城館攻略戦①

 私ことハティとマーニ様の革命を未然に防ぐための戦いは順調でした。

 言っても、革命派は下の位に据え置かれた者たち、それ即ちそれだけ御し易いとも言えるのです。またそれこそがマーニ様の血を欲した理由でもあったのでしょう。

 今宵は、革命派の首魁との戦いに臨むのでした。

 これさえ済めば、公爵の者達との交渉の余地も出るかもしれない。

 

 さて、少しここいらでコーレリア大公国の地理についてのお話をしましょうか。区切っておきますので、読み飛ばしても構いません。

 コーレリア大公国というのは都市国家でして。

 前提として、その成り立ちは諸外国からの脅威がありました。

 ボゴテンシスが諸外国からの脅威をその騎士と共に迎え撃ったことで成立したのが前身であるコーレリア王国です。

 であるからして、建国の最初期はと言えば領主が迎え撃つは他の領主よりもまず先に諸外国に対してが主であり、他の国と比べてしまえば、格段に領主同士の距離が近いという特徴があるのです。

 領主が孤立してしまえば、真っ先に諸外国から襲われる恐れがあるとなれば、必然、領主はある程度中央に集まり、連携を取らねばならない。

 戦乱の世に、統一を促し防衛を図ることができたからこそ、ボゴテンシスは王足りえたというわけです。

 もっとも、今は国が栄え、諸外国よりも自国に目を向けなければならないとなった後に、その弊害が噴出しているというわけですが……。

 まあただ、私とマーニ様からすれば都合が良かったのです。

 なんせ、敵である領主たちはそう遠く離れていない。少し、馬を駆けさせればすぐに目的の場所に着くのですから。

 

 目的の場所から、遠く離れたところに、馬を繋ぎ、私が先導しながら、マーニ様と共に森を突っ切る。

 迷うことはありませんでした、森の中に目的の建造物が聳え立って目立っているのですから。

 貴族の館というのは大抵城壁に守られているもので、遠くからでも白い壁が目につくのです。

 そして、今宵、襲撃するにあたって、その城壁の麓まで、本来の領土と城壁を繋ぐ道を迂回し、森を突っ切ることでたどり着くことができたのです。

 城門には門番が二人。槍と簡単な防具を身につけた門番達が、夜中ということもあって、所在なさげにダラけながら立っている。どうしても普段は何も起きない夜中の警備に集中を持続させるというのは、難しいものですが、けれど、有事にはそれが命取りになる。


「ハティ、どうするの?」


 不安そうに瞳を揺らすマーニ様は相変わらず、愛らしいなと思いつつ、私は安心させるように笑顔を作る。


「すぐに始末します、お待ちを」


 そう言うや否や、私は体勢を低く保ったまま駆け出した。

 体勢を低く保ったまま、地面を力強く蹴り、一息で距離を詰める。

 闇夜に紛れ、しかも、膝よりも下に姿勢を保たれたまま近づかれては、獣人のように鼻や嗅覚に長けたものでなければ、気付けないのも無理はない。接近はとても容易でした。

 門番の足元に踏み込み、そのままバネのように体を跳ね上げる。


「な──!?」


 急に視界に入り込んだ私に驚愕し、仰け反る門番の胴体を切り上げ、そしてそのまま同じように、驚愕に固まっているもう片方を重力に引かれるままに袈裟に切り下ろす。

 ドサリドサリと門番だった肉塊が地面に転がった。

 流れ作業のように、二人を始末した私は剣を振り血を払って鞘に収めながら、物陰へ隠れるマーニ様へと頷くと、マーニ様が駆け寄ってくる。

 

「ハティは、すごいね……」


 マーニ様は感嘆の声を漏らしながらも、二人の死体に目をやり、襟元をギュッと掴んでいる。気にしてしまっているのだろう。

 極力殺さずに先へ進めればいいのだが、そうもいかない。マーニ様をお連れしたまま、殺さずに押し通るなんてことは土台無理な話なのだから。


「やめにしますか?」


 勿論、門番を殺した後でやっぱり襲撃自体をやめますなんて、通らないのですけれど。でも、マーニ様を隠れさせ待機させておくことは今からでも、叶う。心優しいマーニ様にこれ以上血飛沫など見せたくないのが、私の本音なのですから。

 けれど、マーニ様は小さく首を振った。


「……ううん。君にだけ手は汚させない。僕がここで退いたらハティは一人で行くんでしょう? これは、僕の戦いでもあるから」


 そして、マーニ様は、意思のこもった眼で私を射抜く。碧眼の澄んだ青い目は、私の考えていることなど全てお見通しのようでした。


「マーニ様には隠し事はできませんね」


 マーニ様の覚悟に私は頷きながら、門番達の死体の懐を漁る。

 鍵があるはずだった。

 弄りながら、死体に視線を走らせると、腰に鍵束を吊り下げていた。これで鍵は入手できた。城壁の中へ入ることが叶う。

 鍵束を取った私は鍵束を見せながらマーニ様と顔を見合わせて、頷く。これからが、本番だ。

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