第2話

「気味が悪いな…」


魔害の原因となった大蛇山に来た訳だが…危険度の高い魔物達が山の

足元にまで降りてきている。本来なら、火山から湧き出た豊富なマナを求めて上層や深い洞窟を生息地とする筈の魔物達…何の理由があって 降りてくる?


「キュルケ、辺りの様子はどうだ?」


「生物の気配は全く無い…獰猛な魔物達が怯えて逃げてやがる。

ウチの使い魔達も役には立てないかね…ビビアンは?」


「…この辺りの精霊達も何かに怯えています。魔物でも人でもない…

尋常ならざる存在が現れた…と。」


「何だそりゃ?御伽の怪物でも出たってか?…ん?」


「…どうした?」


「…あれは。」


皆の視線の先には…精巧に造られた威厳ある鷹の石像が佇んでいる。

正に飛び立つ瞬間を石にした様な躍動感があり、羽の一つ一つから

僅かに開いたクチバシの内側さえもしっかり造られている。


「これは…ウインドホークですね。本来であればこの辺りを縄張りと

していた魔物です。」


「まさかとは思うが…石にされたのか?」


「ば、馬鹿言うんじゃないよブルート…いくら何でもそんな…!?」


目を逸らした先にはより奇妙な光景が広がっていた。


魚を咥えた熊や猪の群れ、逃げ惑う魔物達。目に映るそれらは全て

石となっていた。


───────────────


「…中々充実してきたな…」


こちらに来てから数日…巣には作った石器が並び、ベッド代わりに繊維状の干し草を敷き詰めて寝場所も揃えられた。生まれたばかりの時は

適当な植物で恥部を隠したが、草を干して縫い合わせることで立派な

服と言える物も出来た。やはり服があると落ち着く…


(何せバカでかい果実が実っとるからな…落ち着かない訳だよ…)


やる事がほとんど無くなった時は炎で岩を溶かし、粘土の様にこねて

石像を作ったりもしたが…いくら何でも飽きが来る…もう少し娯楽が

欲しいところだが、外に出る気分でもない…寝るか…


(zzz…zzz…)


がさ…がさ…


(…んぅ?)


獣の足音とは違う、二足歩行の足音…人だろう。


(おお!ちょっと覗いてみるか?)


巣から顔を出し、足音の方を見る…三人組の人物が森に紛れる緑の

装いで歩いている…耳を澄まし彼らの声を聞くが…言葉が分からない。


べチャリ!! 

 

「!?」


上から何かが落ちてきた…ただの魚だった為、捕まえる。


(ラッキーラッキーだ………あ!)


三人組と目が合った。


「…<@<*|=@」%…!?」

 

やはり言葉は分からないが、声色からして怯えた様子だ…無理も無い。水面に映る自分は顔が濡れた髪に覆い隠され、その間から真っ赤な目玉だけが見えていたのだから。


(どーしよ…絶対に敵認定されてるって…堂々と出れば良かったのか?)


少しの間睨み合い、一人が何かを叫ぶ。それと同時に光が放たれる。


(うおあぁ眩しッ!……あれ?)


三人の姿は無い。どうやら逃げた様だ。


(まぁ…争いにはならなかったし…いいか?)


───────────────


「何じゃと!?天魔種てんましゅが!?間違い無いのか!?」


「あぁ。生命をそのまんま石に変えるなんて力は天魔種でもないと

実現不可能だろうな…魔物達が逃げる訳だ…」


「チクショウ…何で厄介事ばっかり…」


「私達だけでは勝つ事は不可能でしょう…でも、あれはまだ産まれて

間もない筈です。」


「そうだねぇ…恐らくだが、奴は山のマナを取り込んでる途中だ…

急いで倒しに行ったほうがいい。新しい[魔王]になる前に…」


──────────────────


(朝のあれ…何だったんだろ?)


人がいる事に喜びはあるが、彼らにとって自分は怪物なのである。

言葉も通じず、話せず…不便である。


(お互い関わらなきゃ平和に済むと思うけど…大丈夫かな?

…一応喋る練習でもするか?)


「あ〜あ〜…あ〜くぁ〜しゃ〜しゃ〜…うぁ〜…」


(あかさたな すら言えねぇ!この声帯使いづら過ぎるだろ…!)


「ぬぁ〜!」


(寝ようかな…)


ふと、空を見るとそこには流星が流れる…


(あ!…またゲームしたいですっと…)


適当だが、切実に願う…それに応えるように流星は大きく輝き…

こちらに向かって…


(…こっちに落ちてきてねぇか?)


巣の付近にて、流星が隕石となって大地に落ちた。


(ええ〜…?俺の願いは…?…見に行くか…)


───────────────


隕石の落下地点にはクレーターが出来ているが…隕石そのものは

見当たらない…しかし、そこには人が立っている…和服を纏った銀髪の女性の姿には人ならぬ獣の諸相が出ている。獣の耳と銀色の九つの尾が煌めく…


「出ておじゃれ。姉妹よ…身を隠したとて、品無き獣は匂うのじゃ!」 


(誰だよ…てか言葉遣いが古臭い…)


「麻呂の名はサツキ…大逆天魔王たいぎゃくてんまおうマサカドの末娘なり!」


(…俺ってもしかして名家のお嬢様なのか?)


「ミズチよ…我が姉妹…貴様何のつもりじゃ?母上の仇を忘れたとでも

のたまうつもりかえ!?人類への復讐こそ!我らが母上の悲願ぞ!」


(…う〜ん何言ってるのか分からない。)


「貴様に天魔種としての誇りは無いのか?どうなんじゃ?それとも、

知性なき獣には難解が過ぎたかのう?」


「…ウォ〜…」


「……まさか…真に話せぬと!?」


「ン〜…」


(声帯が使えね〜…)


「ハァ…何たる事じゃ…麻呂の一族から…かような穀潰しが…!」


(いきなり出てきて色々失礼だなこいつ…帰ろ帰ろ…)


「もうよい…!これ以上の恥を晒し一族に泥を塗るつもりならば…

その前に貴様を殺す…!」


(…んえ?)



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