デーミウールゲイン族の罪

 デーミウールゲイン族は人類の祖と言われるほど、人類に酷似し、旧人として扱われることもある。


 人類と異なるのは頭上に輝く炎輪と呼ばれる光輪だけだが、ほとんどの種族はこれを視認することができない。


 生命力の輝きを見ることのできたフェリハも見えなかったらしいが、炎輪のことを知っていれば、個人を特定することも可能だったのだ。彼らの炎輪は個人差があり、ミラのそれは側頭部の上にある部分だけが翼のように伸びている。


 デーミウールゲイン族は神々の戦争に参加しなかった神の末裔であり、その力は受肉化した後でも失われることはなかったという。彼らは世界の根源を知ることに情熱を傾け、やがて妙な力が集中する特異点を発見し、そこに居を構えた。


「大荒廃地の中心にある『黒子ヘイツ』と呼ばれる場所がそれじゃ。もっとも、当時は緑溢れる平原だったそうじゃがな」


「少し話が見えてきたぞ。緑の平原を塩の荒野に変えたのが、ミラのご先祖さまだったというわけだ」


「話を先取りするでない! まったくあの話を最後まで聞けんのか?」


「悪い悪い。先を続けてくれ」


「ふん。いわれずとも語ってやるわ。あるときのことじゃ、あの先祖は別世界に通じる扉を見つけてしまったのじゃ。その扉は固く閉ざされておったのじゃが、そうなると開けたくなるのが人情というものよ。じゃがの、扉の先は地獄よりも恐ろしい場所じゃったのじゃ。二十六次元世界の彼方にあったもの、それは『無』じゃ」


 無というものの禍々しい響きに臆するという感情を母親の胎内に捨ててきたかのようなバルでさえも息を呑み、大きな喉仏が上下に動いた。


「無と繋がっていたのは、一秒の数万分の一というごく短い時間じゃったそうじゃ。それでもこれだけのものが持って行かれたのじゃ。以降、この地は時間も空間もゆがみ、この世界から隔絶した場所になったわけじゃが、あの一族が精魂込めて造りだした『黒子』だけはその被害を免れることができた。つまりこの『黒子』の内部だけは大荒廃地の影響を受けぬわけよ」


「なるほどと納得したいところだがな、一つ疑問が生じるな。その『黒子』にはどうやって行くんだ? 歩いて行けるはずもないから、別の移動手段があると考えていいのか?」


「その通りじゃ。それがここよ」


 ミラは木の枝を動かして、大荒廃地の外縁に位置するある一点を突いた。そこは二人が潜んでいる森のすぐ近くにあり、徒歩でも半日かからぬ場所にある。


「ここに何かあるのか?」


「『黒子』への転送装置がある。実際あも見たわけではないから、確信は持てないが、だいたいこのあたりじゃったと思う」


「また頼りないな」


「この際、正確な場所はどうでもいいのじゃ。監視役を捕まえて、聞き出せばよいのじゃからな。そして、その監視役はこの森を必ず通るはずじゃ。姿を隠していけるほうがやつらにも好都合じゃろう?」


「そうかもしれんが、すでに通過した可能性もあるんじゃないのか?」


「ない。これだけ人間が集中して住んでいる場所に、昼間からやつらが姿を現すような危険を冒すものか。勇者の入城を確認した後、必ず夜を待って動くはずじゃ」


「後はおれたちの姿がないのを不審に思ってくれなければいいんだが」


「それは考えても仕方のないことよ。なので、バル、抱っこ」


「はあ? 何いってんだ、おめえは?」


「夜まで退屈だから寝る。バルはあの寝台になれ」


「……重戦車から寝台に格下げですか?」


 あまりの凋落っぷりに涙が出そうになったが、バルは命令通りミラを抱きかかえた。そのとたんにミラは寝入ったらしく、やすらかな寝息を立てていた。


 気楽なものだとバルは内心で毒づく一方で、ミラが全面的な信頼を寄せてくれることに父性愛にも似た感情を抱き、どうしても守ってやろうなどと思ってしまうのだ。


 そして、そのことを自覚して、バルは赤面するのだった。

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