🔥第1章 第5話:熱血は届くのか

──熱意だけでは届かない、現実との向き合い


昼休みの昇降口前。

人の流れは速い。スマホを見ながら、目的地に向かって歩く生徒たちの群れ。

その中に、俺の声はあった。


「俺は! 陣内颯太! 生徒会長に立候補してるッ!」


一歩、前へ。

深呼吸。

声を張る。拳を握る。


「今の生徒会には、“顔”が見えない! 会議の中で決まることばかりで、現場の声が届かない!

俺は、それを変えたい! 話せる生徒会にしたいんだ!」


──沈黙。


思ったよりも、誰も立ち止まらなかった。


一瞬だけこっちを見た女子が、友達と顔を見合わせて笑った。

遠くで、「またあいつかよ」って呟いた男子の声が、耳に残る。


俺は、息をのんだ。

でも、止まらなかった。

止まりたくなかった。


「熱意があるだけじゃ、何も変わらないって、わかってる! でも、何も言わなかったら、それでいいのか!?

お前らが黙ってたら、この学校は、いつまでも変わんねえままだぞ!」


誰も、振り向かない。


少し離れた柱の陰で、メティスが接続された端末が、淡い光を放っていた。


『解析結果:演説中の平均注目時間、1.8秒。通行者の68%が“音量過多”と判断。』

『Skulink上で「うるさい」「またかよ」というポストが増加しています。』


「……言うなよ、そんな冷静に」


『失礼しました。ですが、対面演説は戦術として非効率である可能性が高く──』


「俺は、“効率”でやってるんじゃねぇんだよ」


少し、声が荒くなった。

でも、どこかでわかっていた。

メティスの言っていることが、正しいってことも。


熱血は、うざい。

声を張れば届く時代は、終わった。


『提案:Skulinkを使った短文ポストによる“共感誘導型アプローチ”を併用してみては?』


「……それって、心が動くのか?」


『“心を動かしたかのように感じる”ことは可能です。』


……それは、動いたことになるのか?


俺は、自分の演説の録音を聞き返した。

ガラガラの声。汗だくの顔。語尾の震え。

「必死だな」と、自分でも思う。


でも、

“必死なだけ”では、響かない。


それが、今の時代なんだ。

情報は秒速で流れて、感情は短文で処理される。

熱血は、重い。面倒くさい。スキップされる。


それでも。


「やるしかないだろ、メティス。俺は俺のやり方で、戦うしかないんだよ」


『了解。“あなたのやり方”を分析・補完し、最大限に引き出す戦術を構築します。』


「お前、変なやつだな」


『よく言われます。旧型ですので。』


思わず、笑った。


届かない。でも、

諦める理由には、ならなかった。


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