静謐の獅子
衣十音きょう
第1話 袂を分かつ地球
2***年
地球の会議は行われた。
議題は、ここ数年人間の中に特殊な能力を持つ子供たちが生まれている事についてだった。
その子供たちは後に“Gene-typeN”
そう呼ばれる事となる。
「共存は難しいでしょうね」
「しかし、それでは我々は……」
その後の研究で、その子供たちが生まれる理由は
ある遺伝子が原因であることが分かったのだ。
その遺伝子を持つ親から、稀になんらかの能力を
持つ子どもが生まれるのだ。
しかし、その能力はあまりにも旧人のものと
かけ離れていた。
このままいけば、いつかはその力を持つ者たちが
旧人を支配してしまうだろう。
必ず旧人とのバランスは崩れてしまう。
旧人たちは話し合いの結果、その遺伝子を持つ
特殊な者たちを、別の惑星へと移住させる決断をした。
それは、半ば強引なものであった。
しかし、異端である以上、その決断は
飲み込まざるを得なかった。
その提示をされた時、もしもこの決定を
拒むようなことがあれば、その遺伝子を持つ全ての
人間を、淘汰せざるを得ないと言われたからだ。
まだその時は、それが分かって数年。多勢に無勢。
そして、その者たちは、泣く泣く地球を後にした。
第2の地球として用意されたのは
別の銀河の系外惑星系。
太陽と同じ恒星を中心とした、ハビタブルゾーンに
位置する星だった。
そこで1からの出直しをすることになったのだ。
まだなにもない荒野で、第2の地球の文明は
始まった。
そこから長い長い時間が過ぎ、今に至る。
そこでは、特殊な能力を持つものと、遺伝子はあるが特別な能力を持たないものとが共存していた。
「ねぇお母さん、第1地球って今滅びそうってニュースで見たけどなんで?」
「んー他の星に住んでる人達がね、その場所よこせってやってるからなのよ」
「えっじゃあ第2地球は?大丈夫なの?」
「ここは第1とも離れているし、謐と同じような能力のある人たちに守られてるからね」
第1地球は天の川銀河の辺鄙な所に位置していたが
近年、その近くに住まう異星人が攻撃を仕掛けていた。
それぞれの星も古くなり、資源も底をつけば
どうしても新しい場所へと移住を考える。
その矛先になっていたのだ。
しかし、第2地球はというと、幸いなことにその能力によって、自らの惑星を守る事が出来ていたのだ。
「は?第1地球からの要請ですか?」
「そうだ、実に虫のいい話ではあるが……」
そんな折、第1地球から第2地球へと
助けを求める要請が届いたのだ。
自分たちが追い出したその能力で、この第1地球を
救ってほしいと。そして、もしもの時は
そこに移住させてほしいと。
過去の長い歴史の中で、第2地球の人間たちが
それを快く思うはずはない。
あの時、半ば脅しのように追い出しておいて
そして、このなんにもない惑星に放り出し
その後なんの助けもしなかったいわゆる母星の
危機に、何故手など貸せただろう。
この惑星にたどり着いた先人たちの苦労の歴史は
ここに住む皆が知っていた。
そして、第1地球では叶わなかった、能力のある者
そしてない者の共存を見事にしていたのだから
遺恨がないはずはない。
「そんなの……捨て置けばいい話です」
「そうだな……そうなのだが、しかし」
第2地球は迷いの中にいた。
このまま、自分たちのルーツを見殺しにして
果たしてそれが正解なのかと。
例え、過去の身勝手な迫害もどきの事があったとしても彼らが居なければ今の自分たちもいない。
そして、それと同時に、彼らを助けなかったとして
第2地球への侵略や、攻撃をされないとも限らない。
さらには、あの時助けなかったという事実がのちに
今の自分たちのような恨みにも繋がる可能性がある。脈々と受け継がれてゆくその根強さを知っているのは他の誰あろう自分たちだ。
第2地球は、その長い迷いの中で
1つの決断をした。
「“Gene-typeN”を地球に?バカな!」
「これは致し方ない事だ。助けに行ったという事実はどちらの地球にも必要だ。人選は任せる。少なくていい」
苦渋の決断だった。
しかし、後に遺恨を残さない為には……という
この惑星のトップたちの言い分も理解はできた。
「…………分かりました」
補佐官はため息を付いた。
死にに行くことになるかもしれない人選を
自分たち補佐官に任せられたことに。
そして、その者たちを選ばなければならないことに。
今、1番強い力で能力を有している世代
16歳頃だろうか、と補佐官たちは毎日毎夜
話し合いが持たれた。そして選ばれたのは4人。
たったの4人だ。
しかし、大切なのは第2地球が第1地球を助ける為
助力したという事実。
「4人でいいのですか?」
「いいだろう。とりあえず先発隊とでも伝えておけばいい」
「何故この歳頃の子供たちを……」
「この年が1番多いんだよ、“Gene-typeN”の子供が。替えがきく」
そうして4人は選ばれた。
名誉でも不名誉でもない。
替えのきく形ばかりの人選で。
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