わすらるる

彩葉

第1話

 雷が鳴っていた。だから祈った。どうかあの人の元に落ちてくれと。

 浮気が発覚したのは、付き合って五年目の冬だった。肌寒かったのかな。クリスマス、私も仕事が入って予定を潰してしまったのは悪いと思っているが、それでも、他の女と過ごすのは、やはりちょっと、いただけない。

 結婚とか、子供とか、住宅とか、そんなことを考える年になってきて、プロポーズはまだかななんて思っていたわたしが馬鹿みたいだ。仕事をやめなくて本当に良かったと思う。別に、生きていくだけなら一人でだって大丈夫なのだから。

 だから捨てるだけにとどめたけれど、やっぱり相応の天罰が下って欲しいとは思ってしまう。

 私は雷が鳴る度に願う。ああどうか、彼の脳天に直撃してくれと。


 わすらるる

 をばおもはず

 ちかひてし

 人の命の

 を《お》しくもあるかな


 女はいつの時代も強かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

わすらるる 彩葉 @irohamikan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ