悪女令嬢:は貧民窟から成り上がる~入れ替えられた『本物』の私は絶対に屈しない。『お優しい』ご家族?結構です、私のすべてを奪い返してやります~

@YiWendiesi

第1話 家に帰る


1


誰もが言う。里美グループの末娘は、幼い頃から蝶よ花よと育てられ、京都で最も幸福なお嬢様だと。

毎年彼女の誕生日には、里美グループ傘下の各社がお祝いのイベントを催す。

一方の私は、終わらない家事と終わらない折檻だけが日常だった。


里美グループの弁護士が訪ねてくるその日まで、私は自分が里美グループの令嬢であることなど知る由もなかった。


里美家へ向かう日、迎えに来たのは使用人と運転手だった。

未来への憧れを胸に、私はその最高級の邸宅へと足を踏み入れた。


里美家の人々に会うまでは、まだ親子の情というものに、ほんのわずかな、密かな期待を抱いていた。


どんな挨拶をすればいいだろう。

「会いたかったです」

「やっと会えましたね」

「やっと」と言いかけた瞬間、じわりと涙が滲み、これまでの辛く苦しい記憶が一気に込み上げてきた。

だめだ、今は喜ぶべき時なのに。

もっと簡単に。

「パパ、ママ、ただいま帰りました」これでいこう。


里美家の人々はすでにリビングで待っていた。スマホで検索して写真は見ていたし、自分と似ていることも知っていたが、本人を目の前にすると、やはり少し驚いた。

里美・リナは私の母の隣に座っていた。綺麗なウェーブのかかった長い髪、白い肌。目は少し腫れていて、泣いたばかりのようだった。

私を見るその赤い目には、わずかな嫌悪と憎しみが宿っていた。


「ただい……」

「ただいま帰りました」という言葉は、喉の奥で詰まって出てこなかった。


私が帰ってきたというのに、母は真っ先に彼女の手を優しく撫で、小声で慰めている。

私の家族は、彼女をお姫様として育て上げたのだ。

一方の私は、洗いすぎて少し黄ばんだ白い制服を着て、肩紐を何度も縫い直した鞄を背負い、手は固いタコだらけ。

鞄の紐を握る手に力が入り、白くなる。

抑え込んでいたはずの感情が、また込み上げてくる。


「そっくりだ。私の娘に間違いない」

里美・ケンジロウが前に進み出て、私の頭を撫でた。その声は慈愛に満ちていた。


里美・リナの後ろ姿を見送りながら、私は彼女の行動に裏があることに気づいた。

幼い頃から殴られ罵られる中で人の顔色を読むことを学んできた私には、彼女がなぜそうするのか手に取るようにわかっていた。


「アカリ、苦労したわね」

里美・ヨシミは私を強く抱きしめた。その目には愧じ入るような色が浮かんでいる。

「もう家に帰ってきたのだから。これからは、あんな辛い日々はもう終わりよ」


里美・リナはその光景に耐えられなかったのか、泣きながら言った。

「家族水入らずでお幸せに。私はもう、ここで皆さんのお邪魔はしませんから」

そう言って、部屋へ走って行ってしまった。


里美・ヨシミは私を離し、彼女を追いかけた。


私の姉、里美・ナナミもまた、心配そうな表情で私に言った。

「リナは小さい頃から私たちに甘やかされて育ったの。まだ現実を受け止めきれないのよ。どうか理解してあげて」


姉の里美・ナナミまでもが彼女を弁護するのを聞いて、私はもう我慢ならなかった。

彼女の実の両親が、私と彼女の人生を入れ替えたのだ。

彼女が、本来私のものであるべき人生を盗んだのだ!

それなのに、この受益者である彼女が受け入れられないからと、私の血縁である家族が、この被害者である私に彼女を理解しろと言う。

滑稽極まりない。


里美家に来る前、田中・ハルトは私に尋ねた。

「これから両親に守ってもらえるようになったら、性格も変わるのかな?」

その時、私は「わからない」と答えた。

今、親子の情に対する最後のわずかな期待も、完全に消え失せた。

今、私はこの家で自分がどのような立場にあり、どのように生きていくべきかを理解した。


「どうして私が彼女を理解しなきゃいけないの?」

私は冷ややかに里美・ナナミに反論した。


里美・ナナミは私がそんな問いを投げかけるとは思ってもみなかったのか、一瞬言葉に詰まった。


「何を理解しろって言うの? 」

「彼女が私の代わりに十六年間も裕福な生活を送ってきたことを? 」

「その間、私は彼女の家で家畜同然に殴られ罵られてきたのに? 」


里美・ナナミの目に愧じ入る色が浮かんだが、それでもなお無意識に里美・リナを庇った。

「それは彼女とは関係ないでしょう。リナは何も知らなかったんだから。彼女だって被害者よ」


私は冷笑し、それ以上この話題を続けるのはやめた。

今日が家に来た初日だ。自分の気分を害したくなかった。


「それで、あなたたちは彼女をこの家に残すことをもう決めたの?」


「アカリ、パパはお前の気持ちがわかる。だが、お前があの家から来たのだから、あの連中がどんな人間かわかっているだろう」

「リナは私が育てた娘だ。パパがどうして、あの子を火の中に突き落とすような酷いことができるだろうか」

彼の言うことにも一理ある。猫や犬だって長年飼っていれば情が湧く。ましてや幼い頃から手塩にかけて育てた娘ならなおさらだ。


「わかったわ、パパ。理解する。でも、私こそが血の繋がった実の娘で、彼女はただの養女。その身分に関しては、混同しないでほしい」


私の言葉を聞いて、里美・ナナミが反発した。

「あなたもリナも里美家の娘よ。実の娘も養女もないわ」

「リナはこの数日、罪悪感と悲しみで十分苦しんでいるのよ。これ以上、養女だと公言したら……彼女はこれまで挫折なんて経験したことがないのよ。どうやって受け止められるっていうの」


「彼女は挫折を知らず、私は小さい頃から殴られて育った。だから、あなたは私の命は卑しくて、私は受け入れられると思ってるわけ?」

私は彼女の目をまっすぐに見据え、怒りを込めて言った。


里美・ナナミはわずかに眉をひそめた。

「そういう意味じゃないわ」


「いいえ、そういう意味よ。」

「私はもう一歩譲って、この偽物を家に置くことに同意した。」

「あなたは私が本当に臆病者で、ただ黙って耐え忍ぶだけだと思っているんじゃないの?」


「パパが約束する」

里美・ケンジロウが割って入り、事態の収拾を図った。

ナナミはまだ何か言いたそうだったが、彼の視線に制された。

ケンジロウは情報を得てから、とっくに人を遣わして私の過去十六年間を調査させており、私がどれほど悲惨な生活を送ってきたかを知っていた。

私が自ら傷をえぐるように語れば、彼もまた罪悪感を感じるのだ。

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