何を以て運命とするか?

@Iwannacry

第1話


「新しい使い様の事なんじゃが………対応をお前に一任することになった。」


 一応上司にあたる彼に言われ、私は内心顔を顰めた。

 神の使い。40年から50年程度の周期でこの地、とくに降聖教会のだだっ広い建物内に現れる。

 大抵の場合、使いの仕事は各地の浄化である。いつ現れいつ死ぬかも分からない神の使いにばかり頼ってはならないのが浄化の仕事であるが、どうしても頼らざるを得ない理由も存在する。まあ、ただ単に神の使いでなければ浄化できない特殊な汚染結晶が存在するからだ。根本から汚染を絶つためには、私たち地に生きる民の力では足りない。悲しいことだ。



 しかし、本来なら教会の偉い偉い人が囲うような高貴な方のはずだ。なぜ私にお鉢が回ってくるのか。

 ……心当たりがないわけではないが。

 噂。ただの噂であるが……今までの使いとは全く違う使いらしい。

 数日前神の使いが現れたとき、教会はそれはそれは上から下まで全て大騒ぎになったそうだ。

 当日私は別の仕事があったため、その騒ぎはあとから聞いた話だ。それが、私に対応を一任された理由だと考えたほうがいいだろう。


 上司から向かえと言われた部屋まで歩き、軽く扉を叩いた。すると私が口を開く前に、「どうぞ?自分じゃ開けられないから好きに入ってよ」と男の声がした。

 私は言おうとしていた挨拶を崩された事に動揺しながらも、そのまま従ったほうがいいと判断し、扉を開けた。

「失礼します。」

 ドアを開けた先には、とりあえず壁まで寄せられた会議用の机、そして椅子。

 それと部屋の中央に、拘束衣を着せられ、椅子に座らされた男が1人。


 ああ、それでか。と理解した。

 彼の髪も、目も、肌も異様な色をしているのだ。

 今までの神の使いは、多少差はあれど私たちのような黒い髪に黒い目、そして私たちより幾分か明るい、例えるなら木の板のような肌をしていたらしい。それは神が、私たちが怖がらないように、それでいて見分けがつきやすいように、使いをそういう形にしたと伝えられている。しかし彼はどうだ。

 雨季の後咲く花のように明るい紫の髪、地の向こうに沈む日のような輝く黄の瞳、磨いたコインのような白金の肌。どれを取っても異質そのもの。声を聞く限りは意思疎通ができそうなものだが。


「この度使い様のお傍につかせて頂くことになりました。名をロシロと申します。ご要望やご質問がありましたら、遠慮なくお申し付け下さい。」


 私が型にはまった挨拶をして深々と頭を下げると、「˚上げてよ、顔。₊˚」と言われた。その通りに上げると、黄の瞳が私を射貫く。


「⊹˚じゃあ、まず――――。.:・゚✧」




 今まで一応聖職者として、神の使いについての勉強はしてきたつもりだが、どうやらその勉強は効果的ではなかったようだ。

 拘束され放置されたことを気にも留めず、望むのは食事、寝床、それと本。

 浄化にも非常に協力的で、明るく節度のある性格。

 実に理想的な神の使いだ。ただ、他の聖職者に怯えられていることを除けば。

 周りからすれば、髪の色も瞳の色も薄い彼に怯えない私のほうが異質なのだろう。なんせ、あの汚染ははるか昔にある白い悪魔によってもたらされたとされているのだから。


「・゚*ロシロくん、ここ読み聞かせてよ。✦゜*」


 書庫から私が適当に持ってきた本を開いては、子どものように私を求める。


「……はじめに。降聖教会は地に生きる民を遍く救い、素晴らしい生を皆様が謳歌できるために教えを広めています。この書では―――」


 それから口が疲れるまで本を読み上げさせられた。

 これで満足するなら安いものだ。今までの神の使いは多くの美しい女性や存在しない金属など、難しい要求をしてくることもあったという。

 まあ殆どが従順な者ばかりだったようではあるが。

 しかし……こんな本を読み聞かせで聞いて、楽しいのだろうか?

 さらさらと砂が流れるように笑い、相槌を打つ彼の隣でただ望むまま本を読み続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る