異世界召喚された俺が異世界追放されて、仕方ないから可愛い嫁とコテージを作った件

明井ベランダ

異世界召喚された俺が異世界追放されて、仕方ないから可愛い嫁とコテージを作った件

 異世界追放された。魔王を倒せって女神が言うから、魔王と一緒に世界の半分を焼き払っただけだ。召喚したのはそっちなのに、女神は俺を世界の狭間の真っ暗闇にぽいっと捨てた。俺の魔力は規格外すぎる上に、俺はイカれすぎていると、女神は自分の管理していた世界から俺を追い出したのだ。

 冗談じゃない。世界を救えとありったけの魔力を俺に渡したのは女神だろうが。それを使って、俺が魔王を根から滅ぼしてやったんだ。後から文句を言うなんてズルいだろうが。

 ずっと、真っ暗闇の中で俺はキレていた。使える限りの語彙を尽くして罵詈雑言を叫び続けて、どれだけ経ったかもわからなくなった。そうしていても何も変わらないと気づくと、俺は途方に暮れた。とんでもなく気が滅入って、あのクソ女神に逆らわなければ、英雄とか称えられて幸せに暮らせたのか?という気になってきた。そう思うたびに最後に見た女神の苦々しい顔を思い出しては頭を搔きむしった。クソ女神の顔など二度と拝みたくない。そうして、永くただ暗闇の中を漂っていた。

 それで、馬鹿なことに、俺は当分の間そこで魔法が使えることに気づかなかった。いや、もう使っていたのだ。だって、そんな何もない暗闇で生きていられるなんておかしい。俺は、俺一人を生かすための魔法を使っていた。どういうメカニズムかなんて知らない。ただ、俺は俺が生きたいと望めば生きていられたのだ。俺の魔力が規格外だから。じゃあ、作れるはずだ。俺の望む世界が。そうして目を開いたら、そこに可愛い女の子がいて、俺はコテージの中に立っていたのだ。

 黒髪ショートの白いワンピースを着た、俺と同じくらいの女の子。その子がにっこりと笑って、俺に抱き着く。世界の半分を焼き払ったそのままの学ランは煤けてところどころ焼けて穴が開いている始末だったけど、少女は構わずに力を込めた。その白い腕は細いのに柔らかく、俺の背中に食い込んだ。

「大好き」

 しばらく使っていなかった鼓膜が震えた。少女は床にへたり込んでしまった俺を慌てて支えておろおろとしていた。俺は少女の体を抱き寄せた。

「だ、大好き」

 ひどく掠れた声だ。喚き散らしてた時以来使っていなかった声帯だ。

「ほんとう?」

 俺は頷いた。抱き寄せているから、顔なんてお互い見えない。俺は、「大好き」だと、そう思うことにした。

 少女との生活は、おままごとのようだった。コテージの中で二人、静かに暮らしている。夫婦のごっこ遊び。少女は俺を「だんなさま」と呼んだ。そうしろと言ったわけじゃない。最初からそう俺を呼んでいた。今も、ベッドに寝転んでいる俺を見てそう呼んだ。

「だんなさま、お暇なの?」

「漫画を読んでる」

 少女は俺のすぐ横に潜り込んでくっついてくる。

「読みにくい」

「何読んでらっしゃるの?」

「いつも読んでるだろ」

 いつも読みすぎて読み飽きた。このコテージには俺が望めばなんでも出せる。けれど、俺が知らないものは出せない。この漫画だって、この続きを知らないからこの先の巻は読めない。俺が知ってるポテトチップスしか出せないし、俺の知っている音楽しか聴けない。暗闇にいるときは他の物を求めている気がしたのに、あっという間にすべてが食傷になった。

 俺は、コテージの外の世界を作れなかった。魔力が足りないのか、俺の求めているものはここで充足しているのか、わからなかった。

 大げさに息を吐きだして漫画を放り投げた。潜り込んできた少女を捕まえると、「わあっ」と声が上がる。

「だんなさま、苦しい! もうちょっと力を弱めてください!」

「ごめん」

 ちょっと力を弱めると、少女はもぞもぞと体を動かす。しばらくすると落ち着きどころを見つけたようだ。俺の顔を見る。そして、にまっと笑う。

「だんなさま。やっぱり暇なんですね?」

「うん、暇」

「でも、わたしは暇じゃないですよ。だんなさまといますからね」

「うん、俺も」

 何か安っぽいロマンスをなぞるようなやりとり。少女が苦い顔をする。どきりとした。

「俺もなんて。それじゃさみしいじゃないですか。もっと、ありますよね」

「あ、ああ。大好きだよ」

 少女の顔に笑顔が戻った。安心した。

「わたし、時々思うんですよ。だんなさま、うわき、してますか?」

「え? 俺、きみと離れたことすらない」

「そう、そうなんですけど、わたしを見て、わたしを見てないときがあるでしょう?」

 俺は言葉を失った。

「それでもわたしは」

 少女の姿が消えた。いや、消した。俺が意思を持って、消した。白いワンピースごと。ただ、シーツのへこみだけが残った。

 思い出さないようにしていたのに。

 少女は女神に似ていた。苦い顔なんて、特に。俺は知っているものしか出せない。知らないものを出せない。もう、あのクソ女神以外に覚えている人の姿をしたものなんてない。俺を俺たらしめるものはもう、あの女神しかいなくなっていた。あの女神が最初みたいに媚びへつらってくれれば、俺は、

 俺は、泣いた。

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