平凡な俺が【徳】を積んだら、なぜかSSS級美少女たちに溺愛されてる件 〜善行ボーナスは好感度MAXらしい〜
鈴原寧々
第1話平凡な俺と非日常の始まり
「ふぅ……よし、今日も一日、人知れず徳積み完了」
誰もいない放課後の教室。俺、佐藤和真(さとう かずま)は、窓から差し込むオレンジ色の光の中で、誰にも見られないように小さくガッツポーズをした。今日のノルマは、うたた寝していたクラスメイトの女子が落とした消しゴムをそっと机の端に置いておくことと、風で飛ばされそうになっていた中庭の花壇への水やり当番表を、画鋲でしっかり留め直すこと。実に地味で、誰にも感謝されることのない行為だ。
俺には物心ついた頃から、ちょっと変わった体質がある。まるでゲームみたいに、「良いこと」――どんなに些細なことでも――をすると、脳内に微かに《ピコン♪》という軽い効果音が響いて、《徳ポイント》なるものが貯まっていくのだ。理由は全く知らないし、誰かに話したこともない。俺だけの、ささやかな秘密。
ポイントが貯まったからといって、人生が一変するような劇的な幸運が舞い込むわけじゃない。たまに自販機で当たりが出たり、赤信号に引っかからずにスムーズに横断できたり、そういう「ちょっと嬉しいこと」が起きる程度。だから、これを何かに利用しようとか、そういう野心は全くなかった。ただ、息をするように、歯を磨くように、なんとなく続けている習慣だ。
「ま、自己満足みたいなもんだけどな。悪いことしてるわけじゃないし」
鞄を肩にかけ、誰もいない教室のドアを静かに閉める。「さて、さっさと帰って、昨日録画した深夜アニメの続きでも見るか」なんて考えながら廊下を歩き始めた、その時だった。
前方に、明らかにこの平凡な廊下には不釣り合いな、キラキラとしたオーラを放つ三人組の姿が見えた。
中心にいるのは、高嶺 華(たかね はな)。艶やかな黒髪を揺らし、モデルのような立ち姿で、その名の通り、まさに高嶺の花。成績は常にトップクラスで、近寄りがたいほどの気品を漂わせている。普段の俺なら、視界に入れることすら躊躇うレベルの完璧美少女だ。
その隣には、太陽みたいな笑顔が眩しい天海 陽菜(あまみ ひな)。少し色素の薄い髪をポニーテールにしていて、快活な雰囲気が全身から溢れている。運動神経抜群で、誰にでも分け隔てなく接するコミュ力お化け。クラスのムードメーカー的存在で、当然男子からの人気も絶大だ。
そして、二人の少し後ろを、影のように静かに歩いているのが氷室 玲奈(ひむろ れいな)。腰まであるストレートの黒髪と、人形のように整った顔立ちを持つクールビューティー。口数は少ないが、時折見せる鋭い視線が印象的で、ミステリアスな魅力がある。
学年でもSSS級と噂される美少女トリオ。どう考えても、俺みたいなモブキャラとは接点があるはずもない。いつもなら、彼女たちのオーラに気圧されて、そっと壁際に寄って通り過ぎるのを待つところだ。
ところが、今日は違った。なぜか、彼女たちは俺の目の前でぴたりと足を止めたのだ。
「あ、佐藤くん」
最初に声をかけてきたのは、意外にも高嶺さんだった。え、俺? 今、俺の名前呼ばれた? 俺、高嶺さんとまともに話したことなんて、あったっけ?
混乱する俺をよそに、高嶺さんは少しだけ表情を和らげると、手に持っていたノートを差し出してきた。
「これ、今日の現代文のノート。佐藤くん、昨日の放課後、少し咳をしていたみたいだったから…。もしよかったら、参考にして」
「え、あ、はい…?」
差し出されたノートには、まるで印刷されたかのように美しい文字が並んでいる。ってか、俺が咳してたの、見てたの? 全然気づかなかった…。
俺が戸惑っていると、今度は隣から元気な声が飛んできた。
「かずくん! さっき購買で、今日限定入荷の『幻のプレミアムメロンパン』、ラスイチでゲットしたんだけど、よかったら半分こしない?」
天海さんが、満面の笑みでメロンパンの袋を掲げて見せる。かずくん、って…俺、そんな風に呼ばれたことあったか? しかも、幻のメロンパン? 断る理由が見当たらないけど、なんで俺に?
「え、いいの? でも…」
「いーのいーの! かずくん、いつもクラス委員の仕事とか、地味なこと真面目にやってるじゃん? そのお礼!」
お礼…? 俺が委員の仕事してるのって、そんなに目立つことじゃないはずだけど…。
思考が追いつかないうちに、最後に残った氷室さんが、すっと俺の前に一歩近づいた。ひんやりとした、それでいてなぜかドキリとするような視線が俺を捉える。
「…佐藤。貴様、顔色が優れないな。無理は禁物だ。保健室まで付き添ってやろうか?」
貴様呼ばわりは平常運転(?)だとしても、その内容は心配してくれている…のか? 氷室さんはおもむろに手を伸ばし、俺の額に触れようとしてくる。
ひっ…! ち、近い! サラサラの黒髪から、シャンプーのいい匂いが…!
「だ、大丈夫! もう全然元気だから! 心配ありがとう、氷室さん!」
慌てて半歩下がりながら答えると、氷室さんは少しだけ不満そうに眉を寄せた…ように見えた。気のせいか?
高嶺さんの完璧なノート、天海さんの貴重なメロンパン、氷室さんの(ちょっと過保護な?)心配。どれもこれも、普段の俺からは考えられない厚意だ。
「あ、ありがとう、高嶺さん、ノート助かるよ。天海さん、メロンパン、じゃあお言葉に甘えて…。氷室さん、心配してくれてありがとう。本当に大丈夫だから」
しどろもどろになりながらもお礼を言うと、なぜか三人とも、ふわりと頬を赤らめたり、嬉しそうにはにかんだりしている。特に高嶺さんなんて、いつもは完璧な表情を崩さないのに、今は心なしか柔らかい微笑みを浮かべているような…。
(なんなんだ、今日…? みんな妙に優しい気がする。集団幻覚か?)
俺はまだ知らない。ここ最近、日々の小さな善行によって貯まりに貯まった《徳ポイント》が、ついに規定値を超え、バグレベルの特殊ボーナス――『好感度向上(特大)』――が発動してしまっていることを。
平凡で、目立たず、その他大勢のはずだった俺の日常が、この瞬間から、甘くて、ドタバタで、そして少し不思議な、非日常ラブコメへと舵を切ったことを。
脳内に響く《ピコン♪》という音が、今日はなんだか、いつもより少しだけ大きく聞こえた気がした。
平凡な俺が【徳】を積んだら、なぜかSSS級美少女たちに溺愛されてる件 〜善行ボーナスは好感度MAXらしい〜 鈴原寧々 @covet
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