夢の中の駐車場
不労つぴ
夢の中の駐車場
なぁ、笑わないで聞いてくれるか?
最近、変な夢をよく見るんだよ。
それくらい誰でもあるって?
いいから最後まで聞いてくれ。俺は本気で悩んでるんだからよ。
あれは、確か半年前のことだった。その日は会社の飲み会があってな、中々帰してもらえなくて家にたどり着いたのは明け方だった。
俺は帰るなり、シャワーも浴びずにベッドにダイブした。
それがいけなかったのか、変な夢を見たんだよ。
夢の中で俺はだだっ広い空間にぽつんと立っていた。
下はアスファルトが引かれていたから直感的にここは駐車場なんじゃないか、なんて思ったよ。
隣には白い軽自動車があってな、車種までは覚えてないがこれと言った特徴のないどこにでもある普通の軽自動車だった。
車内を覗いたんだが、中には誰もいなかった。
ドアも開けようとしたんだが、当然のことながら開かなかった。
まぁ、当然だわな。これで開くようなら防犯意識を疑うってもんだ。
そうこうしているうちに、俺は目が覚めたんだ。
酒もかなり飲んだからな、頭は痛いわ気分は悪いわで最悪の目覚めだったよ。
それくらいよくある話だって?
これで終わるんならそうだな。
だが、そうはいかなかった。
それ以来、俺は時折その夢を見るようになったんだよ。
夢の中で必ず俺はだだっ広い駐車場に立っている。
そして隣には、毎回台数が変わるものの必ず車がある。
毎回、車種も変わるしメーカーも変わる。
普通の軽自動車かと思ったら、誰もが知るような高級車だったり有名なレーシング漫画に出てくるスポーツカーだったりと多種多様だった。
規則性が無いんだよなぁ。
そしてどの車にも必ず鍵がかかっている。これで鍵がかかってなくて運転できるんなら最高だったんだがな。
夢の中で試乗ができるなんて最高じゃねぇか。わざわざディーラーのとこに足を運ばなくていいし、俺の寝ている時間に乗れるんだからタイパも最高。
それに男なら誰しも、ポルシェやフェラーリみたいないい車に乗ってみたいだろう? まぁ、出来ないわけだが。
そんなこんなで、俺も慣れててな。とうとうその夢を見ても、車の無料展覧会くらいに考えるようになった。
しまいにゃ、次はどんな車が現れるのか楽しみになってきたんだ。
そんなある日、いつものように夢に入ると妙に見覚えのある車があったんだ。
マサシは分かるよな?
そうだよな、あんなことがあったんだから当然か。
アイツの車は随分目立ってたよな?
マフラーだのエアロだの改造してたし、走り屋のチームにも所属していた。
俺等の中じゃ大の車好きだったな、マサシは。
なんでマサシの車の話をするんだって?
お前も薄々感づいているだろ。
出てきたんだよ――俺の夢の中に。
最初はアイツのによく似た車だと思っていたんだ。だが、観察すれば観察するほどアイツの車そっくりだったんだよ。
あいつの気に入ってたハート型のマフラーもフロントに置いてあるぬいぐるみも、どう見てもあいつのものだった。
しまいにゃ、アイツの所属しているチームのステッカーが後ろの方に張ってあったんだ。ここまでくるともう言い逃れ出来ねぇ。
とうとう身内の車まで出てきたかぁと俺は呑気に感心したよ――そのときは。
それから数日後のことだったかな。
マサシは亡くなった。お前も葬儀には参列したから知ってるだろ?
マサシは走り屋連中と仲良く走っているときに、山道でガードレールに衝突して死んだのは。
即死だったらしい。
でも、ある意味マサシにとっては良かったのかもしれないな。苦しまずに死ねたんだから。
でも俺はそれを聞いたとき、俺は心底恐怖したよ。
俺の夢に出てくる車――前々から妙な既視感があったんだ。
信じたくはなかったがな、俺は急いでネットを調べた。
そしたら見事にビンゴ。俺は自分の推測が確信に変わるのを感じたよ。
そう、俺の夢に出てくる車はみんな事故車だ。
そして、その車の乗客は皆例外なく死んでいる。
一人の例外もなく……な。
ここ最近の事故車をネットで調べたときはたまげたよ。全部夢の中で見たことがあるんだからな。
ここまでの前置きを聞いてくれてありがとう。そろそろ本題に入らせてもらおう。
ん? これが話したかった変な夢なんじゃないかって?
これもまぁ確かに変な夢だが、結局のところ俺に実害はないだろう?
この日本だって毎日交通事故で誰かしらは亡くなっている。その見知らぬ誰かが亡くなったところで俺に何か影響があるわけじゃない。
気の毒だとは思うがな。
最近変な夢を見たんだ。
今までも変だったが、今回は一段とおかしい。
俺はいつものように駐車場で目覚めた。だが、いつもと違ったんだよ。
俺は知らない車の中で目を覚ましたんだ。
一瞬焦ったが、まぁこういうこともあるかって思ってな。一旦外に出ることにしたんだ。
幸い、鍵がかかってなくてな直ぐに外に出ることが出来たよ。
どうやら、外からじゃダメだが中からだといけるらしい。
そして外に出た俺は恐ろしいものを見ちまったんだよ。
それはな。
地平線の果てまであるんじゃないかってくらいの無数の車だった。
恐ろしいことに日本車ばかりじゃなくて外国産の車もあったよ。
左ハンドルだったし、日本では発売されてないようなやつだったからな。
中には今の日本じゃ滅多にお目にかかれないオンボロの旧車もあったよ。きっと、発展途上国に売り下げられたものだろう。
そうだ、駐車場には日本を問わず世界各地の車が所狭しと並んでいたんだ。
それと1つ思い出したことがあるんだ。
その夢の中でオレが乗っていた車――俺の弟が乗っていた車なんだよ。
アイツ、滅多に帰ってこないからすっかり忘れちまってた。
なぁ…………
お前はこれから一体何が起きると思う?
夢の中の駐車場 不労つぴ @huroutsupi666
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