立つなんて…ホントは目立つのも嫌なんだがねぇ…」
「そんな事を言っておきながら、随分と服装やらマナーに拘るじゃないか。」
「当たり前だよ、人前で寝間着を着ていくのはさすがに失礼だよ…しかも和平の式典なんてでかい場面なんだから…」
ハロットによって和平の調印式を開催する事となり、都会に出向かなければならなくなった…寝癖を直して服装を整えるなど…いつぶりだろうか…
「後はなんか…お?」
ふと思い出す…サツキが身に付けていた宝石を。
「明らかに呪われてるタイプの奴だけど見た目はいいし…新しく作る時間無いし…」
「む…それを着けていくのか?…正気を失っていた私が言うのも難だが…」
「う〜ん…ちょっと試しに…」
首飾りを掛ける。相変わらず、身に着けた者を呪っているが…少しは静かになった。いずれお祓いにでも出すとしよう。
「…まぁ許容範囲だ。」
「うむ…それでは、そろそろ行くとするか。」
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人類の中央都、リブランスにへ二人は到着する。
「…狭かったし…緊張で眠れん…」
「無茶を言うな、恐らくだが最も大きな馬車だぞ?」
目をしょぼしょぼとした様子は何とも間抜けなものである。
「おや、主役の登場だ。リブランスへようこそ。」
「パレットの飼い主じゃん、お偉いさんなの?」
「名乗ってなかったかね?アタシは
「なるほどな〜……すげぇ権力者じゃん…!?」
「まぁそうでもあるかね…でも、一番権力があるのは多分あいつだ。」
「ん?」
そこには立派な髭を蓄え、気品と高潔さを漂わせる老人がいた。
「あれは勇王讃会の法王レクレスだ。人類代表としてアンタと契約をする。」
「あぁ〜…」
「さて、本題に入ろうか…やる事は簡単だ、神器の一つである盟約の器アルバラスに贄を捧げて契約の呪いとする。」
「に、贄?」
「そう難しく考えなくていいよ。買い物に使う金みたいなもんさ。」
「はぁ…?まぁ…儀式の手順は教えてもらったからいいけど…」
「…あれはシルヴァを導いてきた神によってもたらされた神器でね…贄となる物は、財産に肉体に魂に…まぁ種類は問わないよ。契約の贄となるものが大きければ、より強い制約が課される仕組みだ。しかしな、人は皆責任を嫌う…だから契約の縛りも、代償も小さく…安いものにしたいのさ…」
「ええ〜?本末転倒じゃない…?」
「そうかもね…さて…そろそろ凱旋の時間だよ!」
「うわぁ…緊張してきたよ…手とか振ったらいいかな?」
「普段通りにすればいいだろう…」
馬車に乗せられ、街へと進んでいく。
(やっぱりかぁ…)
歓迎の目は一つとして見えない…人々は奇異の目で自分を覗き、恐れている。
「おかーさん、あのひと真っ青〜」
「しっ…!」
(…子供はあまり好かないが、今はその騒々しさがありがたいよ…)
稀にだが、こちらに手を振る人もいる。それに手を振り返すと、とても驚いた表情を浮かべる…
(当然だわな…いきなり自分達の街に怪物が握手しに来たって怖いだけだしな…)
一際大きな広場に馬車が止まり、他の面々が馬車から降り始める。
(…周りに合わせとけばいいか…)
そして、法王がスピーチを始める。学校の朝礼で校長がする様なつまらん話を長々と
続け、市民達はそれを真面目に聞いている。
(何言ってたかさっぱり覚えてねぇ…)
「それでは、これより停戦の契りを執り行う。」
(…あ!出番かぁ〜緊張するな〜…でも…ちょっとくらい格好つけたいよなぁ〜…)
広場の大舞台の上…そこは体育館や音楽ホールの舞台の上とは比べ物にならない量の視線が集まる。そして、そこには今回の契約の要となる神器…アルバラスがある。
「我は主の器に誓おう…魔王と争い続ける悪しき円環を断ち切る礎となると…」
そう宣言し、マナを宿らせた呪符を器に落とす。次は自分の番だ。
(何だかなぁ…これだけで先祖のやらかしをペイしたなんて俺なら不満だな……あ!)
(…チセが何か思い付いた顔をしている…まさか…)
「!?」
一同は驚愕か…或いは予定調和となる争いを確信したのだろう。腰に掛けた黒い刃のナイフを取り出したのだから…
「やはり…そうなのか…!?魔王というものは…!?」
「いいや…違うな。」
ナイフを自身の手に当てると、真紅の血が青き肌に滴る。
「なっ!?」
「我が血を以て誓おう…我は魔王の責を背負い侵略の血族たる運命を否定すると!」
人々はその光景に目を奪われた…己のみならず、血という子々孫々まで続く繋がりを人との講和の為に捧げたのだ…鮮血に塗れた呪符が器へと落ちる。人々は大いに喜び感動の歓声が響き渡る。そうして…人々と魔王の和平は築かれた…
続
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