元・世界最強のおっさん、ダイエットで力を取り戻す。~太つちまつた喜びに~
水瓶ミリー
第1話 重野力也とナッティ
XXXX年東京、かつてあちこちで戦争が起こり世界は不安定であった。
それぞれの国には、能力を持った守り人がおり、日本にも最強と謳われる男がいた。その男の名は
重力を操り、ミサイルをことごとく跳ね返し、まるでバリアーを張っているかの如く日本を守っていた。
各国はパワーバランスを保つためその守り人を国の中心に置き、いつしか戦争もなくなり、平和な世界となった。
そしてウン十年後、人々はすっかり平和ボケしていたのである。
「ふあぁ~あ、今日もいい天気だな~。」
国の最重要施設、最新セキュリティで守られた要塞のような建物の中。その建物の地下フロア、無駄にだだっ広い部屋が重野の暮らす場所だった。あまり動きたくないので、全て手の届く範囲で生活していた。
それでも面倒なのか冷蔵庫から大好きなプリンを、重力を操作して目の前に運んだ。
「甘くておいし~」
全く動かずたるみきった体、気分が上がるのは甘いものを食べている時だけの、不摂生な生活のために、かつての最強能力は影を潜め、今やお茶碗ほどの重さの物しか持ち上げる事が出来なかった。
「しげのっち~、さすがにプリンぐらいジブンでもってきなよ~」
「ってか、ボクも食べた~い」
この可愛い声の正体は、
「ナッティの分はないよ~。もう全部食べちゃったし~」
「えーーー、そんなのズルいよ。ボクちゃんと名前書いといたもん!」
「......名前なんかなかったけど」
ナッティは捨てられたプリンのフタを持ってきて、
「ほら、ちゃんとここに書いてあるでしょ!」と得意げに言った。
「ははは、ごめんごめん。最近目も悪いのかよく見えてないんだよね~」
平和感満載のいつものやりとりを繰り返す毎日なのだった。
♦
一方、政府中枢部、防衛センター室長の
なぜなら、最近不穏な動きが国内で確認されていたのだ。敵国スパイが
もちろん、
「だが、それもそろそろ限界か......」
記者会見では、能力は見せないようにしてきたが、国内の記者ですら怪しみだしていたのだから。
「これが
「いかん、いかん、いかん、いかんぞ!!!」
「よし、国家最重要プロジェクト”
「早速、メンバーを招集し作戦を練らねば」
♦
「ねぇねぇ、今日って何の日か知ってる?」
ナッティが甘えた声で重野に聞いた。
「うーん、ナッティや俺の誕生日でもないし、スイーツ万歳! の放送日でもないしなぁ。なんだっけ?」
「せいかいはねぇ、
「なんだって!? 舞ちゃんの情報なら確かだな! よしっ、舞ちゃんに頼んで買ってきてもらおう」
「でもね、たしかきょうはマイちゃんお休みだよ」
「えー!? それじゃ食べれないじゃないか! そんなのイヤだよ。もう絶対今日食べないと気が済まないよ」
「そうだ! じゃあナッティが買ってきてよ」
「えー? ボクが買いに行ったらみんなびっくりしちゃうんじゃない?」
「そうか......それなら仕方がない。よし、あの手を使うか!」
「しげのっち、またあの手を使う気なの? 見つかったら怒られちゃうよ」
「だってさぁ、今の俺を支えているのは甘い物だけなんだよ。食べたい時が食べる時なんだから、それを我慢なんて出来ないよ。ねっ、ナッティの分も買ってくるから協力してよ」
「しげのっちがそこまで言うならしょうがない。⦅やったぁ! ボクも食べたくてしかたなかったんだぁ⦆協力するのはホントのホントに今回が最後だからね!」
この最新セキュリティシステムの
ナッティは重野がいない間の身代わり役として片棒を担いでいた。
「ちゃんと変装した~?早く帰ってきてよ~」
「どう? おかしくない?」
そんなことをしなくても誰も重野と気が付く者はいないだろう。今の
「うん、バッチリだよ~」
部屋に飾ってあるTV番組、スイーツ万歳! のポスター剥がすと、穴がぽっかりと姿を現した。まだ重野の重力操作の力が残っていた時に念の為にと掘っていたものだった。
ただ最近では太りすぎて、穴から出るのも容易ではなかったので、外へ出る事もめっきりなくなっていたのだ。
「じゃ、行ってきます」
んしょ、んしょ、んしょ、
「さすがにきついな。これ、帰りやばいかも」
なんとか敷地の外に出ると、中に着ていたTシャツはやぶれてしまたので、紙袋に入れて持ってきたトレンチコートを着てから本美洋菓子店を目指した。
──コンコンコン。
「
「──やばっ、しゅびっちが来た」
ナッティは一瞬慌てたものの、そこは台本通りにやってのけた。
「守備さん、すいません。いま腹こわしてるもんで、あとにしてもらえますか」
あらかじめ録音していたテープレコーダーのボタンを押した。
「これでよしっと!」
「そうなの!? 大丈夫? 薬持ってこようか?」
「──えっと、つぎは──」
ナッティはまたもやテープレコーダーをキュルキュルっとまわし、ボタンを押した。
「大丈夫っす」
「そう? じゃまたあとで来るよ」
「はぁ、良かった~。しげのっち早く帰ってきて~」
何とかお目当ての新作スイーツもゲットし、ケーキの箱をルンルン気分で持ちながら店を出たところで、”カシャカシャ”とシャッター音が。
重野は浮かれすぎて全く気が付かなかった。
「ただいま。買ってきたよ」
頭でケーキの箱を押しながら、またも腹ばいで進んで帰ってきたせいで、ケーキの箱は少しやぶれていたものの、中身は崩れず美味しそうな見た目を保持していた。
「おかえり~。待ってたよ~」
「しゅびっちが来てこまったけど、なんとかおいはらったよ」
「守備さん、何の用事か言ってた?」
「ううん、また来るって」
「そっか。ナッティのお陰で助かったよ。さあ、食べよう」
重野とナッティは、このあと試練の日々が待ち受けていようとは思いもせず、
ケーキをほおばりながら幸せを噛みしめていた。
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