最終話 幼なじみ否定派同盟解消とこれから

「で、どうだった? 今度は確実にシたんだよね?」


 神崎との一泊日帰り旅行で色々あったのはともかくとして。


 翌朝の教室で俺は真っ先に質問攻めにあった――それも周りの男子に聞こえるようにして。


「やっぱり雰囲気でヤっちゃった? それとも、その場の流れとか? もしくは室温が低くてそれに乗じて温めちゃった感じ?」


 ……こんなことを朝の教室で堂々と訊いてくるか、普通。まぁ、永田は普通でもないが。


 胸元が俺の目線から見えるくらいの距離で迫ってきているのに対し、今まで永田に対して幻想的なイメージを抱いていた男子からは色んな声が聞こえてくる。


「すっげ……永田さん、そっちの話もイケるんか」

「僕にも望みがでてきたかもしれない……」

「あの野郎、あんなことを清純な永田さんに言わせるばかりでなく迫らせるとは……許せん!!」


 ……などなど、永田へは特に何のダメージもないようだ。むしろ俺に対するヘイトが高まっているんだが。


「輝雪くん、聞いてる?」

「あっ……と、というか、シたかどうかを永田に報告する義務はないよな?」

「ふ~ん。シたんだ。それならいいや。そろそろごっこ遊びも終わらせないとだし」

「え?」


 今の俺の反応で分かったのか?


 というより、まるで俺と神崎が前提で今まで動いてた言い方だった。そもそも俺の提案で幼なじみごっこを始めたはずなのに、何で永田が終わらせようとしてるんだ?


「輝雪くん。放課後、輝雪くんのお家に行くから。もちろん、光希も一緒に」

「俺の家に? 何で神崎も一緒なんだ?」

「だって、否定派同盟だし。とにかくそういうことだから」


 そう言って永田は俺からあっさり離れた。俺から離れた永田の元にはクラスの男子がこぞって群がっている。


 ――あいつら。


 それはそうと、否定派同盟とかすっかり忘れてた。そういやそうだったな。


 忘れていたというのも、彼女たちの積極的な行動がそうさせていたんだが、特に永田の動きで幼なじみを否定するとかという活動そのものがすっかり消え失せていた。


 永田が打ち明けたいのも、実は本当に俺の幼なじみだよってことなんだろうけど、それにしたってって話だ。


 俺自身、永田が幼なじみかどうかの記憶もないというのに、どうやってそれを証明できるというのか。


「そこ、邪魔だし」

「わ、悪い」


 少し遅れて神崎が教室に入ってきた。昨日の今日ではあるが、彼女の態度は特に変わっていないように思える。


「何かボーっとしてるけど、席に着かないの?」

「い、いや、座るよ」

「輝雪」

「……ん?」


 教室の端の方では男子に囲まれてちやほやされる永田の姿が見える一方で、それを気にしない神崎が俺をじっと見つめてくる。


 やっぱり何か変わったか?


「あたし、まだ昨日のこと真珠に言ってないんだ。だから、放課後……一緒についてて欲しいんだけど頼んでいい?」

「――あ」


 あぁ、そういう――。


 先に永田が言ってきたのをあえて教える必要はないよな。ということで、黙って頷いてみせた。


「じゃ、また……」

「う、うん」


 俺への態度が明らかに違ってたな。普通に考えればそれもそうだよな。昨日の今日で一緒に寝て、しかもシてしまったわけで。そうなると意識しないで今まで通りに接するというのも難しくなるか。


 朝から何かが起きそうな気配があったものの、あっという間に放課後になった。それまで特に何もなく、昼休みに一緒にご飯を食べるということもなく少し寂しく思えた。


「輝雪。真珠、お前の家に行くみたい。あたしも行っていいんだよね?」


 帰る時間になると、永田の姿はすでに教室にはなく、俺に声をかけてきたのは神崎だけだった。


 ――というか、永田が俺の家を知ってるってことはそういうことなのか?


「も、もちろん」

「そっか。輝雪の家に行くの、緊張だからどうしようかなって思ってた」

「あ、そっか。家に上がったのって神崎の家の方だったんだよな」

「……その話はもういいから、早く行かないと」


 黒ストッキング事件とか思い出したのか、顔を赤くした神崎が俺の背中を押してくる。


 それにしても、シてしまったとはいえお互いに好意を確かめ合ったわけでもなければ言葉を出したわけでもないんだよな。


 下手をすれば昨日の出来事だけで終わる可能性もあったのに、神崎は俺をどう思っているのか。


「天王寺……ここが輝雪の家なんだ?」

「まぁ、うん」

「何で真珠が知っているのかなんて聞かないけど、真珠とはその……すでにシたとか?」

「し、してないしてない! 昨日のアレは初めてだった……はず」

「ん、そっか」


 少なくとも俺の記憶にはない。


 ……ガキの頃だし最後までしたとかは流石にないはずだ。


「で、真珠は――」


 俺の家を知っているという永田を探すも、まだ来ていないのか近くには見当たらない。まさかとは思うが、家の中にすでに入っていて待っている、なんてことはあり得ないはず。


「……輝雪くんと光希。ちゃんと二人で来たんだ。偉いね~」

「あっ」

「真珠が誘ったくせに遅れてくるか、普通~」

「ごめ~ん。だって、光希がちゃんと来るか心配だったんだもん」


 初期の永田っぽくなっているが、凄い違和感があるのは気のせいだろうか。わざとなようにも聞こえるし、何かを企んでいるのは確かだな。


「じゃ、輝雪くん。入れて!」

「あ、あたしも輝雪の中に入れてもらうから」


 ……家の中に、な。


「あ、ああ、じゃあ……」


 家に誰もいなくて助かった。


 二人を家に上げ、そのまま俺の部屋へと入れると、神崎は回りをきょろきょろと眺めまくって落ち着かない様子だったのに対し、永田は何の興味も示さない感じで黙るだけだった。


「適当に座っていいから」

「輝雪くんのベッドに?」

「いや、ソファに……」


 ブレないな、永田は。


 永田だけソファに座り、俺と神崎は永田の正面に座って永田の言葉を大人しく聞く姿勢で待った。


「で、真珠。話って?」


 俺の家と部屋に上がり込んで興奮してたのに、神崎って意外と冷静なんだな。


「うん。光希と輝雪くんって昨日、シたよね?」

「……シた。言うの遅れたけど、シたから!」

「シました」


 朝に言われたから今さらだな。


「じゃあ付き合うんだ?」

「えっ? 付き合うって、輝雪と?」

「そうだけど、好きじゃないの?」

「すっ、好きだけど、まだそれは……そこまでは」


 そう言って神崎は俺をちらちらと見てくる。


 色んなものが逆になったとはいえ、神崎が戸惑うのも無理はない。俺も神崎に対して気持ちを伝えていないんだからな。


「まぁ、それは別にいいんだけど」


 いいのか。


「そういうのは後で勝手に進めていいから」

「そっ、そういうことなら……輝雪とはそうする」

「分かった。そうする」


 この時点で永田に対して二人して返事を言ったも同然だった。もっとも、これじゃなくて本題は――。


「輝雪くんは全く覚えてないみたいだけど、私と輝雪くんは幼なじみなんだよ~。しかもだけど、その時すでにおっぱいとかたくさん揉まれちゃってて~……それでも光希は彼と付き合える?」


 うっわ……そういうことかよ。


 ガキの頃に散々女の子と遊んでいた時の子が永田ってわけか。全然記憶には無いけど、意識もしないで遊びはしていたのだけは覚えてる。


 だから俺の部屋に入るのも自然だったんだな。


「それって、最後までとかじゃなくて日常的にその……シまくってたとか、そういう?」

「そうだよ~。ね、輝雪くん?」

「…………悪いけど、俺は覚えてない」


 もちろん嘘である。しかもガキの頃だし、昨日みたいなコトじゃない。


「真珠だけが覚えてるってことは、そういうのをシてたってことじゃんか。だから幼なじみを否定して隠してたのか?」

「違う。俺は覚えてない。永田のことも全然覚えてないんだ」


 俺の部屋にきて俺との関係を暴露して、神崎とのコトをなかったことにするつもりで呼んだのか?


 こんな話を聞かされた神崎も俺から流石に離れるだろ。


「ちっ」


 ああ、やはり。


「悪いけど、あたしの気持ちは変わりないから! ガキの頃の遊び? くだらない。いつもいつも真珠の思い通りに出来ると思ったら大間違いだぞ!」


 あれ?


 てっきり神崎だけ怒って帰ってしまうかと思っていたのに。


「本気なんだ~?」


 ん? あれ?


 俺だけ状況がのみ込めてない感じ?


「当然だろ! あたしが何のためにこいつと一緒にいたと思ってんだよ! 昼も放課後も、そんで昨日も……全部あたしが欲しくてシただけだからな! やりたくもない幼なじみごっこに付き合ったのもそうだし、だから……輝雪!!」

「は、はい?」

「もうシた仲だから、あたしと輝雪は好き同士ってことで確定だから!」

「そ、そうなるね。俺も好きっていうか楽しいって感じてたから」


 これはもしやそういう話だったのか。


「……そっか~そこまで本気だったんだ~。この話をしたら輝雪くんと昔みたいな幼なじみに戻って、あんなコトやそんなコトまでしようと思ってたのに。残念~」


 やっぱりそういう狙いがあったわけか。でも、神崎の気持ちの方が勝ってたわけだ。


「永田はその、つまり俺と幼なじみな関係に戻るつもりはないってことか?」

「否定派同盟は解消だね~。それと、幼なじみの関係も今となってはどうでもいいかな~」


 何だ、そうだったのか。


 ある意味恐ろしい計画だったのは間違いないが、そうなるとこれからの関係はどうなるんだ。


「光希と輝雪くんは、教室で公表よろ~! 私はこれからも変わらずに輝雪くんを沢山いぢめてあげる」


 別の意味でのいぢめなのでは。


「は? 公表? 何でそんなこと……」

「否定派解消だから当然だよ~。ね、輝雪くん?」

「あ、あ~……よ、予定しとくよ」

「バカッ! ふざけんな輝雪! あたしは知られたくないしお前が公表しても否定するから! でも嫌いじゃないからそこは覚えとけよ、バカ」


 ……一線を越えただけじゃなくて、実はずっと想われていたとは知らなかった。それに引き換え、永田はこれからも俺をいじりにくるんだろうな。


「じゃ、せっかく輝雪くんの部屋に来たし、三人でシよっか~?」


 そうか、子だったな、そういえば。


「絶対にシない!!」

「それは流石に……勘弁」


 俺と神崎が正式に付き合えるようになるのは永田次第――かもしれない。







※お読みいただきありがとうございました。次の新作は10月以降を予定しています。

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幼なじみ否定派の女友達と「ごっこ」遊びしてたら、だんだんその気になってきたらしいんだが 遥風 かずら @hkz7

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