【1万PV感謝】中二病の俺が影のダンジョンヒーローを目指していたら、変てこな幽霊と不思議な股旅に出会う

本尾 美春

第一部「影のヒーロー」

第一章「時の鐘ダンジョン ―中二病ヒーローと日給100円の幽霊―」

第1話

 それは約20年ほど前になる。

 俺たちの世界にダンジョンとモンスターが出現した。

 当然世界は大混乱だ。現実に異形の化け物が大量に出たんだから。

 軍隊を導入して何とか鎮圧に成功して……そしてダンジョンで有用な素材やら鉱物やらが出てくることが分かって……。

 それ以来、ダンジョンを探索し、モンスターを討伐し、素材を持ち帰り、換金する。

 これが俺たち『探索者』という職業の始まりとなったのだ。

 

 俺、鈴倉阿須那(すずくら あすな)はヒーローに憧れていた。

 ただのヒーローじゃない。ピンチになった時に影から現れ、かっこよく助けて、颯爽と退場する。

 正体は誰にも知らない、強くてかっこいい『影のヒーロー』だ。

 そして探索者でも、そういうヒーロー活動をしている人がいると聞いて、俺でもなれるんじゃないかと思ったのだ。

 

 探索者を始めた俺が、なけなしの金で買ったのは、黒いとんがり帽子と前まですっぽり覆うほどの黒いマント。

 これを着て、やられそうになっている探索者たちを助けていく。

 名前は……そうだなあ……『アストラル』にしよう。

 

 ◇◇◇

 

 埼玉県川越市。

 江戸時代を感じさせるような街並みが残っているということで観光客に大人気の町だ。

 そんな観光地川越のシンボルとなっているのが、「時の鐘」だ。詳しくはググって欲しい。

 そんな「時の鐘」に……ダンジョンが出来たのだ。

 ランクDの時の鐘ダンジョンを俺たち三人は探索していた。

 といっても休みの日に友達と一緒に小遣い稼ぎに探索してるってだけだ。結構気楽なもんである。

 最初はモンスターを倒して一攫千金を狙うって感覚がゲームみたいで、俺たちはどんどん嵌っていった。

 命が懸かってる仕事ではあるんだが、ランク制限厳守で油断しなきゃ大丈夫だ。それでも危険だと思ったなら、すぐに撤退すればいい。

 

 …………だったんだが。

「…………つっても倒しても倒しても、同じもんしか出ねえよなあ。流石に単調で飽きてきたぜ」

 一応パーティーリーダーを務めてる俺は軽い欠伸をしながら、何度も行き来した道を進んでいる。もう慣れた道だ。

 薄暗い石造りの通路には、かすかに緑色の苔が光を放ち、足元を照らしている。時の鐘ダンジョン特有の古時計の音が、どこからともなく響いてくる。

 

 基本ダンジョンは迷路だからスマホでマップを見ながら探索するもんだが、三ケタに近い回数を探索してた俺たちは完全に構造を覚えてしまっていた。

 もう目を瞑っても探索出来る自信があるほどだ。

 「だがこんな敵も極まれに数百万以上するアイテム落とすらしいぜ。宝くじ並の確率らしいが」

 俺の右となりにいる丸メガネの高橋が、データ分析が得意な彼らしく統計的な視点で気怠そうに答える。

 確かにそれがあるからモチベを辛うじて保ってはいたんだが……。


 「一生潜り続けても一回あるかどうかの確率じゃねえか。なんかもう本当に仕事って感じになっちゃったよなあ」

 俺の代わりに答えたのは左となりの金髪の佐藤。いつも現実的なことを言うやつだ。

 本当それだよ。命がけって感覚はもう遠くへ去っていった。出てくるモンスターは油断してても無傷で倒せてしまう。

 万一傷を負ってもすぐ治ってしまうから問題はない。

 もう完全に作業だ。

 RPGでいうレベリング作業ていうのがあるが、あれは強くなるという目的があるから出来るのだ。

 

 でもこれは強くなるという感覚がない。いや、あるらしいんだが……こういう雑魚ばかり倒しても全く実感はない。

 ドロップも代わり映えしないし、換金しても小遣い程度。

 だったら他のダンジョン行けばって話なんだが……電車賃とか移動時間とか考えるとコスパ悪いんだよな……。

 そんなコンビニみたいに身近にあるわけじゃないし。

 俺たち、何を目的に頑張ってるんだろう……。金目的ならぶっちゃけ他のバイトの方が割良いんだよな……。

 

 「なあ、もっと下の層行かねえ?」 

 俺の右となりにいる丸メガネの高橋が提案してきた。

 ……ちょうど俺も同じ考えが浮かんでいた。今俺たちがいるのは4層だが、もう下に挑戦してみても良いんじゃねえか?

 「だよなあ……。もう4層楽勝だしさ、もう5層行っても死ぬ危険はないだろう?」

 同じ考えをもっていた俺は高橋に同調して答える。

 

 「でも5層ってボスいるんだろう? 大丈夫か?」

 左となりの金髪の佐藤が懸念をあげた。

 俺たちが今まで4層止まりで探索し続けた理由がそれだった。5層にボスがいるのだ。6層以降に行くにはこれを倒すか、誰かが倒して再復活する間を狙って通過するしかない。

 もっとも、後者はぶっちゃけ運頼みだが。

 

 「だったら手前だけの探索にしとけばいいんだよ。ボスって大体奥まってる場所にいるじゃねえか。入り口付近にいれば大丈夫だよ」

 高橋が安全策をあげる。

 先へ進んでも大丈夫ではないか、という流れが俺たちの間にきているのを感じる。

 「万一ボスに遭っても入り口付近ならすぐに逃げられるよ。ボスは4層まで追ってこないしさ」

 例え危険な目にあっても、逃げられれば問題はない。

 

 ――なら、大丈夫ではないか。多少は冒険したって。

 頭の中に囁かれる声は、俺たちではない誰かが誘惑しているかのようにも感じた。

 「……よし、分かった。5層入り口付近だけ行ってみようぜ」

 俺たち三人は同意した。

 だが俺たちは見落としてた。

 5層ボスにだけ気を取られていたのだ。

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