第4話:勇者様の秘密?(表)
(……「なずな」という名に聞き覚えはないか、かー……。……ないな!
とはいえ、ストレートに「いいえ」って返しても、いや、何かないか。こっちに聞いてる、ってことはおれがその名前に聞き覚えがあってしかるべき、ということなんだろうけど……)
「……うーん、さすがに無いかー。……じゃあ、質問を変えようか。……君にとって、最も大切なもの、って、何だい?」
「!」
(落ち着け、ここで「魔法陣グルグル」つったら、最悪、転生者ってことがバレる。いや、転生者であることがバレるならまだいいんだけど、そんな、存在しないであろう書物のことを言っても奇っ怪な顔をされるだけだ、こ、ここは一つ……)
「そ、そーですねー……。や、やはり自分の存在でしょーかー……」
(うん、間違ってない。間違ってないぞ。うん)
「ふぅん……。まあいいか。まあ、そういうわけで、踊ろうか」
「は、はい!」
(……踊るって、どうやるんだ?)
「わたしの故郷の踊りなんだけどね……」
「は、はい。どうぞお教え下さいな」
「うん、こう、腰をひねって……」
「は、はい!」
「手をカマキリのようにとがらせて……」
「こ、こうですか?」
「うん、それで手を上下左右に動かしながら、腰で円を描くように……」
「は、はい……!?」
(って、これって! これって! これってー!?)
「うん、君筋がいいね。どこかでこの踊りを見聞したことがあるのかい?」
「ゆ、勇者様の教え方がいいからじゃないでしょうか?」
(これ、『キタキタ踊り』じゃねーか!?)
「おやおや、勇者様と姫が踊っておいでだ」
「見たことの無い踊りじゃのう、どこの踊りだ」
「なんでも、勇者様の故郷の踊りだとか」
「ほっほう、それにしても優雅じゃのう」
……元来、その踊りは「女人が踊る踊り」であった。どこかの中年男性がある程度改変したりしてしまったという経緯があるが、そもそも伝統では女人が踊る、見世物にしたらたちまち町が大繁盛した程度には、優雅で美麗な踊りである、はずであった。……当然ながら、その踊りを中年男性が踊ってしまったから、失笑を買うような扱いであっただけで、それを正しく、そして本来の見目麗しく若い女性が踊ったならば、当然ながら美しく耳目には映るものである。
「どうかな、何か、思い出しそうかな」
踊りながら、割と余裕の態度である勇者に対して、姫は。
「…………勇者様」
……息も絶え絶え、元来体つきが丈夫では無かったのか、完全に疲れ始めていた。
「ん? どうした?」
「苗字って、何でしょうか?」
(っていうか、大体もう見当つくけどな! とはいえ、一応、聞いておこう。これで的外れだったら、正直おれもどうしようもない)
「苗字? ……うーん、わたしの家名のことかな?」
「は、はい!」
「……それを言ってしまうと、君との楽しみが一つ減るから、内緒にさせて貰ってもいいかな」
「ど、どういう意味でしょうか?」
「……まあ、そういうことで。ちょっと、疲れさせちゃったかな。随分、息が荒いよ?」
「え、ええ、その、あまり、体とか丈夫じゃなくて……」
「うーん、なら、少し座ろうか」
「……はい」
(あー、いかん。めまいとかしてきた。)
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