【異星人外交官】ケガキ

ロックホッパー

 

【異星人外交官】ケガキ

                          -修.


 「所長、新しい異星船を補足しました。この速度だと、あと1時間程で到着します。」

 銀河連邦のエージェントとして最初の異星人が地球に来訪して以来、毎年のように次々と新たな異星人が表敬訪問するようになった。このため、地球政府は宇宙港に異星人専門の外交機関を設置した。

 最初の異星人は長い時間をかけて地球の言語を研究し、公用語で、しかも通常の電波で通信してきた。しかし、それに続いて来訪する異星人達はお構いなしに自分たちの言語とコミュニケーション手段で話かけてきた。その手段は音声以外にも、電磁波、重力波、映像パターンなど多様を極めた。

 このため、この外交機関は、異星人を出迎えるよりも、むしろ言語とコミュニケーション手段の解析が主なミッションとなっていた。

 「そうか。今度の異星人はどんな手段で会話をしてくるのだろうか。分かり易いものならいいが・・」

 今まで想像を超えるコミュニケーション手段に対応してきた所長はため息混じりに呟いた。


 約1時間後、宇宙船が宇宙港の発着床に静かに着陸した。

 「大きいな。サイズはどのくらいだ。」

 所長は発着床のモニターを見ながら部下に尋ねた。

 「縦横300mくらいですね。発着床は縦横500mなのでかなり埋まった感じになっています。管制塔の上からの画像を見てください。形状も少し変わっていますよ。」

 通常、異星人の宇宙船はいわゆる円盤型とか、ひしゃげた卵型とか、全体的に塊状になっているものが多かったが、今、着陸した宇宙船には前後にアームのような突起物があった。

 「あの腕みたいなものは何だろうな。」

 「謎ですね。クレーンとか、何か工事用の機械ですかね・・・。あるいは飛行機のタラップみたいなものとか・・・。」


 二人が話していると、宇宙船に動きがあった。宇宙船の前側の腕がゆっくり左右に動き出したのだ。

 「異星人が降りてくるのか。それとも別の何かが始まるのか・・・」

 「所長、見てください。発着床に傷跡が付いています・・・・」

 所長が再び管制塔の上からの画像を見ると、腕の動いた後に沿って、発着床に数本の線が引かれていた。

 「発着床は超合金製でかなりの硬度なはずだ。よく傷が付けられたな。」

 所長の言う通り、発着床は異星人の未知の宇宙船の発着に耐えられるよう、可能な限り頑丈に、かつ硬く作られていた。

 「まるでケガキ線のようだ。何か工作でも始めるつもりか。いやいや、感心している場合ではないな。あの傷跡の模様に何か意味があるのではないか。解析は開始しているか。」

 「はい、所長。コンピューターでリアル解析していますが、今のところ意味は見いだせていないですね。それと、腕が動く際、可聴域以下の低周波の音波が出ているようです。こちらも解析していますが意味不明です。ただのモーター音かも知れません。」

 「うむ、異星人が出てこないところをみると、あの傷跡がコミュニケーション手段の可能性が高いな。引き続き、解析を続けてくれ。」

 話している間にも、腕は動き続け、発着床には傷跡が増え続けていた。


 「所長、緊急事態です。新たな異星船を探知しました。今度はもっと大きいです。」

 「なんだって。同時に2隻来訪するということか・・・」

 「そうなりますね。今度の船は大きさが3000m超えています。過去最大級ですね。」

 「発着床には行動不明の異星船が着陸しているからな。どこか宇宙港の外に着陸してくれればいいが・・・」


 二人が話していると、突然、通常電波で交信が入った。

 「皆様、うちのたまが粗相をいたしまして申し訳ありません。」

 二人は顔を見合わせた。

 「これはなんだ。どこからの通信だ。」

 「発信源は上空の異星船です。」

 「なんだと。『たまが粗相』と聞こえたが何のことだ・・・」

 異星船からの通信は続いた。

 「少し目を離したすきに、リードが外れていまして、そちらの宇宙港で爪とぎをしてしまいました。お許しください。あとで修理しますので・・・」


 「ん、『爪とぎ』だって?」

 所長はだんだん会話の意味が呑み込めてきたようだった。

 「もしや『たま』とは猫のことか。」

 「所長、先方の翻訳機が異星人の言葉を、最も近い地球の言葉に置き替えているのではないでしょうか。だとすると、我々の目の前に着陸している異星船が『たま』と呼ばれた異星人のペットで、発着床で『ごろごろ』言いながらご機嫌に爪とぎをしているということですかね。」

 「・・・・・」

 所長は言葉をつなぐことができなった。上空の異星船からの通信は続いた。

 「それでは連れて帰ります。ご迷惑をおかけしました。」

 上空の異星船から発着床の『たま』にビームが伸び、『たま』は上空に引き上げられていった。『たま』と呼ばれた宇宙船は、心なしか発着床を名残惜しそうにしているように見えた。


おしまい

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