五時まで、あとどれほど残っているのか。遠ざかる意識を引き戻しながら、ただじっと待ち続けた。

 時間が過ぎても、店の外観に変化はなかった。落ち着いてくると、徐々に疑念が浮かぶ。
冷静になればなるほど、ばかげた話に思えてくる。

 支払いはまだだとしても、何も起きなければ、この数日間は無駄足だったことになる。

 苛立ちよりも、疲労が勝っていた。それでも翔也は、そこを動かなかった。


 やがて、五時になる。翔也は立ち上がり、ゆっくりと深呼吸をひとつする。

 落ち着ききれない気持ちを宥めながら、店の扉に手をかけた。

 中では、シラサギが変わらぬ姿勢で座っていた。どこにも、美湖の姿はなかった。

 やはり、そういうことだったのか。期待するだけ無駄だった。

 子どものたわむれに巻き込まれたようなものだ。自分がただの間抜けに思えてきた。


 そのとき、シラサギが静かに口を開いた。

「美湖さんとコンタクトが取れました。交渉の場は整っています」

「え? 美湖が……?」

「はい。奥の部屋で待ってもらっています。伊勢木さんは彼女に会ってから二十分しかいられませんので、ご注意ください」

「奥の部屋……?」

 視線を巡らせると、カウンターの奥に古びた木の扉が見えた。いつからそこにあったのか。今まで気にも留めていなかった。
取っ手の金具が微かに光を返し、存在を訴えていた。


 シラサギは無言のまま立ち上がり、カウンターの端に手をかける。天板を滑らせるように持ち上げると、その奥へと進める隙間が現れた。

「奥の部屋に砂時計があります。それが時間の目印になります」

 砂時計? 目印?

「砂がすべて落ちる前に、必ずこちらへ戻ってきてください」

「……戻らなかったら、どうなる?」

「死にます」

 短い返答に、翔也は息を詰めた。
ルールブックに記されていなかった話が、今さら出てくる。
不信感がにじんだが、問い詰めるだけ無駄だと直感で悟った。

「中には丸椅子があります。伊勢木さんは手前側に座ってください」

「……わかった」

「では、中へお入りください。二十分のカウントを始めます」

 翔也は大きく息を吸い、気持ちを整えた。

 美湖がいる。きちんと話さなければならない。


 そう自分に言い聞かせながら、シラサギの横を通り過ぎ、扉の前に立つ。取っ手に手をかけ、扉を開けた。

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