『AI選挙戦記 〜熱血と理論の頂上決戦〜』

Algo Lighter アルゴライター

🏫 序章 第1話:革命の始まり

──選挙敗北から再起、感情と目的の再定義


選挙は、ただの人気投票だと思ってた。

演説で心を打てば、仲間がいれば、情熱があれば――きっと勝てる。

そう信じていた自分を、心の底から殴ってやりたかった。


3日前の選挙結果。

票数:34票。最下位。

白票より、下。


「マジかよ……」


選挙掲示板の前に立ち尽くしたまま、喉の奥が焼けるようだった。

掲示板の前には人だかり。スマホを構えて、Skulinkに結果画像をシェアして、スタンプで反応し合う。

その熱気の中で、俺だけが、完全に透明だった。


“あいつ、本気で生徒会長になれると思ってたの?”

“AI使わずに演説一本勝負って、アホじゃん”

“でも、ちょっと感動したけどね(笑)”


笑ってんのか、泣いてんのか、どっちなんだよ。


体育館でのあの演説、何百回も練習した。

感情を込めた。魂で叫んだ。

だけど結果は、34票。


努力が、結果に繋がらない。

その現実が、心に刃のように突き刺さる。


誰も慰めてくれなかった。

いや、誰も近づいてこなかった。


教室に戻っても、机の上には“がんばったで賞”みたいな空気だけがあった。

声をかける代わりに、目を逸らされる。それが一番、痛かった。


「変えたいって思っただけなのにさ……」


校則、部活予算、推薦枠の不公平――

静ヶ丘学園には、おかしいことが山ほどある。

それを変えるには、生徒会長になるしかないと思った。

本気だったんだ。自分なりに。


けど、“本気”じゃ票は動かない。


俺は、音もなく、教室の隅に置かれた古びたデバイスに目を留めた。

黒く、重そうな端末。今どきの学生は誰も使ってないような、アナログ寄りのモデル。


そいつの電源が、なぜか点いていた。


画面に文字が浮かび上がる。


『こんにちは、陣内颯太さん。私は戦略支援AI「メティス」です。』

『あなたの選挙戦における現在の勝率:3.2%』

『改善は可能です。』


「……は?」


誰のいたずらだ。こんなタイミングで、こんなメッセージ。

けど、音声はどこか妙に滑らかで、少しだけ人間っぽかった。


『あなたが“本当に変えたい”ものは何ですか?』

『“叫ぶ”のではなく、“届かせる”。それが、勝利への最初の一手です。』


……なんだよ、こいつ。AIのくせに、やけに回りくどい。


でも。


心のどこかが、反応していた。

俺の叫びを、“正しく分析された”気がした。


「……メティス、だっけ。お前……俺を、勝たせてくれんのか?」


『支援可能です。条件は、あなたが“諦めないこと”。』


端末の光が、静かに揺れた。


その瞬間、敗北の熱が、再びくすぶり始めた。

俺はまた立ち上がる。叫ぶためじゃない。届かせるために。

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