貴方を好きだと、気づいても
@gobou-zyagaimo
一目惚れ
小学校の入学式だったと思います。私が初めての慣れない場所で、緊張して泣きそうになっていたとき、同じような顔をしている貴方を見つけました。知っている人が一人もいなく心細かった私は、私と同じような様子だった貴方にを見て酷く安心したことを覚えています。
入学式の間ずっと貴方を見ていました。なんか、言葉にすると少し気持ち悪くなってしまいますね。しかし、その時の安心感を当時6歳だった私は勘違いしてしまったのか、それが恋愛感情だと思ったのです。
貴方と話し始めたのは、小学1年生も2学期の終わりになった頃でした。席替えで隣になった貴方は、あの時の緊張した顔からは嘘のような明るい顔で話しかけてくれましたよね。
「よろしく!」
私は緊張していて、それに対して何を答えたのか覚えていないのです。こんな状況のシミュレーションはそれまでに何回もしてきたというのに、恥ずかしい限りです。まぁ、そんなこんなで私たちの記念すべき初会話は締まらない形で終わりました。貴方は覚えていますかね。
隣の席になって少しずつしゃべることができるようになりました。そのたびに、妙な心地よさを感じ入学式で感じた、あの気持ちはより強くなっていきました。また、子供ながらに運命ってこのことなんだと思ったりもしました。女の子はそういうものに憧れるものなのです。
一年生が終わるころには、私たちの仲は随分よくなりましたよね。好きなテレビの話をしたり、一緒に公園で遊んだりしましたよね。いつか私たちは付き合うんだなんてことも考えました。
小学校6年間を通してそんな関係が続いたことは奇跡に近かったと思います。きっと、普通だったら思春期に異性同士で遊ぶなんて考えられないでしょう。そのことが、私の勘違いを進行させてしまったのです。
そして、私は中学校に入学しました。貴方と同じ中学校でこれからも楽しい時間が過ごせることを心からうれしく思いました。そして、中学校の卒業式まで貴方に告白されなければ自分から…、なんてことを想像していました。貴方は少し、臆病なところがありましたからね。
中学2年の夏でした、変化があったのは。貴方が私に相談してきたのです。
「好きな人ができたんだけど…。」
私は、とても驚きましたよ。貴方との付き合いも長かったですから、声色で私ではないことは早々に気が付きました。すごいショックでした。
「そ、そうなんだ。ど、どんな人なの?」
あの時、そう口にできた私を私はここから先ずっと誇りに思います。そこから貴方は、満面の笑みでその子のことを教えてくれましたね。私は全然知らない人でしたが、とても良い子であることは伝わりました。
笑顔がかわいくて、勉強もできて、おしゃべりも上手で、一緒にいて楽しい人。それは、私じゃだめでしたか?私だって、告白されることも多かったんですよ?貴方がいっていたような理由とともに。貴方のために振っていたのです。
貴方に相談されるたびに、私は知らないその子のことを知っていきました。その子も貴方のことが好きだ、ということも。まぁ、気づいても言いませんでしたが。
好きな人の好きな人が、どんな人なのかを好きな人から聞くという時間がどれほど苦痛だったか貴方は知らないでしょう。
中学三年生、卒業式前日。貴方は私に言いましたね。
「俺、告白するよ。今まで相談に乗ってくれてありがとう。本当に感謝してる。」
貴方は、決意のこもったたくましい顔でそう言ったのです。かっこよくなったな。なんて、思いました。貴方は私と同じように卒業式に告白するという選択をとりました。あぁ、つらいなぁ。そう、思いました。
卒業式が終わって、高校は貴方とは違うので最後に挨拶でもしようかと探していたとき、ふと見えてしまったのです。貴方が女子生徒と校舎の裏に行くのが。私、貴方の告白シーンを、見たのです。
「お、俺、君の笑顔とか、部活とか勉強に取り組む姿勢とか、あ、あと…。」
「うん。」
「えっと、君の全部が好きです。付き合ってください!」
返事は聞きませんでした。いや、聞けませんでした。貴方の緊張したその顔を見たら私が好きになったあの顔を思い出してしまったから。好きだということを思い出してしまったから。せっかく、忘れようとしていたのに。
これが結末なら、運命だなんて知りたくありませんでした。未来なんて、知りたくありませんでした。あの、運命だと思ったあの時が永遠に続けばよかったのです。貴方への想いなんて捨ててしまえればよかったのです。好きな人の好きな人がいない世界だったらよかったのです。
どんなことを思っても、願っても私は彼が好きです。この運命は変えることなんてできません。だから、せめてどうか貴方が貴方の好きな人と幸せになることをねがっています。それが、私でなくとも。
貴方を好きだと、気づいても @gobou-zyagaimo
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