第9話

(…面倒な事になった。)


魔王の抹殺を幾度も成してきた勇王讃会。その中でもサリエルは私の力でも引き分けに持ち込むのでやっとだ…それに付いてこれるだけの戦士が増えたならば…状況はかなり悪い…


(それだけでも気に食わないが…)


刺客の一人であるジャンヌと呼ばれた新顔…旗槍と得体の知れぬ奇妙な円筒を構えている。もう一人のゼパルという女は真っ赤な鎧を身に纏っている。そんな目立つ装いの癖に装甲の塗料が剥がれていない…警戒すべきは向こうか…?



「やはり魔王の性には抗えぬものか…残念だが、その命…刈り取らせてもらおう!」


サリエルは虚空から鎌を呼び、フードを被り骸骨を模した仮面で顔を覆う。その姿は正に死神そのものだ。


「チーム名にガベル(槌)って入ってるのに鎌なの…?」


「ミズチ!サリエルの能力は未だに計り知れん…あの鎌に触れず、目を合わせるな!奴は私と同等かそれ以上だと思え。そんな奴と共闘出来る二人もな…」


「へいへ〜い…」


「さぁ!その魂を清め…」


ドゴオォーーン!!!!


「なぁっ!?」


キザな台詞回しの途中、轟音と共に燃え盛る砲弾が撃ち出される。


「先手必勝です。」


着弾と共に炸裂し、破片が飛び散る。硝煙と共に火蓋が切られた。


「ジャンヌ!!まだ俺が喋っている途中だぞ!」


「主は戦に美しさなど求めません。必要なのは迅速かつ確実な勝利だけなのです。」


「…アタシもそうは思うけどさぁ…うん?」


煙の内からミズチが岩石をぶん投げる。凄まじい速度でサリエル達に襲い掛かる。


「フンッ!」


しかしサリエルの鎌は岩すら紙のように斬り裂き、木っ端微塵にしてしまう。


「やはり生きていましたか…」


「全く…こういう宗教家は正々堂々ってのがお決まりだとおもってたんだがな…イメージが崩れてくよ。」


「アタシらは勝つのが第一だよ。」


「何処を見ている…!」


燃え盛る隕石が辺り一面に降り注ぐ。


「お嬢ちゃんは分かりやすいなぁ。」


赤い剣が群れを成し、隕石を砕く。その剣はゼパルの甲冑から放たれている。


「クッ…!」


「力だけならアタシの方が劣ってるみたいだけど…力任せで技巧の無いお馬鹿さんなら何とかなるかなぁ〜?」


「…!」


────────────────


「ハァッ!!」


「うわ!うわわ!?危ねえ危ねえ…」


もう一人の魔王をゼパルに任せ、こちらをジャンヌと二人がかりで攻撃する。ゼパルの力なら、一人でも十分だろう。


「どうした?魔王が防戦一方とはらしくないな…」


「そりゃ魔王のつもりは無いからね!」


ミズチといったか…臆病で、これまで見てきた魔王の器達の様な情熱や執着も無い…だが、その力は本物だ…


「帰ってくんない?お互い平和が一番だと思うがね?」


「ずいぶんと呑気ですね?」


ジャンヌの砲撃をするすると回避しては攻撃する様子を見ている。それは余裕からなのか、危機感の欠如した愚者故なのか…


「えいやっ」


「ぐぁッ!?」


尾を振り、風を切る打撃がジャンヌの腕を叩く。彼女の大砲が落ち、拾う間も無く潰される。鋼鉄で出来た大砲をまるで紙の様にぐしゃりと潰せる力を持ちながらも、ジャンヌに振るわれた力は命を奪う程のものでは無い。


「く…!私など殺すまでも無いとでも言いたいのか…!」


「あ、どうせなら潰さずに取っとけば良かったな…」


その目は無邪気な好奇心を宿している。しかしその目線は魔王たる己を殺す為の武器に向けられている。どこまでも呑気で、戦場に存在する筈の無い柔らかな佇まい。一切の緊張すら見せぬ生物として欠陥的な筈の在り方は、力量差が故の余裕だとでも言うのか?


「ぐうッ…!」


そこに、もう一人の魔王が傷だらけで転げて来る。


「まだやんの?」


「く…そ……!」


「全く…しょうがないな。」


傷だらけの彼女を見たミズチは声色こそ変わらぬが、雰囲気に緊張感が生まれる。


(!…胸騒ぎがする…素早く終わらせ無ければ…!)


「ハァーーッ!」


鎌にマナを纏わせ、薄暗い光を纏った刃を振るう。迸るマナは本能的に死を予見させるだろうに…ミズチの表情に依然として恐怖は無い。


「あまり使いたくは無いが…!やむを得ん!」


「サリエル!?あれを使うのは!」


「カァッ!!」


「…うぉ!?動けねぇ…!?」


見たものを呪う[邪視]…人の生み出した穢れの業…


「…忌々しいな…!だが!これで終わりだ!」


動きを封じられ、ふらついて倒れるミズチの首目掛けて鎌を振るう。

僅かな力で刃を防ごうとミズチももがく、ガードする腕の肉をゆっくりと斬り裂く。骨を削って魂を傷付け、刃が首に到達した。


斬り裂いた首は無く、鎌は地面に落ち…俺は既に腹を尾爪で貫かれた後だった。音も痛みも無く…世界が悪夢の様に脈絡無く変化したのだ。


「なっ…!?がは…!」


「!?サリエル!」


(一体…何が起きた…!?斬り裂いた筈の腕も、首も…一切の傷が無い!?魂にまで傷を入れたのに…何故だ!?)


「クソッ!アタシを見ろ!」


ゼパルがミズチを引き寄せる、ゼパルが能力で囮になる隙に背後からジャンヌの旗槍が迫る。ジャンヌは紅い剣群に全身を突き刺された事に気づかぬまま血反吐を吐き。旗槍に串刺しにされたゼパルは旗を鎧と同じ真紅に染める。


「「!?」」


─────────────────


「一体…!?」


敵が全員致命傷を負わされている。全員が致命的な外傷を受け、戦闘の続行は不可能だろう。しかも二人は…同士討ちか…?


「…ミズチ?え?」


今のミズチの顔は表情という物が無い。感情一つすら無い虚無に顔のパーツが付いただけのそれは冷たく、あの温かなミズチの顔ではない。それに加えて、普段は温かな彼女のマナが真反対の冷気を放っているのだ…


「お前は…誰だ…!?」


「僕は…[根源]…僕の陽は…傷付き…眠らねばならない…」


「一体何を言っている…!?」


「僕は…この身体の…最初の主だ……サツキ…」


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